ビューティ
連載 ファッション業界人も知るべき今週のビューティ展望

ファッションメゾンがビューティで描く新戦略

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ビューティ賢者が最新の業界ニュースを斬る

ビューティ・インサイトは、「WWDJAPAN.com」のニュースを起点に識者が業界の展望を語る。今週は、ファッションメゾンが手掛けるビューティラインの話。(この記事は「WWDJAPAN」2025年9月8日号からの抜粋です)

PROFILE: 弓気田みずほ/ユジェット代表・美容コーディネーター

弓気田みずほ/ユジェット代表・美容コーディネーター
PROFILE: (ゆげた・みずほ)伊勢丹新宿本店化粧品バイヤーを経て独立。化粧品ブランドのショップ運営やプロモーション、顧客育成などのコンサルティング、企業セミナーや講演を行う。メディアでは化粧品選びの指南役として幅広く活動中

【賢者が選んだ注目ニュース】

近年、ファッションメゾンとビューティカテゴリーの関係は再び接近している。「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」が展開を本格化させた「ラ・ボーテ ルイ・ヴィトン(LA BEAUTE LOUIS VUITTON)」と、「エルメス(HERMES)」のフレグランスとビューティアイテムを集めた店舗「エルメス・イン・カラー(Hermes in Colors)」を拡大する動きが象徴的だ。両者はバッグやスモールレザーグッズで確固たる地位を築いてきたが、リップスティックのケースやポーチなど、レザーと親和性の高いアイテムを軸にビューティへと世界観をつなげている。従来の“手に取りやすいぜいたく”を超えて、メゾンのクリエイションそのものを体験する入り口としてビューティを位置づけているのだ。

「ライセンス型」「通貫型」の展開モデル

メゾンのビューティ展開には大きく二つのモデルがある。一つはライセンス型で、ビューティ企業がブランドのライセンスを受け、製品開発と流通を担う方式だ。ロレアル(L'OREAL)は「イヴ・サンローラン(YVES SAINT LAURENT)」「プラダ ビューティ(PRADA BEAUTY)」「アルマーニ ビューティ(ARMANI BEAUTY)」などを展開し、コティ(COTY)は「グッチ ビューティ(GUCCI BEAUTY)」「バーバリー ビューティ(BURBERRY BEAUTY)」などを扱う。ライセンス型はスピードとスケール感に強く、百貨店の化粧品フロアを通じて広く浸透を図ることができる。もう一つは通貫型で、メゾンを運営する企業がビューティまでを自社で統合・管理する方式だ。「シャネル(CHANEL)」が長年このスタイルを維持してきたほか、LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトンでファッションとビューティを総合的に展開する「ディオール(DIOR)」「ジバンシイ(GIVENCHY)」もこれに属する。「エルメス」や「ルイ・ヴィトン」、近年では「セリーヌ(CELINE)」も同じ流れにある。

「ライセンス型」の役割と限界

ファッションメゾンがビューティを展開する意図は一貫して、自らのブランドを広範な層に浸透させることだ。高価格なバッグやアパレルと比べ、フレグランスやメイクアップは手に取りやすく、消費者がブランドの世界観に触れる入り口として機能してきた。しかし従来型の枠組みには限界が見え始めている。百貨店の化粧品フロアに展開するライセンス型ブランドは、ブティックと切り離された存在になりやすく、世界観の分断を招くリスクがある。ライセンス型のモデルは長年スタンダードだったが、それゆえに分断が深まり、ビューティが独り歩きする状況が定着している。メイクアップからスキンケア、フレグランスまでを包括する総合ブランドとして、ファッションとは異なる戦略が求められるためだ。ライセンシーにとって有力メゾンのライセンスはメリットであり、流通拡張の好機となる。しかしメゾン側にとっては、ビューティが担うべき「ブランドの世界観を広げる役割」が希薄化する可能性がある。だからこそ近年、「ルイ・ヴィトン」や「エルメス」「セリーヌ」のように、自らビューティまでをコントロールし、統一感ある世界観を示そうとする動きが出てきたのではないか。

メゾン主導の「通貫型」売り場設計

百貨店の化粧品フロアや商業施設のテナントの同質化が進む中で、メゾン主導の売り場設計は差別化の武器になりつつある。ブティック内での展開はランウエイのテーマと連動した製品設計を行いやすく、体験の連続性が高いため、購買頻度や客単価を高めることが期待できる。

「ディオール」はビューティの直営店でサングラスや小物も取り扱うなど、包括的なブランド表現を模索しており、西武池袋本店のリニューアルではその姿勢がより鮮明になった。「セリーヌ」も同フロアでポップアップを構え、レザーグッズと併せてビューティを展開する独自性を見せている。こうしたブティック型ショップは、ブランドの世界観を強調する有効な方法といえる。また「エルメス」は9月、「エルメス・イン・カラー」という店舗を西武池袋本店やニュウマン高輪にオープンする。ブティックとビューティの展開をメゾン主導で設計することで、体験の一貫性を高めているのだ。

「ルイ・ヴィトン」が提示する顧客体験とは

こうした流れの中で登場する「ラ・ボーテ ルイ・ヴィトン」は、ブティックを中心にした展開が見込まれる。レザーグッズと同じ空間で提案することで、顧客はブランドの世界観を一貫して体験できる。レフィル式リップや専用ケース、トラベル用アクセサリーといった製品はバッグや小物と自然に組み合わさり、買う・使う・持ち歩くという行動を一つの体験にまとめていく。化粧品としてのクオリティーの高さだけではなく、ブランドとの接点を増やし、ファンとの関係を深める仕組みとして機能する。ビューティはメゾン全体の価値をさらに高める“世界観を伝え、体験できるメディア”の役割を担っているのだ。

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