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御殿場アウトレットの「圧倒的ブランドぞろえ」、その裏側とは? リーシング担当者に直撃

日本最大のアウトレットモールである御殿場プレミアム・アウトレットは7月13日で、開業25周年を迎えた。富士山の麓で年間1409億円(2025年3月期)を売り上げる同館は、アウトレットモールだけでなく、ショッピングモールとしても日本最大規模を誇る。「グッチ(GUCCI)」「バレンシアガ(BALENCIAGA)」といった高級ブランドから、「イッセイミヤケ」「ユナイテッドアローズ」「ビームス」などの国内有力ブランド、「ナイキ」「アディダス」などのスポーツ、静岡県の超人気ハンバーク店「さわやか」まで、超強力なブランド&店舗ラインアップで他のモールを圧倒してきた。こうした強さの源泉の一つが卓越したリーシング力だ。一体どのようにして人気ブランドを口説き落としているのか。リーシング部の担当者に聞いた。

PROFILE: 小野塚健/三菱地所・サイモン リーシング部マネージャー(左) 松野力/三菱地所・サイモン リーシング部ディレクター(右)と

小野塚健/三菱地所・サイモン リーシング部マネージャー(左) 松野力/三菱地所・サイモン リーシング部ディレクター(右)と
PROFILE: 左:(おのづか・けん)1991年6月生まれ。東京工業大学大学院社会理工学研究科修了。12〜16年にかけモデルとして活動。16年4月に三菱地所に入社し、商業施設運営事業部(アセットマネジメント業務)に入る。20年4月、新事業創造部(スタートアップ企業・ベンチャーキャピタル投資)を経て、23年から現職 右:(まつの・ちから)1974年9月生まれ。日本大学文理学部卒業。98年、サンエーインターナショナル入社後、営業・店舗開発を経験。2007年退社後、コーチ・ジャパンに入社し、ビジネスデベロップメントを手掛け、17年にフルラジャパンに移り、ビジネスデベロップメントとホールセールを担当。19年から現職 

リーシングというお仕事

WWDJAPAN(以下WWD):そもそもリーシングは、どんな仕事?

小野塚健リーシング部マネージャー(以下小野塚):一般的に“リーシング”とは、商業施設への出店誘致のことです。なのでリーシング部のスタッフはブランドに対し、アウトレット事業について説明したり、施設・区画について紹介しながら、「なぜこの場所にこのブランドが必要か」「『PO』出店のメリット」「出店後の売り上げ計画」といった提案をします。当社のような商業施設デベロッパーの場合はアセットマネージャーではなく、リーシング部が誘致テナントの選定・判断までできたり、契約締結後の店舗運営支援などまで担っていたりすることに特徴があります。

松野力リーシング部ディレクター(以下松野):三菱地所・サイモンのミッションは、「非日常のショッピング体験の提供」。リーシング部は、この体験を具現化すべく、圧倒的なブランドラインアップでお客さまをワクワクさせたい。これは「御殿場プレミアム・アウトレット(以下、御殿場アウトレット)」開業から25年間変わらない考え方です。

WWD:仕事のやりがいは?

小野塚:時間をかけて口説いたブランドが無事にオープンを迎えたときが一つ。そして何と言っても売り上げが好調に推移しているとき。売れているということは、アウトレットモール来場者という意味でのお客さまと、テナントとしてのお客さま、この2つの「お客さま」に価値提供がしっかりできているということになるからです。とても達成感がありますね。一方で、アウトレットモールならではの怖さもあります。プロパーでしっかり売れると、アウトレットに商品が回ってこないなんてことも。そういった場合はこまめにブランド側とコミュニケーションを取ることで対応しています。オープンして終わりではなく、オープンした後の店舗管理も業務の根幹の一つです。

松野:もともと出店する側だったブランドから、デベロッパー側に変わったのは街を作ってみたいと思ったから。一つの街でショッピングを楽しみながら、高揚感を感じてもらうことが何よりうれしい。もちろん売り上げが好調なのもうれしいが、アウトレットモール周辺にお住まいの地元の方々も含め、いろいろな方々に喜んでいただけるというのは、転職前にはなかった喜びです。「プレミアム・アウトレット」という自分たちのブランドをしっかり売っていくような感覚で向き合い、成果を出していく。それが一番のやりがいです。

25周年に大幅リニューアル

WWD:25周年リニューアルのポイントは?

小野塚:「リ・スタート」です。2023年にプロジェクトを立ち上げた当時は、不確実性や曖昧性が問われる“ブーカ(VUCA、「Volatility:変動性」、「Uncertainty:不確実性」、「Complexity:複雑性」、「Ambiguity:曖昧性」の4つの単語の頭文字をとった造語)時代”と言われていて、コロナ禍が明けて消費動向も大きく変化しするタイミングでした。ただ、そうした中でも「御殿場アウトレット」の売上高は順調に伸びており、出店ラインアップは大きく変える必要はないという選択肢もあったほど。けど、先ほどもいった通り、われわれの使命は「お客さまにワクワク感を与え続けること」。周年というより、リニューアルのその先を見据えて、変化を加えよう、と。

松野:今回のリニューアルでは小野塚を中心に、若い世代や訪日客など新しい層へのアプローチを狙い、初出店のブランドに積極的にアプローチしました。特に若い世代に支持の高いブランドが揃う“イーストゾーン”の来街者を、すべてのゾーンに回遊させるべく、23年から「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」や「アミ パリス(AMI PARIS)」といった話題のブランドを“ウエストゾーン”に加えてきました。今回はさらに“ヒルサイド”に話題性あるブランドを集積・配置することで、全体の回遊を高める、という狙いがあります。

最初のコンタクトは出店の3年以上前
長く継続的にアプローチ

WWD:結果的に今回のリニューアルでは初出店のブランドが多くなった。アプローチはどうやって?

小野塚:実際には初出店であっても、リニューアルのオファー時にブランドや企業に初めてコンタクトする、ということはほとんどないですね。海外のブランドであれば日本上陸時、新ブランドであれば最初の店舗のオープン時など、基本的にはなるべく早いタイミングでコンタクトするようにしています。その後も定期的に会ったり、連絡を取ったり、常に接点を持つようにしています。結果的に出店していただくときには、最初のコンタクトから3〜4年後というのが大半です。

WWD:松野ディレクターは元々ブランド側の出身。その経験はどう生きている?

松野:国内外のブランドに長く携わっていたこともあり、テナント側のネットワークがあり、時には日本に進出を検討している海外ブランドの担当者から相談を受けることも。そういった情報を得たり、接点を持てたりするのは武器の一つですね。これまでの経験から百貨店内の店舗の位置や規模感から売上高を推計することもあります。小野塚も言っているように新ブランドや海外ブランドの店舗オープンや百貨店、ファッションビル、SCのリニューアルOPENにはなるべく顔を出すようにしていますし、そういった場に関係者がいれば、好調ブランドの話を仕入れたりもしています。僕はどちらかというと経験値や時代感を重視する感覚派。対して小野塚はデータ派だよね?

小野塚:私の場合は今回のリニューアルでも導入を検討したブランドの、類似ブランドの売り上げを参照したり、ポップアップショップをオープンしてもらって売れ行きを見たり。松野のようなベテラン比べるとまだまだ経験不足なので、それを補うべくSNSフォロワー数や成長具合、バズり方は常にチェックしていますし、加えて「WWDJAPAN」などの業界メディアでの取り扱われ方も参考にしています。また、出店オファーの際に売り上げ予測の数値や施設の概要をコンパクトにまとめた資料を提供しているのですが、資料はブランドや企業側の担当者が上司や事業部のトップに提出し、彼ら/彼女らが出店可否の判断材料にしてもらう、そのくらいのつもりで作っています。

WWD:リーシングのやり方は担当者によって十人十色?

松野:そうです。年齢が20歳も離れていると、世代も感覚も異なるので、それぞれの視点や考え方を持っています。部内には10人ほどいるが、それぞれのやり方や考え方を尊重していますね。

アウトレットでも売れるブランドとは?

WWD:百貨店やファッションビルで売れても、アウトレットで売れない場合もある?

松野:原則プロパー商品を販売する百貨店やファッションビルでの売り上げは大きな判断材料ですが、プロパー(定価販売)がすごく好調でも、アウトレットでは振るわないこともある。われわれがよく使うのが「奥行き」という考え方です。アウトレットのお客は、一般的な商業施設よりもずっと客層のバリエーションが多い。ファッションビルのようにファッション好きの人の特定の年代だけでなく、あらゆるカテゴリーの老若男女が訪れ、海外からの訪日客も多い。その意味ではブランドの認知度の広がりや、特定のカテゴリーであるにせよお客や市場にどれだけ深く刺さっているか、響いているかはとても重要な指標になる。既存の商業施設の売れ行きだけでなく、いろいろな角度から分析する必要がありますね。

WWD:ブランド側は、アウトレットをどう考えるべき?

松野:ブランドのビジビリティ(露出)を高めるため、幅広いお客さまが集まるアウトレットは最適と言えます。例えば、ハイブランド品を初めて購入する“ファースト◯◯(ブランド名)”といった場所になるし、その後プロパー店舗へつなげるタッチポイントにもなり得ます。「ブランディングの観点でオフプライスに出店を広げたくない」といった声もあるが、そういった場合でもプロパー販売の店舗をセールで荒らさずキープしていくためにも、最後の出口として在庫品をアウトレットで販売しないかと提案しています。改めて説明することで、出店に意欲的になってくれる場合も少なくないですね。

WWD:「御殿場アウトレット」は、アウトレットモールのみならず、日本のショッピングモールとしても流通額は日本最大級。ブランドからの問い合わせも多いのでは。

松野:そんなに簡単ではない。むしろ、出店してほしいブランドであればあるほどほどガードが硬い。だからこそ、なるべく早い段階から接触し、時間をかけてブランド側との関係を醸成しています。

WWD:日本のアウトレットモール未出店のカテゴリーの一つにラグジュアリーブランドがある。出店の可能性は?

松野:難しい質問ですね。少なくとも今すぐに、ということはないです。ただ、同じ米サイモングループ「ウッドベリー・コモン・プレミアムアウトレット」(ニューヨーク州)や海外のアウトレットモールに出店しているケースもある。そう考えると日本での出店の可能性もないわけではない。

WWD:最後に目標は?

松野:「アウトレットモール」で世界一のラインアップを目指すことです!

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