PROFILE: モグワイ(MOGWAI)
“ポスト・ロック”を代表するバンドで、日本でも高い人気を誇るスコットランドの4人組、モグワイ(MOGWAI)。今年で結成30周年のベテランで、近年は映画/ドラマのサウンドトラックの制作に加えて数々のコラボレーションやフェスティバルの主催も手がけるなど、その活動のフィールドは多岐に及ぶ。
そんな彼らは今年1月、通算11枚目となるニュー・アルバム「The Bad Fire」をリリース。母国の口語で「地獄」を意味するタイトルが冠された同作では、コロナ禍の内省的なムードも感じられた前作「As The Love Continues」(2021年)を経て、初期の作品も想起させる美しく爆発的なエネルギーを宿したサウンドを聴くことができる。さらに、音響やビートに多彩なアレンジが施されたエレクトロニックの設計は、彼らの新境地と言ってもいいかもしれない。
今回、キーボード/シンセサイザーに加えてギターやフルート、また近作ではボーカルも務めるマルチ奏者のバリー・バーンズ(Barry Burns)。主にモグワイのエレクトロニック面を担うバリーは、家族の病気の治療の時期とも重なった「The Bad Fire」の制作について、「こんなにプレッシャーを感じながら音楽をつくったのは初めてだった」と振り返る。そんな彼に、アルバムの話やバンドの近況、そして自身にまつわるいろいろなことについて、3月に行われた来日公演のステージ直前、楽屋口のロビーで話を聞いた。
「マッカラン」とのコラボと
ベルリンでの生活
——モグワイは過去に、広島への原爆投下を扱ったドキュメンタリー番組のサウンドトラック(「ATOMIC」)を制作したことがありますが、バリーさんが「日本」と聞いて思い浮かべる音楽、あるいは好きな日本のミュージシャンは誰かいますか。
バリー・バーンズ(以下、バリー):最近の日本の音楽はあまり詳しくないけど、メルトバナナ(Melt-Banana)は大好きなバンドの一つだね。それから、あふりらんぽもスコットランドの僕たちのレーベルからリリースしたことがあって。Merzbow(メルツバウ)みたいなノイズ・アーティストもずっとチェックしてるよ。バンドのメンバー全員、日本の音楽にはそれぞれ関心があると思うし、新しい音を聴くのはいつだって楽しい。いろんな国の音楽を積極的に聴くようにしていて、それが僕たちの“音楽ライブラリー”を広げてくれる。そうやって蓄えたものが、制作にも自然と影響してくるんだよね。まあ、要するに他人の音楽を盗んでるってことさ(笑)。
——(笑)そういえば、昨年にはウィスキー・メーカーの「マッカラン(MACALLAN)」とのコラボレーションも話題になりましたね。
バリー:あれはちょっと変わった経緯だったね。ある映画監督から声をかけられたことがきっかけで、その彼が「すごく珍しいウイスキーにまつわる短編映画をつくりたい」って話を持ってきたんだ。その蒸溜所には、本人たちも気づいてなかった超レアなウイスキーがあって、それを偶然発見したことから「これは一大プロジェクトになる」って盛り上がったらしくて。それで、僕たちに音楽を頼みたいって言ってきたんだよね。監督とも会って、一緒に音楽をつくって……さらには、そのウイスキーの蒸溜所の中でライブもやったんだ。会場としても最高だったし、ほんと特別な体験だったよ。
最近の音楽業界って、本当に収益を上げるのが難しくなってきてるんだ。正直、昔だったら「そんなの、魂を売るようなもんだろ」って断ってたかもしれない。でも、今はもう状況が違うんだよね。今回やった「マッカラン」のプロジェクトは、本当にクールだった。あの会社はちゃんと倫理的に運営されてるし、プロジェクトの内容自体もすごく魅力的だった。だから、そういう信頼できる相手と組むのであれば、やる意味は充分にあると思ってる。時代は変わったんだって実感するよ。それに、僕たちもここ数年でサウンドトラックとかスコアの仕事をたくさん経験してきたから、外部の人と一緒に何かをつくるってことにもずいぶん慣れてきた。昔はもっと内向きというか、自分たちの内輪で完結してた部分が大きかったんだけど、今はだいぶ違う。柔軟になったというか、自然とそうなってきたんだと思う。
——バリーさんは数年前までベルリンで暮らされていたそうですが、そこでは奥様とバーをやられていたと聞きました。
バリー:うん。ただ、主に3つの理由でベルリンを離れなくてはならなくなって。一つはCOVID-19。そしてブレグジット。僕たちのバーではスコットランドの食材をたくさん使っていたんだけど、それが急にものすごく高くなってしまってね。そして最後の理由は、妻との間に2人目の子どもができることになって、ドイツには家族が誰もいなかったんだ。それらが重なって帰国することにした。でも、ベルリンは本当に大好きな街だったよ。
——なにかとお酒と縁がありますね。
バリー:まあ、音楽とアルコールは昔から切っても切れないものだと思う。ただ、面白いのは、最近のスコットランドの若いバンド仲間の中には、お酒をまったく飲まない人がけっこう増えてきてるんだ。みんな健康に気をつかうようになってきてるんだよね……僕は違うけどね(笑)。相変わらずたくさん飲むし、いや、かなり飲みすぎてると思う(笑)。そういえば、昨日のライブ(大阪)でも酔っ払いすぎた男がいて、会場から追い出されちゃったんだよね。しかも、「俺がモグワイだ!」って叫んでて(笑)。あれは残念だったな。ちょっとうるさすぎたからね。
——そもそも、なぜベルリンに行こうと思ったんですか。
バリー:いま振り返ると、当時の僕と妻はずいぶん大胆だったと思うよ。ドイツ語も話せなかったのに、「なんとなく響きがいい」「なんか良さそうな場所だよね」っていうだけの理由で、とりあえず様子を見に行ってみることにしてさ(笑)。で、実際に行ってみたら、そのまま本当に住みついちゃった。結局、ベルリンには12年いたのかな。
妻はアーティストで、最初はアトリエを探してたんだけど、案内してくれた人が「バーのスペースもあるよ」って言ったんだ。そしたら彼女、「それはアートと関係ないでしょ」って(笑)。でも、最終的にそのバーを引き受けることになって、実はその隣には彼女自身のアート・ギャラリーもあったんだ。だから、ギャラリーとバーが並んでて、たくさんのアーティストがそのバーに集まってくるようになった。ミュージシャンともたくさん出会えたし、本当にクリエイティブな人たちが集まる、最高の場所だったよ。
それに、僕はモグワイのメンバーの中でもたぶん一番エレクトロニック・ミュージックが好きだったから、現地のシーンを体験してみたくて。クラブにもよく行ったし、いろいろ遊んでた。でも、子どもが生まれてからはさすがにそういうのもしなくなったけどね(笑)。グラスゴーも、実はベルリンとちょっと似てるんだよ。音楽が盛んで、アートと結びついている感じとか、街の空気感とか。だから、ベルリンに住んでもそんなに違和感はなかった。そこまで“外国”って感じがしなかったね。
「結局よく聴くのはボーズ・オブ・カナダなんだよね」
——モグワイのエレクトロニックな側面からは、クラフトワークやポポル・ヴーといったドイツのミュージシャンの影響も窺(うかが)えますが、実際にその辺りの音楽へのシンパシーはありますか。
バリー:そうだね。もちろんそうしたドイツの音楽もたくさん聴いてきたけど、最近だとダニエル・エイヴリーとかネイサン・フェイクみたいなアーティストも好きだね。彼らとは実際に友達にもなったし、彼らのやってることには本当に共感できる。インストゥルメンタル中心の音楽っていうのも、自分にとってすごくしっくりくるんだ。
昔からずっとシンセサイザーに興味があってさ。シンセが大好きなんだ。もともとはピアノを習ってたんだけど、シンセを手に入れてからは、もうその音に夢中になっちゃってね。見た目も面白いし、一台一台がまるで別の楽器みたいなんだよ。ギターなんかだと、例えば3本あっても僕には全部だいたい似たように聞こえちゃうんだけど(笑)、でもシンセは本当に一台ずつまったく違う音を出す。それが面白くてたまらないんだ。
——ちなみに、先ほどのお酒と音楽の話ではないですが、バリーさんにとって普段よく聴く、“生活のBGM”みたいな音楽って何かありますか。
バリー:うちの妻は新しい音楽を見つけるのが本当に上手で、いつもTIDAL(音質にこだわった音楽ストリーミングサービス)とかでいろんな曲をシェアしてくれるんだ。でも自分はというと、結局よく聴くのはボーズ・オブ・カナダなんだよね。もう長いこと活動してるけど、なんだかんだで、出かける時とかに再生ボタンを押しちゃうのはいつもボーズ・オブ・カナダ。彼らもスコットランド出身だしね。
あとは、少し毛色は違うけど、ボブ・ディランもよく聴いている。父親が大のディラン好きで、その影響もあると思う。ただ、昔は僕自身、歌詞をあまり意識してなかった。あれだけ歌詞が重要なアーティストなのにね(笑)。でも、あの独特な声が好きだったんだ。今もそう。だから自分は、音楽を聴くとき、どちらかというと「言葉」より「音」に惹かれるタイプなんだよね。
——パンデミック以降、特にアンビエントやエレクトロニック・ミュージックにヒーリングやセラピー的な効果を求める傾向が強まっているように感じます。バリーさん自身も、そういった“癒し”を求めて音楽に手を伸ばすことはありますか。
バリー:あの時期の体験って、本当に人それぞれに全く違った影響を与えたと思うんだ。自分の場合、コロナ以降はあまり音楽を聴かなくなって、その代わりテレビや映画をすごく観るようになった。本もたくさん読んだ。ちょっと不思議な感覚だったよ。ただ、あの時期はちょうど前のアルバム(「As the Love Continues」)をつくっていたタイミングでもあって、自分はほとんどの時間を作曲に費やしていた。だから音楽を「聴く」ことはあまりなかったけど、「書く」ことが自分にとっての“癒し”になってたんだ。そのための時間はたっぷりあったしね。
だから実のところ、コロナ中はほとんど音楽を聴いてなかった。最近になって少しずつ戻ってきてるけど、でも……やっぱり、コロナって深いところで人を変えたと思う。自分自身、まだ完全に元通りにはなってない感覚があるし、何もかもが変わってしまった。ツアーに出るのも、正直いまだにちょっと変な感じがするよ。楽しいんだけど、前とは何かが違う。僕はコロナの状況がすごく嫌だったんだけど、でも妻は大好きだったんだ。「外に出なくていいなんて最高!」って(笑)。同じ家族の中でも、こんなに感じ方が違うんだなって思ったよ。
ニュー・アルバム「The Bad Fire」の制作
——前作もある種、特殊な状況下でつくられたアルバムでしたが、今回のニュー・アルバム「The Bad Fire」の制作時期は、家族の病気の治療とも重なっていたと伺いました。
バリー:今回のアルバム制作は本当に時間がなかったんだよね。というのも、バンドの他のメンバーたちはすでに曲づくりを始めていたんだけど、自分は病院や家から出られなかった。だからスタジオに入るまでに自分のパートをすべて書き上げる必要があったんだ。普段なら1年くらいかけて書くところを、今回は1ヵ月で仕上げないといけなくてね。それで容態が少し落ち着いたタイミングで、頭を切り替えて一気に作業を進めたんだ。すごく速いペースだったけど、結果的にはうまくいったと思う。ただ、もっと時間が欲しかったよね。自分の中ではまだ完成しきってない曲もある。まあ、他の誰もそんなこと気にしてないんだけど(笑)。例えばラモーンズなんて、2日でアルバムをつくっちゃったりするでしょ。もちろん、僕らはラモーンズじゃないけどさ、でも結局、与えられた条件の中でやるしかないんだよね。
——前作は「書く」ことが癒しになっていたと話していましたが、今回のアルバムについてはどうですか。
バリー:そうだね……今回のアルバムって、どちらかというと気分が明るくなるような作品だと思う。少なくとも、自分には悲しいレコードには聞こえない。「つらい時期につくったんだな」って感じにはならないと思う。むしろ、意外とハッピーな雰囲気があるんじゃないかな。でもそれって、すごくいいことだと思ってる。というのも、自分が落ち込んでるときって、ハッピーな音楽なんて絶対に聴かないんだよね。そういうときって、むしろ悲しい音楽のほうを選んでしまう。それに、「悲しい音楽」だからって必ずしも人を悲しくするわけじゃないし、逆に「ハッピーな音楽」が誰かを寂しい気持ちにさせることもあると思う。音楽って本当に不思議なもので、すごく抽象的な存在なんだよね。
でも、こんなにプレッシャーを感じながら音楽をつくったのは初めてだったし、今こうして完成した作品を振り返ってみると、「あの時期だったからこうなったんだな」って思う。何年か経ってからこのアルバムを聴いても、きっとまだ変な感覚が残ってるんじゃないかな。それぐらいストレスも多かったから。だから……たぶん、自分でこのアルバムを聴き返すことはもうないかもしれないな(笑)。
——そういえば、今回のアルバムには娘さんが作詞した曲があるんですよね?
バリー:そうそう、最初の曲「God Gets Back」の歌詞は長女が書いたんだ。当時、彼女は7歳だった。僕自身、昔から歌詞をつくるのが苦手でね。メロディーはできてたんだけど、そこに言葉をのせるのがうまくいかなくて。で、なんとなく彼女に頼んでみようかなって思ったんだよ。子どもが詩を書くって、すごく不思議なことなんだけど、同時にとても面白い。実際に書いてもらったら、まあ意味はまったく通ってないんだけど(笑)、すごく良くて。なんていうか、言葉の感触がとても生きていて、自由なんだよね。だから、またお願いしようかなって思ってる。ギャラは出さないけどね(笑)。ベッドと果物は提供するから、それでチャラってことで(笑)。
——実際に曲になったものを聴いたとき、娘さんの反応はどうでしたか。
バリー:今のところは楽しんでるみたい。でも、数年後には「ギャラもらってない!」って怒られるかもしれないね(笑)。実は彼女、Apple TVのドラマ「Blackbird」のサウンドトラックでも歌ってるんだよ。「Steam Chin」っていう曲で。あのときはたぶん4歳くらいだったかな。今では歌とピアノのレッスンも始めてて、音楽をやってくれているのはうれしいね。
「アルバムの音はどれも努力の積み重ね」
——今回のアルバムではシンセの構成や重厚な音色が印象的ですが、音づくりにはどんなアプローチで臨まれたのでしょうか。
バリー:それって、いつも自分の中にある感覚なんだよね。「新しい音を見つけたい」と思ってはいるんだけど、実際のところはとにかく試してみる、っていう感じなんだ。僕は週に5日スタジオに通っていて、でもそのうち本当に「これはいける!」って思えるのは1日あるかないかで。だけど、その1日に辿りつくためには、とにかく毎日キーボードの前に座って、音をいじり続けるしかない。4時間くらい、ただひたすら試す。で、家に帰ったときに、ふとその日の音が頭の中で鳴ってると「あ、これはもしかして良い曲かもしれない」って思えるんだよね。次の日になっても覚えていれば、なおさら確信できる。そしてその音にまた何かを重ねてみる……っていうのを繰り返す。ひたすら地味に時間をかけて音を探していくのが僕のやり方なんだ。だから、このアルバムの音もどれも努力の積み重ねなんだよね。インスピレーションじゃなくて、毎日の試行錯誤から生まれたものなんだ。
——シンセやエレクトロニックな側面という点で、今回のアルバムの中で特に手応えを感じている曲はありますか。
バリー:やっぱり1曲目の「God Gets You Back」かな。最初にちょっとした繰り返しのメロディーを思いついて、それにボーカルを乗せたいなと思ったんだ。それで、自分のボーカルにたっぷりリバーブをかけてみたら、「あれ、なんかこれは医者に相談したほうがいいかも?」みたいな感じになって(笑)。でも、そういうのがいつもの始まりなんだよ。小さなノイズだったり、気に入ったちょっとした音が出てきて、そこから何かが始まる。ほんとに基本的なことからしか始まらないんだ。「こういう大きなアイデアがあって、それを具現化しました」みたいなことは、僕たちにはない。全部、小さな偶然の積み重ねなんだよ。
——ちなみに、シンセ奏者としてバリーさんが影響を受けたアーティストや、リスペクトしているミュージシャンは誰かいますか。
バリー:いい質問だね。まず思い浮かぶのは、やっぱりクラフトワークのメンバーたちかな。でもさ、こういう質問って、君がこの部屋を出た瞬間に「あっ、あれも言えばよかった!」って10人くらい浮かんでくるんだよ。ほんと腹が立つ(笑)。ちょっと待って……そうだ、ノイ!(NEU!)のキーボードの人。名前がどうしても思い出せないんだけど、自分がピアノを弾いてるせいか、ああいう人のプレイには自然と耳がいくんだよね。
答えとして正しいかは分からないけど、ボブ・ディランはすごく好き。あと、レナード・コーエンのギターも好きで、真似しようとしたことがあるんだけど、僕の指は完全にピアノ用にできてるから、ギターはまったく無理だった(笑)。シンガーで言えば、キャット・パワーの声がすごく好きだね。エンジェル・オルセンもいいよね。
あと、ちょっと意外かもしれないけど、キーボード奏者で言うなら、ファンカデリックのバーナード(バーニー)・ウォーレル。子どもの頃からずっと好きだった。実は昔、ひどいファンク・バンドにいたことがあってさ……いや、本当に最悪だった(笑)。でも、その頃に彼の演奏を夢中で聴いてたんだよね。
モグワイは単なるバンドじゃなくて
友達の集まりでもある
——モグワイは今年で結成30周年になります。そう聞いて真っ先に浮かぶのは、どんな光景ですか。
バリー:スコットランドでやった最初のライブだね。マニック・ストリート・プリーチャーズのサポート・アクトとして1997年に演奏したんだと思う。自分は1曲フルートを吹いただけで、キーボードもギターもまだやってなかった。それでもものすごく緊張してたし、同時に信じられないくらい興奮したのを覚えているよ。あのときのことは今でも忘れられないよ。会場の人たちもモグワイにはそこまで興味がなかった感じで、でも僕にとっては「うわ、これはとんでもないことになったぞ!」って思える体験だった。
それから1カ月後くらいに、正式にバンドから加入のオファーがあってさ。車で家に帰りながら、「俺、モグワイに入るんだ!」ってずっと考えてたな(笑)。実はその前に、エディンバラでモグワイのライブを観に行ってたんだよ。まだ誰とも知り合いじゃなかった頃で、「すごいな、このバンドに入れたら最高だな」って思ったのを今でも覚えてるよ……夢って叶うんだな、うん。
——月並みな質問ですが、バンドを続けてこれた秘訣は?
バリー:たぶん、僕らがずっとやってきたこと――つまり、バンドが変化しようとする姿勢を、みんなが好きでいてくれているからじゃないかな。もちろん、僕らの変化が毎回うまくいくとは限らないけど、できる限りアルバムごとに何かを変えようとしてきた。
人ってさ、結局どっちにしても何か言うもんなんだよね。「昔の方がよかった」とか、「もっと冒険してほしかった」とかさ。でも、僕ら自身が同じことをずっと繰り返すなんて、たぶん無理だったと思う。自分たちがまず飽きちゃうしね。たとえばデヴィッド・ボウイみたいに、常に変化を求めるアーティストにはすごく共感する。そういう姿勢って、励みにもなるし、僕らもそうありたいってずっと思ってきた。だから、僕らの「何か新しいことをやろう」っていう気持ちに共鳴して、ずっとついてきてくれた人たちがいるんだと思う。もちろん、それにはたくさんの幸運と、たくさんの努力も必要だったけどね。
——ええ。
バリー:それとたぶん一番大きいのは、僕らが本当にお互いのことを好きだってことだと思う。仲が良くて、ユーモアのセンスも似てて、一緒にいるのが楽しいんだよね。みんなすごく面白いやつらなんだ。それってすごく大事なことだと思う。だって、モグワイは単なるバンドじゃなくて、友達の集まりでもあるからさ。
——昨年は「Big City」というフェスティバルを主催されましたね。出演アーティストもメンバー自身でセレクトされたそうですが、後続のバンドに与えてきた影響について、ご自身ではどう感じていますか。
バリー:正直、不思議な感じなんだよね。例えば、今回出演してたバンドにビークがいて、彼らはポーティスヘッドのジェフ・バーロウのプロジェクトなんだけど、自分にとっては人生で一番好きなライブ・バンドのひとつなんだ。本当に最高だったし、たぶん自分の作曲にも彼らの音楽は影響を与えてると思う。
だからこそ、「あなたに影響を受けました」って言われるのは、やっぱりどこか変な感じがしてしまう。もちろんうれしいよ。でも、褒められるのが苦手でさ、どう返したらいいか分からないんだよね。「え、ほんとに?」って、つい思っちゃう(笑)。でも考えてみれば、自分だって音楽で人生を変えられた経験がある。そういう意味では理解できるんだけど、いざ自分がそう言われる側になると、やっぱりピンとこないんだ。会場の外でファンの人が「あなたの音楽が人生を変えてくれました」って言ってくれたりもするんだけど、「いやいや、そんな大げさな……」って。スコットランド人って、本当に褒め言葉を受け取るのが苦手なんだよ。褒められると、もうどうしていいか分からなくなる(笑)。でも、言ってもらえるのは光栄なことだと思ってるよ。
PHOTOS:MICHI NAKANO





