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UKバンド、アイドルズ(IDLES)が語る最新アルバム「Tangk」 LCDサウンドシステムやコールドプレイとの関係性も

PROFILE: アイドルズ(IDLES)

PROFILE: 英ブリストルで結成。メンバーはジョー・タルボット(vocals)、ダム・デヴォンシャー(bass)、マーク・ボーウェン(guitars)、リー・キアナン(guitars)、ジョン・ビーヴィス(drums)の5人で、2017年にデビュー・アルバム「Brutalism」をリリース。18年にはセカンド・アルバム「Joy As An Act Of Resistance」を、20年にはサード・アルバム「Ultra Mono」をリリース。サードアルバムはUKチャートの1位を獲得した。21年には、ケニー・ビーツとギタリスト、マーク・ボーウェンの共同プロデュースによる4枚目のアルバム「Crawler」を、24年2月に5枚目のアルバム「Tangk」をリリースした。

昨年2月にリリースした最新アルバム「Tangk」が、先日のグラミー賞で「Best Rock Album」にノミネートされたアイドルズ(IDLES)。かれらのアルバムが同賞の候補に選ばれるのは前作「Crawler」(2021年)に続いて2作連続で、英国出身でこれほど世界的な評価を獲得しているバンドは、近年では稀有な存在と言えるだろう。2000年代の終わりにブリストルで結成され、硬質なパンク・サウンドでインパクトを残したデビュー・アルバム「Brutalism」(17年)から8年。フロントマンのジョー・タルボット(Joe Talbot)が率いるこの5人組は、聴く者の感情に深く訴えかける音楽をつくり続けることで支持を広げ、フー・ファイターズやメタリカからも一目置かれるワールド・クラスのバンドへと飛躍を遂げた。そして、レディオヘッドやベックを手がけるナイジェル・ゴドリッチを共同プロデューサーに迎えた5作目の「Tangk」は、これまで以上に多様な音楽的要素が交錯する、アイドルズの新たな局面を示した作品だった。

アイドルズを始める前はDJとして活動し、熱心なヒップホップ・ヘッズだったというジョー。前作、前々作「Ultra Mono」(20年)に続いてケニー・ビーツ(ヴィンス・ステイプルズ、リコ・ナスティ)がプロダクションに関わる「Tangk」は、そんなジョーが近年のヒップホップやグライムに寄せる共感が色濃く投影された作品でもある。昨年末には、ラッパーのダニー・ブラウンをフィーチャーしたシングルも大きな話題を呼んだ。「イギリスの白人中流階級のガキだった僕に、ヒップホップは真の目的意識を与えてくれた」——そう語るジョーに、1月に行われた来日公演の後日、そのヒップホップとの出会いや「Tangk」の制作の裏側、そして彼が貫く「スタイル」の核心を聞いた。

アルバム「Tangk」について

——新作「Tangk」でプロデュースを依頼したナイジェル・ゴドリッチとの作業はどうでしたか。

ジョー・タルボット(以下、ジョー):本当に素晴らしかったよ。特にレコーディングのプロセスがね。彼は事前に用意されたものではなく、その瞬間に生まれるものを捉えようとしていた。瞬間のマジック――意図しないミスやグリッチ(不具合)、いろんな偶然をテープ・ループで取り込んでいくことで、楽曲そのものより演奏することに集中できた。それは僕たちにとってかなり異例なアプローチだったよ。

普通なら、曲をしっかりつくり込んで、ヴァース、コーラス、ブリッジといった構成を練り上げるんだけど、ナイジェルはそんなことに興味がなかった。彼は僕たちがその瞬間に集中し、目の前の音にまるで瞑想するみたいに意識を向けることを大切にした。だからすごく斬新で、一緒にやるのはかなりチャレンジングだったよ。

——「Tangk」はダンス・フィールにあふれたアルバムで、特にLCDサウンドシステムのジェームス・マーフィーとナンシー・ワンが参加した「Dancer」は象徴的なナンバーだと思います。これはどういう経緯で実現したコラボレーションだったのでしょうか。

ジョー:あれは確か(ギタリストのマーク・)ボーエンが書いた曲だったと思う。このアルバムで僕が目指していたのは、人々を踊らせて、心から音楽を感じてもらい、何か普遍的な感情を呼び起こすような音楽をつくることだった。幻滅の時代だからこそ、聴く人の感情に寄り添って、頭で考えるよりも人間の根源的な感覚を呼び覚まし、自分自身の存在を肯定できるような音楽が必要だと思ったんだ。それで曲を書いて、レコーディングして、アメリカでLCDサウンドシステムと一緒にツアーを始めた時に、ナイジェルから電話がかかってきたんだ。「バッキング・ボーカルがこの曲に合ってない」って。

バッキング・ボーカルは僕が書いたんだけど、メロディとハーモニーはジェームスとナンシーをイメージして書いたものだった。男性の力強いファルセットと、女性の物憂げなハーモニーの組み合わせをね。ちょうど一緒にツアー中だったからお願いしてみたら、ニューヨークにある彼らのスタジオに連れて行ってくれて、そこで一日一緒に過ごすことができた。本当にクレイジーで最高な体験だったよ。

——ジェームスはどんな人でした?

ジョー:ジェームスはとてもミステリアスな人だよ。知的で、強い意志を持っていて、仕事にも家族にも友だちにも全力で全てを捧げるタイプなんだ。そんな献身的な男だからこそ、周りのみんなも自然と彼に惹きつけられて、同じくらい献身的に動くんだと思う。ツアー・チームも、バンドも、クルーも、彼に関わる人たちみんなが素晴らしい人間ばっかりでさ。お互いのために一生懸命やっていて、自分の仕事に誇りを持っている。それがツアー・バンドとして参加している僕らにとってもすごく刺激的だった。それに、ジェームスってとても的確なんだ。彼のスタジオは信じられないくらい素晴らしくて、機材もすべて揃ってる。彼って本当に全てを捧げる人なんだよ。

——エレクトロニック・ミュージックの影響を反映した現代的なロック・ミュージックの先駆であるLCDサウンドシステム、そしてDJとしての顔を持ちハードコア・パンクをルーツとするジェームス・マーフィーは、アイドルズというバンドやあなた自身にとってもロールモデルと言える存在であり、共感を寄せる対象だったのではないかと思います。

ジョー:つまりさ、僕たちの共通点って結局、音楽が大好きってことだと思うんだ。僕もジェームスも、心の底から良いと思える音楽や芸術でなければ本気でやろうとは思わない。自分たちの音楽やアート、ライブに情熱と生命力を求めていて、そのエネルギーってソウル・ミュージックやパンク、ハードコア、そしてテクノみたいなジャンルから湧き上がってくるものなんだ。そのエネルギーこそが僕たちが追い求めるもので、そのために懸命に努力している。僕らは2人とも、くだらないことには絶対に手を出さないよ。

——コラボレーションといえば、昨年末にリリースされた「Pop Pop Pop」のリミックスでダニー・ブラウンがフィーチャーされていたのもサプライズでした。

ジョー:ラッパーとコラボしたいと思っていて、それでグラストンベリーのステージで「Pop Pop Pop」をやるときにラッパーをフィーチャーするアイデアが浮かんだんだ。ダニー・ブラウンは僕が大好きなラッパーの一人で、彼はすでにグラストンベリーでパフォーマンスした経験もあったからさ。それで彼と知り合いのケニー・ビーツを通じてお願いしたら、すごく乗り気でね。本当に最高だったよ。そこからダニーと意気投合して、ボーエンと僕でケニーや他のラッパーたちと一緒に何か新しい音楽をつくろうって動き出したんだ。

それでダニーと話してたら、グラストンベリーの後で「Pop Pop Pop」に彼がヴァースを入れてくれることになった。本当に嬉しかったよ。これからもダニーと一緒に仕事ができるのが楽しみで仕方ないね。

ジョーが見るヒッピホップ・シーン

——今名前の出たケニー・ビーツは、ヴィンス・テイプルズやリコ・ナスティのプロダクションを手がけるなど今のヒップホップ・シーンと関わりの深い人物ですが(※「Tangk」にはナイジェル・ゴドリッチと共に共同プロデューサーとして参加)、ジョー自身は最近のヒップホップ・シーンをどう見ていますか。

ジョー:2013年頃から、エイサップ(・ロッキー)やケンドリック(・ラマー)、ダニー・ブラウンみたいな新しいラッパーが出てきて、デンゼル・カリーのような新しいスタイルも加わって、ヒップホップは大きく進化したと思う。僕がその頃、ヒップホップのDJをやっていて、リリックや姿勢に新しい息吹を感じて、限界を押し広げようとする勢いがすごかったんだ。それで、90年代初頭を振り返ってみたんだけど、あの頃って音楽に対する熱意と倫理観があって、情熱のためにやってるって感覚が強かったと思うんだ。

でも、90年代半ばから2010年ぐらいにかけては、資本主義のグロテスクな美学——金、女、車とか、大衆向けの退屈なクソみたいな音楽が溢れていた時期もあった。そんな中から、本物のカルチャーを求める新しいラッパーたちが現れてきたんだ。だから、今のヒップホップは本当に素晴らしいと思うよ。

——そもそものヒップホップとの出会いはどんな感じだったんですか。

ジョー:僕がヒップホップと出会ったのは10歳くらいの時で、ファーサイドの「Bizarre Ride II the Pharcyde」ってアルバムを聴いたんだ。いい曲がたくさん入っていて、次の「Labcabincalifornia」ってアルバムも最高だった。ミュージック・ビデオもすごくて、特にスパイク・ジョーンズが監督した「Drop」は逆再生とか斬新な演出で本当にヤバかった。とにかく、それまで聴いたことのない斬新なサウンドで、ヒップホップは僕にある種の“目標”を与えてくれたんだ。夢中だったよ。もっとも、イギリスの白人中流階級のガキにとっては完全に異質な文化だったけど、そこには真の“目的意識”があった。僕は昔から、そういう本物の目的意識を持った人や物事に惹かれるタイプでさ。で、それまで長い間ギター・ミュージックばかり聴いてたんだけど、ヒップホップと出会って、再びギター・ミュージックとの繋がりを発見した――そんな感じだね。

——ちなみに、バンドを始める前にDJをしていた頃は、どんな音楽をかけていたんですか。

ジョー:ロンドンのゴス・ナイトにちなんで「バット・ケイブ」って自分のイベントをやっていたんだ。最初はポスト・パンクやインディー・パンク、クラウト・ロックなんかをかけてたんだけど、そこからハウス・ミュージックやテクノ、ヒップホップにも手を出して、だんだん幅が広がっていった。それから7年間はヒップホップ中心のイベントもやってて、グライム、ガラージ、ジャングルとか、いろんなジャンルをかけていたよ。

——先ほど話に出た「Pop Pop Pop」は、グライムなどUKのクラブ・ミュージックを吸収したダンス・ロック・ナンバーでしたが、最近のグライムについてはどうですか。

ジョー:いいMCはたくさんいるよ。今はドリルの方が人気だけど、地球上で最高のMCたちは何人か現役で活躍している。イギリスだとスケプタは今でもすごいし、ディー ダブル イー(D Double E)はずっと最高だよ。いいものがどんどん出てきてるね。フリスコってやつがいて、彼は昔からやってるんだけど、音楽のクオリティがずっと一貫している。本当にいいよ。もっとたくさんの人に聴いてほしいけど、UKってとても小さな場所で、文化的に不安定だから流行が目まぐるしく変わるんだ。特定の都市に人口が集中してる小さな国だから、常に物事が動いてて、みんなある週末にはある方向を見て、次の週末には違う服を着ているー―そんなふうに何かが始まったり終わったりを繰り返している。でも、グライムはいつだって最高だよ。

ブリストルの音楽シーン

——地元のブリストルの音楽シーンはどうですか。

ジョー:ブリストルの音楽シーンってほんと独特で、イギリスで一番、人口あたりのミュージシャンが多い街なんじゃないかな。でも、ブリストル特有のサウンドってのがなくて、最後に「ブリストル・サウンド」って呼ばれたのはトリップホップの時代くらいだね。それ以来、ブリストルは多様性を尊重して、みんなが好きなことを自由にやっている。本当の意味でのコミュニティはあるけど、特定のシーンやそれを象徴する音はないんだ。ただみんなが楽しんで、音楽をつくってるだけで。

それってある意味、流動性や危機感がないっていうか、ミュージシャンに前に進もうっていう野心が薄いということなのかもしれないね。ブリストルはパーティーの街だから、みんな居心地がいいんだろう。でも、ほんといい街だよ。

——最近のブリストルは? 

ジョー:ここ一年くらいブリストルには行ってなくてさ。世界中をツアーで飛び回ってたから。実は、スクイッドは僕らの隣の部屋で練習してたんだよ。だから彼らに聞けば今のブリストルのことがわかるんじゃないかな(笑)。ブリストルには僕が大好きなヘヴィー・ラングスっていう素晴らしいバンドがいて、今も最高だよ。ただ、もうしばらくブリストルの音楽をちゃんと聴けてなくて。最近、家にいるときは娘を追いかけ回したり(笑)、サイクリングしたり、ボクシングしたりして過ごしてるからね。

アイドルズとファッション

——ところで、今回の「Tangk」のアーティスト写真でギタリストのマークがドレスを着ていたのが目を引きました。

ジョー:(ドレスを着た理由は)分からない。ただ、その方が快適だからドレスを着るようになったんじゃないかな。以前はいつもパンツ一丁で演奏してたから(笑)、自分を表現できるような服装にしたかったんだと思う。彼にとってはドレスを着て演奏する方がずっと快適なんだ。それだけのことだよ。彼に直接聞いたわけじゃないけどね。

——マークはいつもあんな感じで自由なんですか。

ジョー:時々ドレスを着るんだ。メンバーみんなそれぞれのスタイルがあるけど、まあ、確かに彼の感性が独特だね(笑)。

——例えば、作品をリリースするごとにアーティスト写真も刷新されると思いますが、そうしたビジュアル的な部分も含めてバンドのプレゼンスをどのように打ち出していくかについて、何か考えられていることはありますか。

ジョー:まあ、ステージでは、ファッションで自分を表現することはないんだ。観客には服じゃなくて、僕の目をじっと見てほしい。僕の痛み、美しさ、愛、喜びを感じてほしい。これは劇場だけど、本物の劇場だから。僕が感じていることをそのまま伝えるために、できるだけ真っ白なキャンバスでいたいと思っている。そうすれば、観客も僕が感じていることを感じることができるからね。

でも、普段の生活ではファッションが大好きだし、服で自分を表現するのは楽しいよ。素敵な服を着られる余裕があることは、人生を楽しく豊かにしてくれると思う。今は日本にいるから、日本のファッションにも興味があるよ。実は、ボーエンのお気に入りのドレスはミヤケ(「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」)のものなんだ。僕もそのドレスが大好きだよ。でも、ボーエンと僕はファッションにすごく興味があるけど、他の3人はそうでもなくて。アルバムとは関係ない話だけど、僕とボーエンにとっては大事なことなんだ。だからできれば、他の3人にも素敵な服を着せてあげたいくらいだよ。力づくでね(笑)。

——最近買ったお気に入りのワードローブを教えてください。

ジョー:コートを買ったばかりなんだ。ブランドは……「スティル・バイ・ハンド(STILL BY HAND」だね。僕はビンテージの服を集めるのが好きで、靴は「ジャック・ソロヴィエール(Jacques Solovière)」がお気に入り。履き心地がいいし、美しいからね。僕の理想のスタイルは、折衷的(eclectic)で、いかにも「分かってる」感じに見せつつ、普通のスタイルの枠を壊すこと。でも、クラシックなセンスは絶対に忘れない。だから、クレイジーに見せるんじゃなくて、例えば「ラングラー(WRANGLER)」のジーンズに「ラコステ(LACOSTE)」のベストを合わせるみたいな感じで、普通に快適に見えるようしてる。

音楽も同じで、折衷的な自分を表現するのが大好きだよ。アルバムにはグライムの曲もあれば、バラードもハードロックもある。僕はただ、美しいものすべてから借りたり盗んだりしたいだけなんだ。いつもそうとは限らないけれど、それがしっくりくるんだ。

——ちなみに、今回の日本滞在で何か素敵な出会いはありましたか。

ジョー:昨夜は本当に特別な夜だったよ。ビートカフェのKatomanのところに遊びに行って、彼のお気に入りの居酒屋に連れてってもらったんだ。その後、ゴールデン街の「ナイチンゲール」っていうノイズ・ミュージック・バーに行ったんだけど、74歳のおじいさんがサバの頭を料理してくれたりして、日本文化の美しいコントラストが最高だった。こじんまりとした静かで落ち着いた居酒屋から、一気にノイズ・ミュージックと刺激的なビジュアルが溢れるバーに移動するっていうギャップがね(笑)。街に活気があって、ほんと最高だったよ。

この1年を振り返って

——前回(2023年の「フジロック」出演時)インタビューした際※に、制作中だった「Tangk」について「僕たちが大事にしているものを祝福するようなアルバムをつくりたい」と話していたのが印象に残っています。そうした作品を携えてツアーで世界中を旅してきたこの1年間は、振り返ってどんな時間でしたか。
※前回のインタビューはこちら

ジョー:とても濃密で実りの多い時間だったと思う。僕がこのアルバムに求めていたのは、祝福の感覚と一体感、そして愛を感じられるシンプルなものだった。僕たちはこのアルバムを持って世界中をツアーで回るつもりでいた。日本、ヨーロッパ、ギリシャ、イギリス、アメリカ――どこもかしこも政治的に不安定な状況が続いているのは明らかだよ。この先に何が起こるか考えると、不安になるし、時には恐ろしくもある。でも、僕は愛と情熱を持ってこの時代に立ち向かいたかった。それが一番大切なことだと思う。人と人とのつながりって本来とてもシンプルなものなのに、強欲や恐怖が複雑に絡み合って難しくしてしまっている。

アーティストとして大事なのは、人々が自分自身と再びつながる手助けをすることだと思う。自分自身とのつながりを感じられれば、他者に心を開くことも自然とできるからね。音楽や芸術は、そのために僕たちが提供できるものだと思う。政治やお金、成功は与えられないけど、つながりや表現する場——それが鏡であれ、何かの枠組みであれ——そういう意図を提供したいんだ。

——先日のライブでは「Viva Palestina!」と叫ぶ場面もありました。

ジョー:世界はますます混沌としてきてる。でも、僕はそのことを深く考えすぎないようにしてる。ただ、僕には発言できるプラットフォームがあって、何か考えたときはすぐにその場で発信するんだ。パレスチナで起こったこと、そして今も続いてること――それは戦争犯罪だよ。ボスニアやルワンダで起きたことと同じだ。イギリスが残虐行為に目を背けたのはこれが初めてじゃない。もしボスニア紛争のときに僕が今くらい大人だったら、立ち上がっていたと思う。イラク戦争のときは16歳で、街頭に出て抗議したよ。足があって、自分が信じるモラルがある限り、行進するし、ステージからも発言する。それは僕にとって難しいことじゃない。ただ、それで大きな変化が起こせるとは思ってないよ。

ちょっとした祈りとか、捧げ物みたいなものなんだ。神様がいるわけじゃない。それは信仰心みたいなもので、自分が信じたことをやるしかない。そうでないなら、やるべきじゃないよ。すべてのミュージシャンが「これをやめろ、あれをやれ」って言う必要はないと思う。そういうことじゃない。ただ、これが僕のやり方というだけでね。自分が誰かより優れてるとも劣ってるとも思わない。音楽家としての義務というよりも、人としての義務だと思うんだ。自分がされたいように人を扱う――それが大事なんだ。だから、僕はステージに立っている。

——最後に、あのミュージック・ビデオについて教えてください。AIでコールドプレイのクリス・マーティンが歌っているかのように加工した、「Grace」のミュージック・ビデオについて。

ジョー:(日本語で)ハイ(笑)。レコーディングの前にロンドンのナイジェルのスタジオでその曲を書いたんだけど、彼がすごく気に入ってくれて。ただ、僕にはちょっとコールドプレイっぽく感じられて、面白いなって思ったけど、僕自身も気に入ったんだ。僕は特に初期のコールドプレイが大好きでさ。それで、スタジオにいる時にすぐにそのアイデアが浮かんだんだ。「A Iでクリス・マーティンに僕の歌詞を歌ってもらえたら最高だな」って。すぐにクリエイティブ・カンパニーに依頼したよ。時間がかかるのは分かってたからね。クリス・マーティンかコールドプレイのマネージメントの許可が必要だったから、僕のマネージャーがクリスを知ってる人に電話してくれて、そしたらクリス本人から僕に電話がかかってきたんだ。

彼はそのことを僕と話したかったみたいで、とても親切でいい人だったよ。「面白そうだね、全然OKだよ」って言ってくれて。それで、出来たものを彼に送ったんだけど、彼はそれに満足してなかったみたいでさ。そしたら、実際にクリスが僕の歌詞を歌っているビデオ録画して送ってくれて、僕たちを助けてくれたんだ。本当に素晴らしかったよ。とても親切で、いい人だね。

——コールドプレイのファンに怒られなかった?

ジョー:大丈夫だったよ(笑)。彼には自分の文化的な背景と僕たちの文化的な背景がちゃんと理解できている。それで、「どうぞからかって、楽しんでくれ」って言ってくれたんだ。

——ちなみに、首からも覗いているタトゥーにまつわるエピソードについて、何か教えてもらえますか。

ジョー:パパは首のタトゥーが嫌いだから、「ポップス」って入れてやったんだよ、パパって意味さ。いろいろあるけど……これって、間違った決断のタペストリーみたいなもんだね。

PHOTOS:YUKI KAWASHIMA

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