
スポーツ用品メーカーのミズノは、化学メーカーのカネカと共同で、海洋で分解される世界初のスポーツ用生分解性人工芝シリーズを開発した。カネカが開発した植物由来の生分解性ポリマー「グリーンプラネット」を採用し、スポーツ性能と環境配慮を両立。従来の人工芝が抱えていたマイクロプラスチックの海洋流出問題を抜本的に解決する製品として、2025年内の発売を予定している。
近年、海洋生態系に深刻な影響を及ぼすとして地球規模の緊急課題として注目されているのが、5ミリ未満の微細なマイクロプラスチックだ。自然分解することなく、海中に蓄積していくため、解決策として世界各国でプラスチックの使用規制や代替素材の開発などが進んでいる。環境省の調査によると、海洋プラスチックの約8割は陸からの流出だと報告されている。
一方、ミズノは20年間で約300のスポーツ施設や広場にプラスチック製人工芝を導入。野球専用の人工芝は、プロ野球6球団の本拠地球場に採用され、25年シーズンにおいてシェアナンバーワンだという。
そんな中、マイクロプラスチック問題への対策としては、充填材の施設外流出を大幅に抑制する人工芝の開発や、摩耗した人工芝葉の流出抑制などさまざまな取り組みを行なってきた。また「人工芝がマイクロプラスチックの一因となっている」という実態調査結果が18年に公表されたのを機に、環境省などはガイドラインを作成。危機感を持った人工芝メーカー各社は流出抑制の工夫を重ねてきたが、雨風などで意図せず海に流出することもあり、抜本的な解決には至っていなかった。
転機となったのは21年10月。「人工芝メーカーが集まる会議で、30年までに土に還る人工芝を作ってほしいという発言があり、まったく新しい製品の開発に挑戦するきっかけになった」と、ミズノ グローバルエクイップメントプロダクト部用具開発課の土肥弘一氏は振り返る。
7回目の試作でようやく完成
土に還る人工芝を作るには、生分解性樹脂が必要になる。しかも、マイクロプラスチック問題を解決するには、土壌だけでなく海中でも分解されなければならない。その条件に適合する数少ない素材が、カネカの生分解性バイオポリマー「グリーンプラネット」だ。
「グリーンプラネット」は、植物油や廃食油を原料に培養され、加工された製品は土壌だけでなく、海中でも容易に二酸化炭素と水に生分解される。さらに任意の硬さに成形可能で、使用時は耐久性に優れるため、長期保管が可能なのが特徴だ。1991年にその生産菌が発見されて以降、研究開発が続けられ、バイオ技術と高分子技術を融合させることで工業化に成功。現在では、年間2万トン規模の生産体制を擁する。大手コーヒーチェーンのストローやカトラリーをはじめ、コンビニ、飲料メーカー、ホテルなどの資材に採用され、石油由来の代替素材として期待されている。
「人工芝は耐久性が要求される製品であり、『グリーンプラネット』にとっても新しい挑戦」と、カネカの常務執行役員グリーンプラネット技術研究所長の西村理一氏は語る。
ミズノは同素材を生かしつつ、スポーツ用人工芝としての物性と実用性を担保するため、21年から試作と評価試験を重ねた。最初の試作品は耐久性に課題があり、実用に耐える強度が不足していたが、配合比率や形状を再設計。23年9月に人工芝らしい見た目の製品ができ、24年7月の7作目でようやく、現行品と同等の耐久性と強度を持つ量産試作が完了した。また、海水中での分解実験も行われ、6週間後には人工芝が分解され始める様子が確認されている。
今回開発された製品は「屋内スポーツ用生分解性ロングパイル人工芝シリーズ」として、人工芝葉と充填材(弾性材)を展開する。これまで実現できなかったモノフィラメント構造の芝葉製造に成功したことで、風合いは従来品に近い。充填材もクッション性があり、水より比重の大きい設計とすることで、雨や風による流出を抑制する。「それだけでなく、植物由来原料によって石油資源の使用量を大幅に削減でき、二酸化炭素排出量も低減できる。原料調達から製造まですべて日本国内で行われるオールジャパン製品であることも特徴」と土肥氏は強調する。
今後は景観用人工芝や屋外スポーツ用人工芝の開発も検討中だ。自然環境での実地検証を重ねながら、段階的に広げていく。