「WWDJAPAN」には美容ジャーナリストの齋藤薫さんによる連載「ビューティ業界へのオピニオン」がある。長年ビューティ業界に携わり化粧品メーカーからも絶大な信頼を得る美容ジャーナリストの齋藤さんがビューティ業界をさらに盛り立てるべく、さまざまな視点からの思いや提案が込められた内容は必見だ。(この記事は「WWDJAPAN」2025年4月28日号からの抜粋です)
不老不死は人類の夢であり、永遠の課題……。おそらくは有史以前から、人はいかにしたら老いないか?いかにしたら生き続けられるのか?を考えてきたのだろう。でもそれがようやくようやく形になり始めた。それこそ何万年という時間を経て。
少なくとも老化を一つの病気として捉え、だから治療ができるという新しいアンチエイジングの考え方は、既に医学的にも1つの常識となっていて、今はその治療法がさまざまな分野で模索されている。そういう意味でも“不老長寿”は、もう実現は時間の問題ともいわれるのだ。
そんな中、にわかに注目を浴びているのが「老化細胞」。いや文字通り、老化の最大原因の1つともいわれていたものだけに、研究はかなり以前から始まっていたというけれど、ここへきて突如大きく話題となったファンケルの偉業。「老化細胞」を除去する成分を初めて特定したと発表したのだ。バラ科の「キンミズヒキ」に含まれる抗酸化物質「アグリモール類」で、体内の老化細胞が減少することを突き止めたというのである。既にこの成分を配合したサプリメント“ウェルエイジ プレミアム”の販売が始まっている。
人間の体内で年齢とともに細胞が老化していく際に、いわゆる分裂の予定回数を終えた細胞は、まさに細胞分裂を終了してしまう。その結果、もう全く何の機能も持たなくなった「老化細胞」となり、体の中に蓄積していくからこそ、それがたまるほどに人間は劣化していくとも言われるのだ。一方で、生活習慣病やアルツハイマーなども、この「老化細胞」の蓄積によるものではないかとの説も浮上。その除去が大きなテーマとなっていた。
つまり「老化細胞」はただのゴミではない。分かりやすくいうなら、体内の組織をカビさせてしまうような悪玉因子となって、致命的なダメージを与えてしまうものと考えていい。
だから当然のこととして、これまでにも「老化細胞」を除去する方法は研究されていたが、同時に健康な細胞まで影響してしまう可能性を否定できず、なかなかストレートに「老化細胞」だけを除去するものを特定するまでには至っていなかったと言うのだ。ましてやそれを薬として使う老化治療が始まるまでには、認可などで相当な時間がかかることになるのだろう。
だから、まずはサプリが先行することになるわけだが、どちらにしてもこれを機に、アンチエイジングにおける文脈ははっきりと変わるはず。当のファンケルも「老化は治る時代」と明言していて、明らかにフェーズが変わったことを物語っている。
ちなみに、今春リニューアルデビューした資生堂の美容液“アルティミューン パワライジング セラム”も「老化細胞に働きかける」をうたっている。長年の研究から「免疫を司るメモリーT細胞が、老化細胞も除去する」ことを発見。そのメモリーT細胞を活性化させ増加させる発酵カメリアエキスを配合しているのだ。
老化は治療できるという見解を発表したのはもちろん医学界だけれども、長いスパンで待たなければいけない医学による老化治療に先駆けて、奇しくも化粧品会社が「老化細胞」除去を先行して進めることになったわけで、ある意味ラッキー。化粧品のエイジングケアも、細胞への働きかけが始まってからもう久しいが、これは言わば劇的な展開。「老化細胞」除去を競う時代が早くも始まったと考えて良い。不老長寿へ、時代は一気に進むのである。
PROFILE:(さいとう・かおる)女性誌編集者を経て独立。女性誌を中心に多数のエッセー連載を持つほか、美容記事の企画や化粧品の開発、アドバイザーなど広く活躍する
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