ファスナー大手のYKKは3月5日、2025〜28年の中期経営計画を発表した。「ワクワクする商品開発」「DXによるスマートファクトリー」「社員のエンゲージメント」という4つを柱に据える。前中計で進めてきた定年撤廃やコストダウン&納期改革、ファスナー機開発をさらに一歩進め、25年度の設備投資は前年から倍増の803億円、25〜28年度の4年で2470億円を投じ、全世界的に設備の更新&増設を行う。大谷裕明・社長は「アジアを中心に設備を増強する。この中計の期間中には黒部事業所で24時間365日稼働するスマートファクトリーを実現させたい」と意気込む。
YKKは技術の総本山と位置づける黒部事業所で全世界のファスナー工場に供給するファスナー機械の開発と生産を行っており、前中計ではこれまで画一的だったファスナー機械の考え方を改め、地域や用途に応じた新型機の開発を行ってきた。25年度はこうした新型機を中国や東南アジアに投入するほか、欧州や米国でも工場の集約、設備の更新を行う。
また、地域で異なっていた業務や商品コードを、全世界的に統一・標準化する業務オペレーション改革を進めながら、デジタルテクノロジーも積極的に導入。取引先と生産現場をダイレクトにつなぎ、商品や生産状況を共有するDXにも取り組む。
また、黒部事業所ではこの24年10〜12月期から一部の生産ラインで、無停止・無人生産をスタート。今後4年で、24時間365日稼働するスマートファクトリーの基盤を確立させる考え。「現時点での課題は検品。AIなども導入し、画像検査による品質安定化を早く確立させる」(大谷社長)。
こうした積極的なDXの導入や業務改革の背景にあるのは慢性的な人手不足だ。働きやすさや働き方改革に加え、新しい中計ではやりがいやモチベーションの向上に加え、海外現地スタッフの登用と育成、国際間異動も見据えた人材育成に力を入れる。
25年3月期は2年振りのファスナー販売100億本超え
2025年3月期の業績見通しは、売上高が前期比14.7%増の4351億円、営業利益が同53.3%増の511億円、ファスナー販売数量が同13.2%増の101.1億本だった。ファスナー販売量が100億本を超えるのは、23年3月期以来2年ぶり。欧米市場の不振で流通在庫過多だった前年の状況が、徐々に解消した上、中国やインドを中心とした内需向けの新規顧客の開拓が奏功した。この数年「シーイン」「TEMU」といった新興企業の開拓にも取り組んでおり、中国エリアは過去最高の売り上げだったという。
26年3月期は、売上高1.4%増の4413億円、営業利益は同3.7%増の529億円、ファスナー販売数量は4.5%増の105.6億本を見込む。設備投資は前年から倍増となる803億円で、内訳は中国・アジア・中東・アフリカで541億円、日本・アメリカ大陸・欧州で249億円になる。
中計の最終年度となる2029年3月期は売上高5347億円、営業利益807億円、ファスナー販売は124.1億本を計画。4カ年の設備投資は2470億円を計画する。ただ、この設備投資の中には、スマートファクトリーやDXによる最新デジタル機器は含まれておらず、DXの進捗によってはさらに積み増す考え。
グループでは初の売上高1兆円超え
AP(サッシ・窓)も含めたYKKグループ全体では、25年3月期で初の売上高1兆円を達成する見通し。グループ全体の業績は売上高が前期比9.1%増の1兆36億円、営業利益が同13.6%増の627億円の見込み。
経営幹部も一新
YKKは4月から経営幹部が一新する。4月1日付で、2011年から同社を率いてきた猿丸雅之会長が退任し、代表権のある会長に大谷裕明・社長、新社長に松嶋耕一・副社長が昇格する。副社長には執行役員営業本部長の敷田透氏が就く。また、副社長に次ぐポジションとして上席常務執行役員職を新設し、九十九好司・商品戦略部長、米島久嗣・生産技術部長、松本光司・経営企画室長、坪島広和・中国総代表の5人が就任する。