住所:福岡県福岡市中央区今泉2-1-43 DXD bldg 創業:1989年9月9日 店舗面積:198㎡ 沿革:熊本でセレクトショップの草分け的存在であった有田正博「パーマネントモダン(PERMANENT MODERN)」元代表の一番弟子だった木下芳徳氏が創業。米スケートボードブランドからロンドン発デザイナーズブランドまで幅広く販売し、福岡のセレクトショップの代表格に。2014年、木下創業者の退任に伴い、アングローバル(現TSI)の傘下になった。 取り扱いブランド:「ヤエカ」「グラフペーパー」「バトナー」「シアージ」「アロハ ブロッサム」「トモ アンド シーオー(TOMO & CO)」「フィグベル(PHIGVEL)」「オールズ(ORRS)」など
「ダイスアンドダイス(DICE&DICE以下、ダイス)」は、1989年創業の老舗だ。店名はローリングストーンズ(The Rolling Stones)の「ダイスを転がせ」という曲から。「ファッションは西からはやらせる」という思いで米ストリート系ブランドを販売し、代理店だったこともある。吉田雄一ディレクターは、25年以上にわたり「ダイス」とともに歩んできた。2014年、アングローバル(現TSI)の傘下に入り、東京にも一時期出店、移転の話もあったが、福岡にこだわった。吉田ディレクターは、「東京では展開できないブランドがあるし、福岡で拡大するのもありだと考えた」と語る。(この記事は「WWDJAPAN」2025年2月17日号からの抜粋です)
福岡
PROFILE: 吉田雄一/ダイスアンドダイス ディレクター

人と人との縁がつなぐ“モノの価値”
取引先と顧客にとって“なくてはならない”存在
取り扱いブランドは、「ヤエカ(YAECA)」「グラフペーパー(GRAPHPAPER)」「バトナー(BATONER)」など約60ブランド。先代から、“はやっている”や“売れそう”という考えは“ダサい”と教育を受けてきた。「現状に満足せず変化し続け、多くのブランドを販売してきた。商品の本質に自信を持てるものだけを提案する」。オーダーにも「ダイス」らしさが表れる。満遍なくではなく、50、100と数字を積む商品もある。「“売れそうだから”ではなく“売りたい”という気持ちが大切。『これだ』と思えば売れる」。ニットやシャツ単品で、1カ月で1000万円以上を売り上げることも。ECをスタートしたのも吉田さんだ。約20年前に独学で始め、「撮影から発送まで、全部自分たちでやった」。今でも、店舗、EC、SNS全てを店舗スタッフが行う。19年、12月にECだけで1500万円を売り上げ、好調時は売り上げ比率が45%に到達。「全員、10時に出社し12時までECの発送をし、13〜18時まで店舗をオープンする」。通常、セレクトショップの営業時間は11〜20時だが、「ダイス」では店頭とECをスタッフで効率よく運営して売り上げに結びつけている。「コロナが教えてくれた5時間。自信を持って提案すれば、必ず来店してもらえる」。これも、継続して売り上げを伸ばし続けられる理由だ。
「ダイス」では、トークショーやインタビューを通して、商品の背後にある思いを伝えることに注力している。それも売り上げに反映される。2階の壁は、来店した人々のサインでいっぱいだ。「ステューシー(STUSSY)」のショーン・ステューシー(Shawn Stussy)やDJ兼写真家のニコラス・テイラー(Nicholas Taylor)などの名前もある。取引先から支持されるのも「ダイス」の大きな特徴だ。来店した沖縄発「アロハ ブロッサム(ALOHA BLOSSOM)」のディレクターは吉田さんと意気投合し、「販売してほしい」とアプローチ。その縁が広がり、取引に発展したブランドも多数ある。吉田さんは、「ブランドとは違う角度で発信することが大切。われわれが存在することで、ブランドのファンが増える、そんな店であるべきだ」と話す。「ダイス」は創業時のスピリットを保ちつつ、ブランドと消費者にとって、なくてはならない存在として歩み続ける。
EDITOR’S NOTE
“語りたいものを仕入れて売る”
創業からブレない姿勢
セレクトショップの存在意義を実感した取材。差別化や新しさが重要視されるセレクトショップだが、「ダイス」にはトレンドも他社も関係ない。創業者の熊本スピリットを引き継ぎ、自分たちが納得した品質の良いブランド、商品にこだわり販売。そのために、接客などを通してモノの背後にある人の思いを伝える努力を惜しまない。店頭イベントやウェブなどによる発信は、単なる“販促”というよりも“伝えて共感したい”という気持ちの表れだ。それが取引先やクリエイターとの縁を作り出し、顧客の輪を広げている。吉田ディレクターの本質を見極める力と人間力、優れたビジネスセンスが融合した見事なリーダーシップに支えられているショップだ。