
ビューティ賢者が
最新の業界ニュースを斬る
ビューティ・インサイトは、「WWDJAPAN.com」のニュースを起点に識者が業界の展望を語る。今週は、ビューティブランドのタッチアップの話。(この記事は「WWDJAPAN」2024年7月22日号からの抜粋です)
PROFILE: 渡邉弘幸/ウカ代表取締役CEO

【賢者が選んだ注目ニュース】

ウカはストア事業を本格的に開始して4年になる。原点を理美容とし、トータルビューティサロン発でスタイリストやネイリストがお客さまと直接触れ合うことで生まれた商品だからこそ、お客さまに直接商品の説明をする必要があるという思いから始まった。ゆえにタッチアップはとても大切な取り組みの一つだ。
今では複数の商業施設に出店していることもあり、ほかのブランドの商況が耳に入ってくることも多いが、直近の化粧品フロアの商況はどこも伸び悩んでいる印象だ。ニュウマン横浜店も同様なのだが、ウカのストアは客単価、来店客数、リピート率、総売り上げ、新規客数、全てにおいて前年比をクリアしている。その理由を橋本美波店長に聞いたところ、秘訣はタッチアップにあると言うのだ。
ウカはトータルビューティカンパニーとして頭皮ブラシ“ケンザン”を目的に来店されたお客さまに対してヘアケアに限らず、「実はシャンプーする際にネイルが剝がれ落ちないように開発した」という裏話から、マニキュアをお薦めすることもある。はたまたネイルを目的とする人に頭皮スコープを使った測定を紹介したり。タッチアップによって、コミュニケーションが広がり、クロスセルが生まれ、リピートにつながっていくのだ。
神戸阪急とはともにリピート客の育成の鍵として、ストアでネイル施術を行っている。2〜3週間に1回のネイル施術に来店する際にはビューティフロアだけでなく、ほかのフロアへの買い回りを生み、商業施設全体に対してのリピートを生み出す構造につなげている。どのブランドもコロナ禍でオンラインにシフトした客足をいかにリアルに戻すかに注力して久しいと思うが、タッチアップには顧客との距離を縮め、ブランドや商品の魅力・効能を深く知ってもらうだけでなく、リピートさせる力があるのだ。「ナーズ」がタッチアップに力を入れていることを知って、われわれもこの方針で間違いないのだと感じることができた。
「ナーズ」は売上高1000億円規模と非常に大きなブランドだが、タッチアップという原点とチーム力を感じたのだった。フランソワ・ナーズのやり方をブランディングとして徹底することはブランドの大きな強みだろう。トレンドはいわば味付けのようなもので、それにばかり目がいくと芯のないふわふわしたモノ作りしかできない。クリエイターの意を酌み、ブランドチームがそのフィロソフィーをブレさせることなく生活者に伝える。そして商品設計がタッチアップによってさらに際立つことに、現場のスタッフも共感して向き合っているのではないだろうか。タッチアップという体験を提供することは、そこで働く人のプライドを育むことにもつながると考えている。
日本発のビューティを世界にどう届けるか
グローバルな化粧品企業エスティ ローダーと日本企業の初の協業は、非常に勇気づけられたニュースだった。僕は新ヘアケア“リジェネラティブ グッド”シリーズを作るに当たって、さまざまな農家やサプライヤーの元に足を運ぶ中で、改めて国内の原材料に目を向けることができた。エスティー ローダーが着目した米は日本の伝統的な農作物であり、長い年月をかけて磨かれた技術がある分野だ。しかし、少子化で消費量が減り、国内では秀でた技術を生かしきれずにいる部分も大きい。そうであれば外に目を向けて、維持継続していく方が圧倒的にポジティブな結果になるだろう。われわれが新ヘアケアに採用したクロモジも同様だ。需要が高まり、海外でも重宝されるようになればアルガンオイルやダマスクローズのように、その土地固有の原材料として広く日の目を見ることになるだろう。日本が国として向き合わなければいけないのはこういうところにもあるはずだ。
2025年、アメリカでは人口を構成する半分以上の人種が白人以外のマイノリティーとなるといわれている。中でもアジア人の人口は一番伸びている。エスティ ローダーもアメリカの企業だが、アメリカが対アジアに向けたモノ作りを意識し始めるのは紛れもない。日本産のものを海外の人に理解してもらう背景にはアジア人人口の増加や、円安の影響もあるだろう。一つ一つのファクトが重なれば日本の国力回復につながりそうだ。