ファッション

川内倫子✕潮田登久子のクロストーク 撮り続けることで見えてくる自由とは

「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭(以下、KYOTOGRAPHIE)」で現在開催中の展覧会「From Our Windows」は、文化・芸術分野での女性アーティストの貢献と認知を促すケリングの「ウーマン・イン・モーション」プログラムによって支援されている。

今回サポートするのは、写真家の川内倫子と潮田登久子による対話的展覧会「From Our Windows」だ。同展で川内は、祖父の死を含めた13年間の家族アルバムである「Cui Cui(キュイキュイ)」と自身の出産から約3年間、子どもの姿や子育ての中で出合った身近な風景を撮りためた「as it is」を展示している。潮田は家庭にある冷蔵庫の外側と内側を定点観測的的に撮影した2枚組のモノクロ写真シリーズ「冷蔵庫/ICE BOX」と、夫で写真家の島尾伸三と娘のしまおまほとの約40年前の生活を記録した「マイハズバンド」を展示。作品展示に合わせて40年前から大切に取っているという思い出の品々も見られる。

「KYOTOGRAPHIE」開催初日に行われたトークイベント「撮り続けること、自由であること」ではモデレーターに批評家、作家の竹内万里子を迎え、同展の開催までの経緯や2人の作品に流れる時間や生命観、展示構成の裏話まで広くトークが交わされた。

展示が完成してから始まった2人の対話

同展のタイトルが「From Our Windows」に至った経緯について川内は、潮田とは初対面であるものの「40年くらい前に撮られた昔の写真ですが、潮田さんの過去の作品と比べて新鮮に見えました。自分も娘を被写体にしていたり、家族を撮影したシリーズがあって親近感を感じました」と、2022年に潮田の「マイハズバンド」を観た時に感じた自身の作品との共通性を挙げた。

一方で指名を受けた潮田は、川内の名前こそ知っていたものの、東京都写真美術館に収蔵されている写真集が作品との初めての出合いだったことを明かした。当初は気後れしたが、初期作品で川内が使用していたカメラが参加の後押しになった。「川内さんは最初の頃、『ローライフレックス』の6×6のフィルムで撮っていらっしゃって、私は『ゼンザブロニカ』という古い6×6判一眼レフカメラを使っていました。冷蔵庫の作品もすべてそのカメラで撮影していたので、四角い窓繋がりという、かすかな接点で、もしかしたら話が合うかもしれないと思いました」と、川内作品との出合いから同展の参加を決めた理由までを明かした。

その後の二人のやりとりは、打ち合わせ以外ほとんどなかったというが、どのように展示は作られていったのか。完成した空間について川内は「展示会場に同じサイズの部屋が2つあったので、それぞれの部屋を作り上げていくように進んでいきました。結果的にはお互いの個性が引き出されていながら、ゆるやかに繋がっていく展示になったと思います」と語り、潮田は「工夫もしてみたかったのですが、私は私でしかいられない。何かを変えて新しい自分を見せることはできないので、ありのままを展示しました」と説明した。

一家に一冊あるべき写真集

会場の京都市京セラ美術館 本館南回廊2階に設らえた会場では、それぞれが自身の家族を撮影したシリーズが一堂に紹介されていて、潮田の「冷蔵庫/ICE BOX」シリーズから始まる。写真に写る、さまざまな冷蔵庫の外側と内側からは、持ち主の経済状況や性格さえも浮き彫りになる。「マイハズバンド」では、夫で写真家の島尾伸三と娘のしまおまほの3人で暮らした世田谷区・豪徳寺の洋館での日常を撮影。にぎやかな時間と夜の部屋で一人向き合った孤独を感じる作品群が、約40年の時を経て結実した物語を時間とともに紐解いていく。

川内の展示「Cui Cui」では、1992年から2005年までの13年間に撮り続けた、正月の団らんや兄の結婚式、祖父の死、新たな命の誕生まで、特別ではない日常の風景といった誰もが経験する家族の誕生と死が記録されている。「as it is」は、自身の出産から約3年間、子育ての中で出会った子どもの姿や身近な風景を撮りためて構成されているのだが、自身の家族と共に日常風景を見つめ直すことで、原点に立ち返るような印象を受ける。

川内は「写真家である私達の特権というか、写真で会話をするようにお互い隠し持ってきたプレゼントを渡し合うような感覚がありました」と写真を介して紡がれた対話と交流の一端を明かした。

潮田は川内の作品に自身の記憶が重なったという。「川内さんが13年間撮影されてきて、1枚1枚ページをめくる毎に、自分の昔の体験が結びついてきたんです。私のおじいちゃんもステテコを穿いていたとか、扇風機の置き方が似ているとか。電線に止まる雀の風景も、私のアルバムでもあるような気がしたんですね。おじいちゃんとおばあちゃんの優しそうな表情を見て、きっと二人を中心にして家族が回っていたんだろうと、私なりに想像しました。素晴らしい作品集で、一家に一冊あって良い」と絶賛。

同展が完成するまでほとんど打ち合わせをせずに進められたというが、偶然にも展示方法が全く異なる点も興味深い。作家としてのお互いの共通点はどこにあるのだろうか。

川内は「潮田さんの『マイハズバンド』も作品集にするために作っていたわけではなく、記録的に撮っていらっしゃった写真が、40年という時を経て、倉庫の中で見つかって出版されることになりました。私の『Cui Cui』も作品集にするために撮っていたわけではありません。自分が写真を撮る仕事をしているので、記録しておいた方がいいかなという気持ちで撮影を続けてきました。ですので、家族というテーマの作品集を作ったというよりも、初めて自分が経験した一番小さな社会でのリアルな体験で一巡したこと、循環やサイクルということがテーマになっています」と話し、潮田も「題材は全て身近なところにある。川内さんもそうだと思うし、そこから始まっているという意味では『冷蔵庫』も『マイハズバンド』の景色も同じなんです」と同調した。

展示では、川内の「Cui Cui」はオリジナルプリントの手焼きプリントを同じサイズで淡々と鑑賞できるように設置されている。「as it is」の空間では、ライトボックスを多用していて作品から光が溢れているような体験もできる。一方で、潮田の作品群は額装されピンナップ形式で壁一面に展示することで、オリジナルプリントをしっかりと観賞できる。たくさんの私物も展示されていることで作品のストーリーが鮮明になっていく。

川内は「潮田さんの私物がたくさん展示されているんですが、それらを捨てようとしたら島尾さんに止められたそうです。『物がなくなると自分を思い出すよすががなくなる』という言葉がすごく印象に残っています。『Cui Cui』を撮り出したきっかけは、祖父母が亡くなってしまうことへの恐怖感でした。そこから残しておきたいという気持ちが大きくなっていきました。写真から記憶が呼び覚まされることがあることを改めて実感しました。潮田さんとの写真の対話です」と話し、潮田は「私も『Cui Cui』を見て、記憶が蘇ってきました。スイカが美味しかったとか、いちごをつぶして食べた記憶まで全てがおもしろいんです。芸術性という以前の問題で、そういうことに自分が心を動かされたことに驚いてしまいました」と結んだ。

作品に流れる時間と日常

トークイベントのタイトル「撮り続けること、自由であること」は、川内が潮田とのメールのやり取りの中で印象に残った言葉から引用したことが明かされ、会場ではその言葉が読み上げられた。

「カメラという小部屋を手にすることで、何物にも制御されない時間を得ることができました。長い年月の間、写真を撮り続けているうちに見えてきた自由です」

川内は「子育てが忙しい上に、ある意味で女性が生きにくい時代の中で、潮田さんはカメラという小さい部屋を手に入れて、それが自由を得るための場所だったということに非常に共感を覚えました。自分も無意識に続けてきましたが、作品を撮り続けることで自由を得てきましたし、撮り続けないと見えなかった自由の存在に気付き、今回のタイトルにしました。

そして、私たちの共通点として時間の積み重ねがありました。お互い晩婚で高齢出産を経験していたり、それまでずっと一人で撮り続けてきて、途中で家族というチーム編成ができあがった。私が1人でコツコツ撮っていたとき、潮田さんも同じように撮っていたんだなと、僭越ながら仲間を得たような、先輩に会えたような感覚がありました」。

この言葉に潮田は「川内さんの写真とのコラボレーションは、私が勇気をもらう展覧会になりました。本当にこのような場を作ってくださったKYOTOGRAPHIE、そしてケリングのサポートがあってこそですし、スタッフの方々、会場を設えてくださった方々の献身的な姿を見てきました。本当に感謝しています」と締め括った。

◼️川内倫子/潮田登久子「From Our Windows」
川内倫子「Cui Cui + as it is」
潮田登久子「冷蔵庫/ICEBOX + マイハズバンド」
Supported by KERING’S WOMEN IN MOTION
会場:京都市京セラ美術館 本館 南回廊2階
住所:京都府京都市左京区岡崎円勝寺町124
時間:10:00〜18:00

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