ファッション

リペア・リセールで循環する、京都「ミッタン」の「過去を肯定し続ける」服作り

三谷武/「ミッタン」デザイナー プロフィール

岡山県生まれ。2005年文化服装学院卒業。京都や大阪のメーカーを経て13年に三谷企画室を設立し、「ミッタン」をスタート。17年、合同会社スレッドルーツとして法人化。21年から製品買い取りを開始。23年11月、京都市左京区に初の直営店をオープン PHOTO : MAYUMI HOSOKURA

京都拠点のアパレルブランド「ミッタン(MITTAN)」は、修繕や染め直し、再販を通じてブランドコンセプト“永く続く服”作りに挑戦する。店舗を訪れると接客や製品内容から好循環が生まれていると実感したが、循環型ビジネスは、言うは易し行うは難し。どのように循環型のモノ作りを実践しているのか。三谷武デザイナーに話を聞くことにした。

“永く続く服”提案のために

「ミッタン」は2013年の創業当時から修繕と染め直しを行う。卸中心のビジネスで現在の販売店舗数は約80。2023年8月期の売上高は2億5000万円。社員12人で、修繕や染め直しを含めたブランド運営を行う。価格帯はコートが5~7万円、ジャケット3~5万円、シャツとパンツが2万5000~3万5000円程度。18年頃から社員の採用を始めて、“永く続く服”提案のための施策を増やしている。21年1月出荷分から生産背景を伝えるQRコードの運用を、同年製品の買い取りも開始した。23年11月には直営店を京都大学近くにオープン。修繕や一部染め直しは併設のアトリエで行う。下取りは製品の状態に関わらず一律小売価格の2割。これまでに370着を買い取った。買い取った製品はクリーニングを経て、必要に応じて修繕や染め直しを行う。例えば首回りがほつれたニットは異なる色に染めた糸で補強するなど、修繕のセンスがいい。店頭でも修繕した製品から動く。直営店には、新品と再販品、サンプル品やB品が同じラックに並ぶ。QRコード付きの製品タグは、製品情報や洗濯などのケア方法のほか、QRコードからより詳しい製品情報や開示に応じた工場の所在地などを知ることができる。

営業日は木曜から土曜の週3日。客の半数以上は府外からの顧客だという。店頭に立つのは製品に詳しい営業スタッフや三谷武デザイナー自身だ。ラックに並ぶ再販品や新製品、サンプル品の説明のほか、質問すると、製品のストーリーやブランドコンセプトを直接デザイナーから聞くことができる。

店を持った理由は「再販品を売る場が必要だったことに加え、直接ブランドストーリーを伝えたかったから」。購入率が高く、中でも再販品がよく動く。クリーニングのみの再販品の価格は上代の4~5割程度。「新品は安い価格帯ではないので、試してみたいという方が再販品を手に取ることが多い。ブランドの考えを理解してくださっている方も増えている」。修繕は500円から、染め直しは2000円からと安心の価格設定だが、これでは利益は出しづらい。「確かに利益は出ない。売価に吸収させるのではなく、販管費として考えている。広告費はほとんどないが、修繕・染め直しの活動自体がブランディングに寄与していると考えている」と三谷。

店頭で直接接客するようになり、顧客と一緒に“永く続く服”を作っている感覚が強まったという。「修繕や染め直しの依頼時や買い取りしたときに私たちに託してもらっていると感じる」。QRコードを付けて製品情報を提供するのは「誰がどのように作ったかを知ると簡単に捨てられなくなるから」。第三者認証でトレーサビリティを担保するというよりは、製品のストーリーを伝えるためだ。

“作ったものを肯定し続ける”ために新製品はスタッフ全員で検討

製品ラインアップは定番品が約7割、新作が約3割。ハンカチなどの小物を含めて適正数だと考える70~80型程度をそろえる。製品デザイン時に考慮するのは「長く着ていただけること。シーズンごとに新作を発表する場合、1シーズンだけ肯定できるものを作ればいいが、『ミッタン』では数シーズンにわたり販売するものもあるし、再販品と新品が同じラックに並ぶ。過去に作ったものを肯定し続ける必要がある」と語る。デザインは「世界に遺る衣服や生地にまつわる歴史を元に現代の民族服を提案する」ことを念頭に、時代の流れにとらわれることのないよう心掛けている。民族服の平面的な構造を再解釈したデザインが多く生地の無駄が少ないものもあるが、通常パターンの製品もある。「生地のロスはおおむね30~5%。全ての生地ではないが、残布を使った製品も提案している」。新製品は全社員で検討し、修理のしやすさに加え、加工や染色、縫製に関しても強度を検討する。

原料は綿、麻、毛など天然素材が中心で、素材の持つ機能を生かす。紡績、染色、編立、縫製はほぼ日本で、一部染色や手織りは海外で行っている。遠州、播州、尾州など日本各地の機械織りの生地やインドやラオスの手織りを使用し、可能な限り機場を訪れ素材開発にも取り組む。サプライヤーの選定は、従業員が法的に守られているか、書面で契約書を交わす。「一方的に聞こえるかもしれないが、お互い契約を守ってないことが分かれば契約を解消することができる」。

「搾取工場」と「マルジェラ」、学生時代に影響を受けたもの

三谷が学生時代を過ごしたのは1990年代~2000年代初頭。「90年代後半に『ナイキ(NIKE)』や『ギャップ(GAP)』のスウェットショップ(搾取工場)の問題や、(カナダのジャーナリスト)ナオミ・クラインの『ブランドなんかいらない』や(カナダのバンクーバー拠点のアドバスターズ・メディア財団が発行する雑誌)『アドバスターズ』が話題になり影響を受けた。無意識のうちに消費行動を促されているのではないかという考えや、必要ではないものを購入させることでその裏には虐げられている人がいることを認識した」と振り返る。一方、90年代はデザイナーズブランドに勢いがある時代でもあった。「99年に京都国立近代美術館で開催された『身体の夢 ファッションOR見えないコルセット』展でマルタン・マルジェラ(Martin Margiela)による野外インスタレーションを見て、この道に進むと決めた。しかし、同じ頃、アパレル産業では搾取工場の問題などの課題も浮かび上がっていた。憧れだけで飛び込めば、意図せず負の面に自分も加担もしかねない。自分で判断しないとアパレルは危うい世界だと気付かされた」。

ブランド設立は大阪だった。「モードを提案するなら東京がいいが、そうでないなら東京である必然性がなかった。産地も関西の方がアクセスしやすい」。たまたま物件が見つかったタイミングで拠点を京都に移した。

不確定要素が多い中で間違っていないのは“永く着ること”

サステナビリティの機運が高まる中、さまざまな議論が進んでいるが、「不確定情報が多い中で、長く着られる服を作ることは間違っていない」と衣類の長寿命化に取り組む。現在の課題は「修繕や染め直しをした製品の価値向上」だ。一律2割で買い取っているため「再販するまでのハードルが高い製品――例えば朽ち果てそうな状態や大きく変形してしまっている服――を買い取った際、どれだけ手をかけるかという点と販売価格とのせめぎ合いがあり難しさを感じている」。適正なビジネス規模について聞くと、「方法が間違っていなければスケールすることは是としている。アパレルは関わる方が多い。できる限り良いインパクトを与えていきたい」。

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