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今週は、花王の化粧品とスキンケア事業の戦略について。
佐藤和佳子/三菱UFJモルガン・スタンレー証券 シニアアナリスト プロフィール
(さとう・わかこ)1992年に岡山大学大学院自然科学研究科修了、同年住友信託銀行に入社。94年から株式アナリスト業務、2006年入社のみずほ証券を経て19年5月から現職。日経ヴェリタスのアナリストランキングにおいてトイレタリー・化粧品セクターで17年から6年連続で1位を獲得
【賢者が選んだ注目ニュース】
花王は、スピーディーな変革を目指し“グローバルシャープトップ”戦略を掲げている。“グローバルシャープトップ”とは「顧客の重大なニーズにエッジの効いたブランドやソリューションで世界No.1の貢献をすること」。2027年度の中期経営計画「K27」の下、成長ドライバー領域のグローバル拡大に向けて、化粧品事業とスキンケア事業の成長戦略を加速する方針だ。
化粧品事業では、「センサイ」「モルトンブラウン」「キュレル」の3ブランドを“ファーストランナー”と位置づけ、グローバル化の基盤づくりを推し進める。“セカンドランナー”には「カネボウ」「ケイト」を挙げ、これらの戦略的投資を拡大。27年までに売上高3000億円規模を計画している。
まず、ファーストランナーの3ブランドを強化する考えは的を射ていると感じた。化粧品は、いま売れている商品を維持する投資も大切ではあるが、次の成長を迎えるためには、新たな商品を育成する必要もある。それは、化粧品が流行に左右される商材で、売れている商品だけに依存するのは大きなリスクを伴うからだ。その点、花王の化粧品事業は競争優位とされる次の市場を見定めている。また、G11(グローバル戦略ブランド)とR8(国内戦略ブランド)に絞り込み投資を集中しているが、例えばG11に選定した敏感肌向けの「フリープラス」は今年、EC専用ブランドとしてリニューアルを実施した。チャネルとブランドとの適合を考え、整理できているのは強みだ。他社と一線を画す戦略は独自性があり、興味深いチャレンジである。
一方のスキンケア事業では、紫外線から肌を守る“UVケア”、紫外線を浴びずに日焼けしたかのような肌を演出する“セルフタンニング”、蚊を寄せ付けにくい肌にする“環境プロテクション(忌避剤など)”の3ジャンルを“スキンプロテクション”として、27年までに売上高740億円を目標に掲げている。スキンケア事業の基幹であるUVケアは、グローバル市場で約1兆5000億円規模(ユーロモニター調べ)と今後も成長を見込めるカテゴリーであるが、世界では薬機法規制による参入障壁が高い。
UVケアは地域によって薬機規制に差があり、例えばアジアでは化粧品管轄であるが、アメリカではOTC薬品の規制下で管理されているという。今年ようやく「ビオレ」のUVケアシリーズでこの参入障壁を突破し、北米や欧米に展開することを実現した。花王独自の技術を強みに、競争力を高めていく考えだ。セルフタンニングは、1988年に買収した「ジャーゲンズ」や今年買収したオーストラリア発の「ボンダイサンズ」で訴求し、グローバルで確固たる地位の確立を図る。環境プロテクションは、アジアや中南米の地域で社会問題となっているデング熱(蚊が媒介する感染症)の予防として、花王独自の技術を応用した蚊よけ商品“ビオレガード モスブロックセラム”を開発。タイを皮切りに、デング熱のリスクがある地域に拡大していく予定だ。3ジャンルとも注力するエリアは中国や北米で、スキンプロテクション市場で世界No.1のシェアを目指している。
これらグローバル化を進めるにあたり、地政学リスクは避けては通れない。地政学リスクを考慮し、1つのエリアに頼らずにグローバルでバランスのとれた事業成長を目指す戦略や、自社の技術力をしっかりと自己分析できているスキンプロテクションを成長させるというのは説得力のある策だと思う。
国内の課題ともいえるヘアケアに関しては、今年度から新しいチーム体制を敷き、顧客満足を高める花王らしいスキームを組んでいるという。来年度からハイプレミアム市場への挑戦を控えており、期待が寄せられる。
W11に立ちはだかる課題
国慶節の大型連休を迎えた10月初旬は、福島原発の処理水放出の影響が心配されたものの、冷静に判断した中国人の訪日客が増えている。しかし最近は、KOLが日本企業のプロモーション活動をキャンセルするなどの影響が出始めていると聞く。各プラットフォームの検索結果で日本商品が推奨されにくくなるなど、新規客の獲得が難しくなっているという。11月には中国最大のEC商戦のW11(独身の日)を控えている。自社の美容部員によるライブコマースを実施する企業もあるが、日本企業にとって今年のW11は売ることへのハードルが高くなりそうだ。
