ファッション

「JW アンダーソン」のショー会場はゲームセンター! 混沌とした時代をゲームのように楽しんで

 「重要なのは、ロンドンのデザイナーが団結すること。ショーのキャンセルは、特に若いデザイナーにとって金銭面で大損失となり得る。私が率先して開催を決め、2年半ぶりにロンドンでショーができて良かった」。ショー直後にジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)は、バックステージでいつになく安堵の表情を浮かべていた。エリザベス女王の死去を受けて、2023年春夏シーズンのロンドン・ファッション・ウィーク(London Fashion Week)でいくつかのブランドがショーを中止するなか、「JW アンダーソン(JW ANDERSON)」 は9月17日(現地時間)、予定通りリアルショーでコレクションを発表した。

 長年ショー会場に選んでいた無機質な空間からは打って変わり、今季はネオンの光が眩しいゲームセンターの通路をランウエイにした。「JW アンダーソン」の旗艦店の横に位置するゲームセンターは、彼が学生時代に夜な夜な足繁く通った場所という。

 ルックは、拡大したキーボードの飾りや、ハンガーを吊るして支える逆さまのニットウエア、卵型の鏡のミニドレスなど、ビデオゲームに引けを取らないプレイフルな要素が満載だ。「“反映”の考えが起点となった」とコレクションについて説明したアンダーソン。「例えば、ビデオゲームのスクリーンが反射した白いTシャツ。スマートフォンやパソコンに夢中になって、機械と身体が一体化したような感覚。ますます曖昧になる現実と仮想の境界線。異なる要素が溶け合う感覚を得て、私達は新しい世界を生み出しているようだ。衣服とは、今この瞬間と私達自身を“反映”するもの」と続ける。ファーストルックの中央に書かれたPREMIUM BLENDとは、今季のテーマである“異なる要素の混合”を意味しているのだと想像させた。アップサイクルしたプラスチック素材の生地にプリントした自然風景は、人工と自然の出合いを物語る。何よりも今この瞬間を反映していたのは、エリザベス女王に捧げる黒のラストルックだ。

 非現実的なシルエットとは対照的な、男女のモデルが着用したアシンメトリーのスリップドレスやシワ加工を施したオーバーサイズのTシャツ、ジャージードレスにフーディーといった、馴染みある日常着にひねりを加えたルックには妙な安心感があった。「新たな場所へ向かう途中で、ありきたりで純粋な物に心惹かれることだってある」とアンダーソンは言い、「美しさや正義を決める方法が、楽しいゲームであってもいいと思う」と楽観的な言葉で締めくくった。無秩序な世界の中に生きる人間の意識を探求したようなコレクションだ。過去数シーズン続く超現実主義の奇妙な世界観は変わらないが、Tシャツに飾られた地球の装飾がスパンコールでキラキラと輝くのは、コロナ後の世界に明るい未来を見出したことを示唆しているようである。運命に身を委ねてスリリングなゲームを楽しむか、怖気づいて賭けない道を選ぶのかは自分次第。ゲームセンターの入り口の“Let’s Play!”の文字には、さまざまな意味が込められているように感じられた。

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