ファッション

「チカ キサダ」デザイナー夢の舞台 バレエ×ファッションの公演「バレエ ザニュークラシック」の裏側

 クラシックバレエのガラ公演「バレエ ザニュークラシック(BALLET TheNewClassic)」が、8月初旬に東京・恵比寿で開催した。衣装を担当したのは、ウィメンズブランド「チカ キサダ(CHIKA KISADA)」の幾左田千佳デザイナーだ。幼少期よりクラシックバレエを学んできた幾左田にとって、クリエイションの根幹にあるバレエの衣装を手掛けることは、デザイナーとしての夢の一つだった。

バレエの古典作品を
現代の価値観で再解釈

 同公演は、「眠れる森の美女」「ジゼル」「瀕死の白鳥」「ライモンダ」といったクラシックバレエを代表する作品を、古典芸術の枠にとらわれず、現代の価値観で再解釈するプロジェクトだ。井上ユミコ企画のもと、ファッション界で活躍するクリエイターが集結。ヘアはKENSHIN、メイクは鷲巣裕香、演出はクロコ(KuRoKo inc)の梅田亜希子、宣伝美術はOTUAの石井勇一が担当した。キャストには、公演の舞踏監修も務めた堀内將平(しょうへい)をはじめ、中村祥子や二山治雄、水谷実喜、池本祥真、太田倫功ら国内外で活躍する計11人のスターダンサーが集い、3日間の公演は全席完売という注目度の高さだ。

 公演は2部構成で、1部は個々のダンサーが際立つ7つのプログラム。初日の本公演前に行われた関係者向けのプレビューでは、バックステージで幾左田を中心に衣装の調整が開始直前まで続いた。「こうした方が美しいかも」「そっちの方がラインがきれいに見えるよね」――前夜から1ミリ単位の調整を続けるほど、ダンサーと幾左田の美を追求する姿勢には一切妥協がなかった。

バレエを愛する幾左田の
斬新なアイデアが生きる

 「眠れる森の美女」“ローズ・アダージョ”で幕開けし、当時最先端だった音楽やロココ調のファッションを現代風にアレンジ。オーロラ姫に扮した水谷実喜は、ピンクのレザーコルセットにチュールをたっぷり使ったチュチュをまとう。「チカ キサダ」らしいパンクとエレガンスのコントラストが効いた衣装が、水谷のゆるやかな動きに合わせて美しい余韻を残した。

 ほかにも、ベルリン国立バレエ団でプリンシパルを6年間務めるなど、国際舞台で活躍した中村祥子は、「瀕死の白鳥」に登場。同プログラムでは羽根が付いた衣装をまとうのが一般的だが、中村のチュチュには羽根が一枚もなかった。「最初は、『瀕死の白鳥』だし、羽根がある方がいいのでは、と提案したんです」と中村は振り返る。「でも千佳さんから『動物愛護への思いや、世界について考えようというメッセージを、衣装を通じて発信したい』と言われて理解できました」。羽根を外してシンプルにした分、細かいピンタックと大きなランダムタックで羽の芯を表現した。

 さらにコルセット部分を覆う異質なPVCにも、バレエについて頭と体で考え続けてきた幾左田ならではのアイデアがあった。それは、着用後にダンサーの体温によってPVCの内側に湿気がこもり、それが水滴となってスパンコールやラインストーンのように輝くという仕掛けだ。中村は、「観客にその輝きがはっきり見えるかは分かりませんが、少しでも雰囲気が伝われば、デザインとして正解。千佳さんの衣装は、チュチュから何かを想像させるようなアイデアが詰まっています」とにこやかに語った。

 2部の「ライモンダ」は、ダンサー11人が総出演する迫力の演出だった。衣装は、男女ともにヌードカラーとグレンチェックを取り入れて一体感を出し、女性用のドレスには、むき出しにしたパニエにゴールドとシルバーのシャイニー素材を使って強さと美を共存させた。クラシックバレエの革新に挑んだ公演は、盛大な拍手とともに幕を閉じた。

「バレエとファッションを
結び付ける表現は無限にある」

 公演後の幾左田に話を聞くと、初の大仕事に手応えを感じているようだった。「いつかはバレエの衣装をデザインしたいという夢があったので、井上ユミコさんから依頼を受けたときは即決でした」と、今回のプロジェクトに参加したきっかけを話してくれた。男女合わせて22体の衣装を手掛ける際にこだわったのは、自身のブランド「チカ キサダ」らしさだった。「クラシックなバレエの衣装を現代風にアップデートさせると同時に、今回は『チカ キサダ』のデザイナーとして参加したので、テクニックや素材使い、縫製などは普段通りの生産ラインで制作しました。ダンサーがストレスを感じない、ストイックな動きに対応するパターンは、通常のコレクションのそれとは全く違う。身の回りにあるもので、どこまでクリエイトできるか——それが私の挑戦でした」。

 “動きやすさ”と“見せる”アイデアを両立させたデザインは、幼少期からバレエを学び、ダンサーとして活動した経験があるからこそ。そしてデザイナーとして、愛するバレエとファッションを結びつけたいという思いは誰よりも強い。「バレエが広まった18世紀ごろは、ダンサーの衣装と観客の服に大きな差はなく、見る人は自分も着てみたいという感覚で公演を見ていたそうです。でも現代のバレエは、美術館で絵画を見る感覚に近い。だから今回は、見て満足するだけでなく、着てみたいと思わせる舞台衣装にしたかった。バレエは総合芸術なので、そういうファッションの感覚はとても大切」。かねてからの目標を一つかなえた幾左田だが、今回の経験を経てさらに夢が広がったようだ。「もっとたくさんの演目にトライして、いろいろなステージを経験したくなりました。バレエとファッションを結び付ける表現は無限にありますから」。

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