コロナでのロックダウンから2年を経て、ニューヨークに活気が戻ってきている。もちろん閉店した店も多く、”FOR RENT”の看板はよく見かけるが、なにしろ街には人が溢れている、という印象。ツーリストも年初から増え続け、街角ではいろんな言語が聞こえてくる。
なかでも出店が止まらないのはソーホーだ。2020年の春から夏にかけては、BLMの影響で暴動が起きるのを恐れた店側がドアやウインドーに板を打ちつけたため、街の雰囲気が一気に変わってしまった。その記憶はまだ新しいが、そんなことはお構いなしに前進し続けるのがニューヨークのすごいところ。前々から「シャネル(CHANEL)」「グッチ(GUCCI)」「セリーヌ(CELINE)」など高級ブティックが集まるソーホーだが、なかでもグリーンストリート(Greene Street)に出店が集中している。2021年の12月に「アミ パリス(AMI PARIS)」が米国初出店(77 Greene Street)を遂げ、同じころには「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」もNY2店舗目(101 Greene Street)をオープン。今年の夏には、「ジバンシィ(GIVENCHY)」が出店(94 Greene Street)。スウェーデンのブランド「トーテム(TOTEME)」は、近隣のマーサーストリート(49 Mercer Street)に先月出店を果たしたばかり。昨年9月には、OTBグループでロサンゼルス発のブランド「アミリ(AMIRI)」も新店舗をオープン(76 Greene Street)した。「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」や「サンローラン(SAINT LAURENT)」がある、グリーンストリートへの仲間入りを果たしている。
ファストファッション系が勢ぞろいのブロードウェイ沿いにも、スタートアップ系の下着ブランド「パレード(PARADE)」が昨年末にオープンした。20年にスタートしたばかりのブランドで、下着のデザインもカラフルで知られているが、ショップの中もインスタ映えするポップな色使い。インクルーシブとサステナビリティを掲げ、キャッチーなビジュアルでZ世代の気持ちをつかんでいる。創設者も20代前半の女性。商品の80〜95%はリサイクル素材を使用しており、23年までに100%を目指している。
「グロシエ」閉店後の
注目のビューティショップは?
ソーホーから東へ数ブロック行ったあたり、ノリータとチャイナタウンが交差するエリア、特にラファイエットストリート沿いにも新しい店が次々と出店している。
中でも注目なのは、コンデナストが発行するビューティ誌「アリュール(ALLURE)」が、なんとショップを昨年7月にオープン。カフェのような外観で、ゆっくり座れるテーブル席も用意されている。「セフォラ(SEPHORA)」などのビューティセレクトショップとは異なり、ブランド切りではなく、エディターが厳選するプロダクトがテーマごとに陳列されている。例えば「『アリュール』のベストビューティアイテム」など、雑誌で取り上げているテーマのプロダクトが、そのまま一つの棚に並んでいるというわけ。デジタルコンテンツも生かし、雑誌のコンテンツとのインタラクティブを目指している。メイクやスキンケアはもちろん、ヘアケア、セクシャルウェルネス系のプロダクトも充実。インストアイベントも定期的に開催しており、新しいプロダクトやブランドをチェックするには欠かせないスポットという位置づけになった。
「アリュール」の隣には、「マラ・ホフマン(MARA HOFFMAN)」のショップも昨年末にオープンしている。デザイナーデビューして21年目にして初のショップだ。本来は20年のオープンを予定していたらしいが、コロナで予定が大きく変わってしまった。このラファイエットストリートを南下したところには、コロナ以前は大盛況だった「グロシエ」のショールームがあったのは記憶に新しい。「グロシエ」は、コロナが始まってすぐ撤退。その後ニューヨークに新しい店はできていない。その近辺のハワードストリートは、ブランドとして存続を目指す「オープニングセレモニー(OPENING CEREMONY)」が20年1月に閉店して以降、ラウンジウエアの専門店「スリーピージョーンズ(SLEEPY JONES)」も閉店するなど、やや寂しいストリートになってしまっている。ラファイエットストリートとハワードストリートの角にあった大型アートサプライの店も閉店した。
チャイナタウンには人が戻ってきてはいるものの、コロナの初期にこの街が避けられた影響は大きく、その後もアジアンヘイト関連の事件や大きな火事などが続いたため、閉店してしまった店も少なくない。規模の大きな飲茶レストランとして知られた「ジンフォン(JING FONG)」は、コロナで閉店に追い込まれた。その後もデリバリーだけは細々と続けていたが、21年12月には、ラファイエットとハワードから近いセンターストリートに新店舗をオープン。規模はかなり小さくなったが、その分“こぎれい”になった気も。オープン前から人が列をする人気店だ。ソーホーとチャイナタウンの間は、ストリートファッションの出店が続く。
レストランのテラス席が
街の活気を演出する
食のシーンには、たくさん話題がある。20年3月に始まったロックダウンでレストランが完全にデリバリーのみになった後、市の政策として店の外=道路の一部がダイニングスペースとして開放された。現在も、多くのレストランは外にテーブル席を設け、店によっては中と変わらないくらいインテリアにこだわっていたりする。暑過ぎる真夏はあまり人気がないが、場所によっては外席の方が快適なことも。アウトドアなダイニングシーンも手伝って、街中がお祭りのような印象だ。
21年8月にウォール・ストリートの近くにあるアールデコビルの66階にオープンした「サガ(SAGA)」は、同じビルの1階にある「クラウンシャイ(CROWN SHY)」のジェームス・ケント(James Kent)によるレストラン。一人245ドル(約3万1800円)のコースのみだが、予約は困難だ。ニューヨークの摩天楼を眺めながらのディナーは、一生の記憶に残るはず。ちなみに「クラウンシャイ」も、ビューはないとはいえ、クオリティーの高い食事を出す。
きりがないので触れるだけにしておくが、“OMAKASE”を売りにしたハイレベルな寿司店も驚くほど増えている。一方「ハンドロール」と呼ばれる、いわゆる手巻き寿司もちまたで大人気だ。なかでもブランディング的にも注目されているのが「ナミノリ(NAMINORI)」。元超高級寿司店のシェフが立ち上げた店だ。そのほかにも街のあちらこちらにある手巻き寿司店は、値段が低めということもあってか、どこも列をなしている。アジア系の高級レストランも引き続き熱いジャンル。エリアで言うと、圧倒的にフラットアイアン地区に集中している。「更科堀井」も、高級蕎麦屋としてフラットアイアンに昨年夏にオープンした。
飲食では最近、「フェリックス・ロースティング・カンパニー(FELIX ROASTING CO.)」(写真は同ブランドの公式インスタグラムから)が次々とオープンしている。珍しくエレガントなコーヒーチェーンは現在、マンハッタンに4店舗を展開している。
ブルックリンのウィリアムスバーグとその近辺は、相変わらず人気のエリアで、レストランも次々にオープンしている。ただし、ウィリアムスバーグの中心地は、「アップルストア(APPLE STORE)」、スーパーの「ホールフーズ(WHOLE FOODS)」、ジムの「イクイノックス(EQUINOX)」といった大手が並んでおり、巨大なコンドミニアムが次々に登場、ツーリストの観光のメッカとなっており、このスタンスは不動だ。
コロナ前から再開発が進んでいるブルックリンのダウンタウン地区では、1879年から2004年まで営業していた歴史あるレストランが徹底改装され、「ゲージ&トルナー(GAGE & TOLLNER)」が21年4月にオープンした。当初はコロナ禍とあって予約は簡単だったが、最近はかなりの努力が必要。だが歴史を感じさせる店内と、シーフードタワーやステーキは、訪れる価値がある。この近くにオープンした「エース ホテル ブルックリン(ACE BROOKLYN HOTEL)」も話題のスポット。
ホテルも、続々オープン中。ローワーイーストサイドには、「ナインオーチャード(NINE ORCHARD)」。マンハッタンの最南端には、超高級「カーサ チプリアーニ(CASA CIPRIANI)」。ミッドタウンには初の「アマン(AMAN)」もオープンしている。
新型コロナウイルスの感染拡大以降、世界のファッションシティーはどう変化しているのだろうか?現地視察はまだ少しハードルが高いからこそ、今回はパリとニューヨーク、そしてロサンゼルスの3都市に住むジャーナリストやスタイリストに2年半のショップや購買行動、価値観の変化について寄稿してもらった。この3都市を選んだのは、春以降に出張を再開した関係者から、「変わった」との言葉を数多く聞いたから。NYの最新事情をリポートする。(この記事は「WWDJAPAN」2022年8月22日号からの抜粋です)