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【9月23日まで無料公開】アディダスの海洋ごみ靴誕生秘話【海の危機、私たちはどう動く?】

 アディダスは15年、海洋環境保護団体のパーレイ・フォー・ジ・オーシャン(以下、パーレイ)とパートナーシップを組み、ペットボトルなどの海洋プラスチックごみをアップサイクルした糸“パーレイ・オーシャン・プラスチック”を用いた製品を販売している。14年にパーレイからのアプローチがきっかけで協働が始まったというが、海洋ごみを活用した靴の生産数は17年に約100万足、19年に約1100万足、そして21年には約1800万足にまで拡大。今春発売された「オリジナルス」では“パーレイ・オーシャン・プラスチック”の使用率を50%以上にするなど、アディダスが大きく掲げる「END PLASTIC WASTE プラスチックゴミゼロの未来へ。」に向けた鍵の一つで、海洋ごみを活用した新しいサプライチェーンを構築した点が高く評価されている。メーカーはこれまでの良質な素材を集めて製品を作ることから、廃棄物などをどう活用して製品に生かすか、という視点を持つことが重要になっており、この取り組みはイノベーションが環境問題の解決策につながっている好例でもある。パーレイとの取り組みをマルヴィン・ホフマン(Marwin Hoffman)=ヴァイスプレジデント・アウトドアマーケティングに聞く。

WWD:2015年にパーレイとパートナーシップを結び、アディダスは本格的にサステナビリティに取り組み始めた。わずか数年で数千万足を生産するに至った原動力は?

マルヴィン・ホフマン/ヴァイスプレジデント・アウトドアマーケティング(以下、ホフマン):2015年の国連本部で展示した、漁網をアップサイクルした糸でアッパーを作ったシューズを、多くのアスリートが「ゲームチェンジャー」として取り上げてくれた。そこで当社は、海岸や海沿いの地域で回収されたプラスチックごみを使用した商品生産の実現を目指した。わずか5年で、グローバルなソリューションへと拡大することができた。このシューズは、身に着けることのできる“可能性の象徴”と言えるだろう。ほかにできることはないか、という会話や質問、アイデアのきっかけになるから。

 パーレイはプラスチック廃棄物だけに留まらず、海洋の状態を改善するための新しいイノベーションに着手している。彼らの取り組みが注目を集めるにつれ、その影響力と実行力も増している。そして、共通するゴールに向けたアディダスとパーレイの協力態勢によって、イノベーションのスピードを速め、より効率的に規模を拡大し、よりオーガニックに影響を与えることができると考えている。

WWD:具体的にどのようにサプライチェーンを築いたか。

ホフマン:パーレイと提携した15年以降、“パーレイ・オーシャン・プラスチック”をバージンポリエステルの革新的な代替品として商品生産に使用している。“パーレイ・オーシャン・プラスチック”は、海に到達する前に海岸や海沿いの地域から回収されたプラスチックをアップサイクルして作成される素材だ。パーレイはパートナーと協力して、回収された原材料(主にペットボトル)を収集・分類し、糸を製造するサプライヤーに輸送している。そこで製造された糸は商標登録されており、アディダスはその素材を使用したシューズ、アパレル、アクセサリーなどを、パフォーマンスとライフスタイル両方のカテゴリーで展開している。

WWD:“パーレイ・オーシャン・プラスチック”は、バージン素材に比べて扱いづらい点もあると思うが、どのように解決しているか。

ホフマン:アディダスにとって、アスリートのために最高の製品を作ることが大きなミッションだが、それは地球を犠牲にしてまで行うことではない。25年までに品目の90%にサステナブルな技術、素材、デザインもしくは製造方法を採用するという私たちのゴールで大事なポイントは、ポートフォリオ全体にわたる目標であるということだ。この目標を実現するには、全てのカテゴリーにわたり、綿密な開発プロセスと妥協のないパフォーマンステストが必要となり、また同時に途中で失敗すること、実験を恐れない姿勢も必要となる。パーレイは単一のプロトタイプから始まり、多数のアパレルへと広がった。“メイド・トゥ・ビィ・リメイド(Made to be Remade、以下MTBR)”、(オールバーズと協業する)“フューチャークラフト.フットプリント(FUTURECRAFT.FOOTPRINT)」も同じく、プロトタイプから始まっている。

 アディダスには、200名にも上るエンジニアや技術者、デザイナー、スポーツサイエンスのスペシャリストで構成された強力なイノベーションチームがある。彼らは、アスリートにとって最善のものを生み出すだけでなく、それを再定義し続けるためにも、日々失敗を繰り返している。

WWD:公式サイトで大きく掲げている“END PLASTIC WASTE プラスチックゴミゼロの未来へ。”のメッセージが印象的だ。

ホフマン:サステナビリティにおける当社の大きなミッションは、CO2排出量の削減や、消費者行動の変化促進に焦点を当てたイノベーションとパートナーシップを通じて、プラスチックごみゼロの未来を実現することだ。プラスチックごみは非常に大きな問題であり、一刻を争う状況だ。世界的にも、この問題の緊急性に注目が集まりつつある。国連によってプラスチック汚染の解決に向けた協定が最近承認されたことで、この問題に新たに焦点が当てられている。

 パーレイとのパートナーシップは、このアクションを迅速かつ大規模に実現するための鍵になっている。社内にはない専門分野を持つイノベーターを見つけてパートナーシップを組むことで、より良い解決方法を生み出し、目標を達成することが可能になる。

WWD:アディダスはパーレイ以外にも多くの団体や企業と協働している。

ホフマン:プラスチックごみ問題を解決するには、業界全体のソリューションだけではなく、業界を超えたソリューションも必要だ。また、「Fashion For Good」のような団体を介して、革新的な解決策をもたらすスタートアップ企業を見つけることも非常に重要。もしくは、地球のために競争を脇に置いて、オールバーズ(Allbirds)のような「競合」とも考えられるブランドと協働し、カーボンフットプリントを抑えたシューズを作ることも一例だ。私たちは、ビジネスとイノベーションの方法を再発明しようとしているさまざまなブランドや志を同じくする企業と協力し、可能性を広げることが、業界のリーダーとしての務めだと考えている。

WWD:アスリートや生活者を巻き込んだ“ラン・フォー・ジ・オーシャンズ(Run for the Oceans)”が毎年拡大し、影響力が増している。

ホフマン:ちょうど今年も終了したところだ。6年目となるこの取り組みでは、さまざまな能力とレベルのアスリートやランナーが一つになり、スポーツの力を通じて海洋プラスチック汚染問題への意識を高めることを目的としている。今年は、5月23日~6月8日までの間に670万人以上の参加者(676万161人)が取り組みに参加し、合計7億7100万分以上(7億7122万5511分)の走行時間を記録するなど、世界最大のランニング・ムーブメントの一つとなっている。

WWD:消費者を啓発することは重要だが、非常に難しい。どのようにイベントを企画しているか。ポイントは?

ホフマン:“ラン・フォー・ジ・オーシャン”が効果的に機能している要素として、消費者のアクションと活動が、海岸や海岸地域のコミュニティを保護することに貢献しているという、具体的な体験を提供しているところだと考えている。またその体験を、できる限りアクセスしやすくしているところもポイント。例えば今年は、参加者は幅広いスポーツ、アクティビティー、トレーニングで、このチャレンジに参加することができ、また使用アプリについても、「adidas Runtastic」「Joyrun」「Codoon」「Yeudongquan」「Strava」など、複数用意されていたところも大きいと思う。


【WWDJAPAN Educations】

【第2期】サステナビリティ・ディレクター養成講座
2022年9月30日(金)開講

 昨年初めて開催し好評を得た「サステナビリティ・ディレクター養成講座」を今年も開講。サステナビリティはこれからの企業経営の支柱や根底となるものであり、実践が急がれる事業の課題である。この課題についてのビジョンを描くリーダーの育成を目的に、必要な思考力・牽引力を身につける全7回のワークショップとなる。前半は各回テーマに沿った第一線で活躍する講師を迎え、講義後にはディスカッションやワークショップを通して課題を明確化し、実践に向けたアクションプランに繋げていく。

 また、受講者だけが参加できるオンライン・コミュニティーでは、「WWDJAPAN」が取り上げるサステナビリティに関する最新ニュースや知っておくべき注目記事をチェックでき、更に講義内容をより深く理解するための情報を「WWDJAPAN」編集部が届ける、まさに“サステナ漬け”の3カ月となる。
講義のみが受講できるオンラインコースも同時に受け付けています。


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