ファッション

「ラグタグ」で二次流通の最前線にどよめいた 中高生の「ファッション育」Vol.4

 今回のプレインターンシップでは、さまざまなブランド古着を買い取り、販売するユーズドセレクトショップの「ラグタグ(RAGTAG)」渋谷店を訪れた。バイヤーや店員の仕事を学びながらショップを見学し、実際の買い物も体験した。

 「ラグタグ」は、ワールド傘下の会社、ティンパンアレイが手がけている。そもそも会社は、誰もが憧れのブランドの服を着たり試したりできるようにすることで、服へのパッションを応援したいと創業。「コレかわいいね、でも、私たちには買えないね」と話しながら、ブランドショップで残念そうな顔をしている2人の女子高生の姿が原風景なのだという。お金を持っていそうな顧客がショップ店員に話しかけられるそばで、制服姿の彼女らは見向きもされず、ぽつんと立っていた。そんな光景を目の当たりにし、「憧れのブランドを『お金がない』というだけで諦めなければならないなんて、切なすぎる」と考えた高橋直樹創業者が、「何も新品ではある必要はないんだ」とデザイナーズブランド専門のユースドセレクトショップをたった3.5坪で始めたのが「ラグタグ」だ。そんな「ラグタグ」が目指す未来は、“おしゃれになることをあきらめない世の中”。福田敦子人材開発室室長は、「職種は違えど、社内のメンバーが働く目的は一緒」と力強く語ってくれた。

「ここが古着屋さん?」と思う内装
子連れが多い店舗には噴水も設置

 「ラグタグ」は、最近では宅配や訪問での買い取りにも力を入れるなど、ファッション好きの消費者を一番に考え、彼らのニーズに沿った接客や情報提供を心がけているという。心づかいは、店内でも明らかだ。買い取りを依頼するときは、洋服を預けると店内のカフェでゆっくり過ごせる。「ラグタグ」は買取予約を受け付けていないため、待ち時間が長くなってしまうときに飲み物とチョコレートを振る舞うべく設置したそうだ。「チョコレートがすっごい美味しいんです。食べてみてください」と勧めてくれた。納得・満足してもらうため、資格を持ったカスタマーアシスタントは品質などを事細かに確認し、接客を通してそれらを伝えている。

 メンバーが「ここが古着屋さん?」と驚くほど、「ラグタグ」のこだわりは、店内にも溢れている。まず内装は、店舗ごとに立地や客層などで異なるデザイン。内装は数年に1回変更するという。渋谷店は、落ち着いた雰囲気に洋楽のゆったりとしたBGMが流れ、ブランドがグルーピングされている。店内は入り口に近いところにカジュアルやリーズナブルなブランド、一方奥に入るとラグジュアリーブランドの服が並ぶ。店の奥は、より服にフォーカスしやすい環境だ。一方、吉祥寺店の店長経験もある福田室長は、「吉祥寺店は公園が近く、子ども連れや大学生が多かったので、店内に噴水を置いたことも」という。

 おしゃれを応援する「ラグタグ」のこだわりの1つが、品質保証タグだ。「ラグタグ」にとってタグは、「ただ値段を表すものではなく、お客さまが安心してお買い物するためのもの」。必要な情報は「全て」記載しているという。傷や汚れの数・位置は一目でわかるように表記しているという福田室長の説明には、メンバーがどよめいた。こだわりは、記載内容に留まらない。商品タグが見つからなくて服のあちこちを探した経験は、誰もが一度はあるだろう。「タグを探している間に店員さんに声を掛けられちゃう、試着室に押し込められちゃう、と焦った経験はありませんか?」と福田室長。そこで「ラグタグ」はタグを探す手間が生じないよう、タグの位置を決めた。シャツは第二ボタン、パンツは外側。パッと見たとき、どんな商品でもタグがすぐ目に入るのだ。タグへの情報入力と、タグ付けは全て手作業という。

 続いて、渋谷店の高野バイヤーから、バイヤーという仕事についてレクチャーしていただいた。話を聞いたのは、実際に査定を行う個室。「ラグタグ」は「自分の洋服を他人に見られるのは恥ずかしい」という気持ちに配慮し、査定を個室で行っている。加えて買い取りには指名制度があり、中には「もう一度話したい」や「楽しかったから」といった想いで指名する人もいるそう。「だから、美容室と似ているかもしれません」と高野バイヤーは言う。渋谷店は特に指名が多く、人気バイヤーだと1日20人を担当するそうだ。

「ゴリ押しで査定額を上げようとする
お客さまはいないの?」 その答えは……

 高野バイヤーの楽しいトークで緊張もほぐれ、メンバーの1人が「ゴリ押しで値段を上げてくるお客さんはいないんですか?」と茶目っ気たっぷりに切り込んだ。すると過去には2時間粘られたこともあるが、「買い取り価格は変更せず、丁寧な説明を試み続けた」そう。なぜなら、「最初に出した値段が、誠意の値段」だから。買い取り価格は、基本的に変えない。買い取り価格を上げて欲しいと言い出せない人もいるからこそ、交渉を前提とした価格設定は平等ではない、と語ってくれた。2時間の対話を重ねた人は、最後には「負けた」と言って全品売ってくれたそうだ。

 プレインターンシップの最後は、ショップ店員の接客技術を体感する「変身体験」だ。メンバーの中から代表2人が変身。「普段はズボン?スカート?」「好きなスタイルは?」などのヒアリングを受けたメンバーが、高野バイヤーのセレクトした洋服に着替えて試着室から出てくると、どよめきとシャッター音が止まらない。ガラッと印象が変わる。それでいて本人の雰囲気にハマったスタイルが完成していた。私服ではカジュアルでストリート風だったメンバーは、「ノワールケイ ニノミヤ(NOIR KEI NINOMIYA)」のシースルーのブラウスを羽織り、シックなロングスカートを履きこなす様は、まさに変身だった。高野バイヤーは「お顔立ちと、ピタッとしたヘアを見て、ギャルソンが似合いそうだと思った」「スカートは選ばないと言っていたので、スカートらしくないスカートであえて挑戦してみた」と笑顔で話してくれた。

参加した学生のレポートから
 私は普段あまり古着屋を利用しないので、最初はどんなシステムか全然わかりませんでした。タグへの些細なこだわりや指名制度など、いろいろなことを知れました!(KOTO/中学3年)

 「古着屋」と聞いたときは、下北沢にあるような少しレトロなお店かと思っていました。実際は、インテリアも商品も、古着屋とは思えないくらい素敵でした。内装は、白を基調に木材を所々に取り入れ、暖かい雰囲気でした。古着の買い取りには中高生から70代の方まで幅広い世代が来るそうです。自分の洋服が誰かの「おしゃれ」になれるのは、素敵だと思いました。“キズや汚れも一目でわかる“こだわりは印象に残りました。古着を選ぶときに一番気になるのが、キズや汚れです。タグにはキズや汚れがすぐわかるよう、星などの目印がついていて、汚れを見つけた時のガッカリがなくなるように工夫されていました。お客さんのガッカリをなくす工夫が数えきれないほどあって、私も実際商品を買ってみたくなりました。今まで行ったことのない、見たことのない新しい古着屋。リーズナブルに一人一人のおしゃれなファッションが最高に楽しめる場所だと感じました。(Eri/中学3年)

 「これが古着?」と思わせる店舗を作るには、沢山の人たちの努力がありました。まずバイヤーさんは、洋服を傷つけないよう手の装飾品は全て取り、タグ付けも一つ一つ手作業。傷やシミはタグに記載して目に入りやすい場所に付けるなど、とても工夫されていました。バイヤーさんからは、装飾品を外すと聞きました。最初は、「古着は汚いもの」と思い込んでいました。しかし一度使っていたものにもう一度魂を吹き込もうと古着を丁寧に扱う「ラグタグ」を見学し、偏見が薄まりました。(ayn/中学3年)

 古着屋といえば下北沢とかにある小さなお店を想像しますが、「ラグタグ」は違います。渋谷店は内装も物凄くオシャレです。洋服はブランドごとに整理され、気になる服のコーナーに行けば、気づかないうちに周りにも好きなものが溢れています。コーディネートしてもらいましたが、普段は全く着ない、思いつかないコーデを考えていただき、自分のファッションの幅を広げる良い機会になりました。次に来る時は、私も買い物したいです。(hana/中学3年)

 商品一品一品を大事に確認して、中古品でも綺麗に売りたいと言うバイヤーさんの気持ちがとても伝わりました。(ちゃこ/高校2年)

 「ラグタグ」は商品一つ一つにこだわっていて、買い取る時も経験豊富なバイヤーさんが一着一着を確認して買い取ります。買い取られた商品は一度大きな倉庫に運び、各店舗の雰囲気や客層に合わせて振り分けるそうです。そして、古着で気になりがちなシミや汚れなどは、タグに細かく記入します。こうすることで「汚れを見つけたから返品したい!」などのトラブルを減らしているのです。私は、お店の商品でコーディネートしてもらいました。普段あまり着ることのない服を選んでいただき、新しい体験ができました。(杏/中学3年)

 私のイメージする古着屋さんは、こぢんまりとしていて風通しが悪く、たまにちょっと怖そうな店員さんがいるところです。そういった古着屋の店員さんは、実際に話してみると凄くいい人が多いのですが、ファッションに最近興味を持った方や若い方には、少しハードルが高いかもしれません。その点「ラグタグ」は全く違います。最初に感じたことは、「明るい」です。渋谷店は地下1階を含めた4階建てですが、ガラス張りで中がよく見えます。入口も分かりやすく、古着屋さんとは思えませんでした。中に入ってみると店内はピカピカ、通路も広く、他のお客さんとぶつかることはまずありません。お友達と来ても、みんなで楽しめる充分なスペースです。お店の雰囲気はバッチリとなると、次に気になるのは値段や洋服の状態ではないでしょうか?古着屋さんで頑張って買った洋服を家に帰ってから確認してみると、大きなシミがあってショックを受けたという話も実際に聞きました。慣れない空間にいると緊張してアタフタしてしまい、冷静になれないことはよくあります。しかし「ラグタグ」に行けば、そんなことにはなりません。店頭に並んでいる商品には品質保証タグが付けられています。ブランドは勿論のこと、シーズンや参考価格(定価)、どこに汚れや傷みがあるのかまでわかります。しかも、タグはわかりやすい位置にあるので良心的だなと感じました。ここまでくるといよいよ最後の関門。店員さんです。みなさんも一度は接客で嫌な思いをしたことがあると思います。古着屋さんの店員さんともなれば、クセが強い人も多そうですよね。ところが、今回お話を伺った方にそんな方はいませんでした。だからといって洋服の知識が無い訳ではありません。買い取りをする際にも必ず必要になるのですから、凄い量の知識を持っているはずです。でも、それをひけらかさずに聞かれたことにはしっかり答え、アドバイスをくれる姿がとても印象に残りました。どんな人にもファッションの先輩になってくれると思います。買い取りも同様で、品物1点1点の価格を説明してくれます。なぜこの洋服がこの金額なのかを納得するまで説明してくださるので、売りに行くのが初めての方にもおすすめできます。販売と買い取り、どちらにも力をいれている「ラグタグ」にぜひ足を運んで頂きたいです。(森脇貴志/高校3年)


 中高生のためのファッション育プロジェクト「フューチャー・ファッション・インスティテュート(FUTURE FASHION INSTITUTE、以下FFI)」は、「ファッション育」を通じて子どもたちの感性を磨き、未来の業界を担う人材やセンスを生かして働く子どもの育成を応援している。展示会への訪問や業界人へのお仕事インタビューなどを重ねるメンバーは、自らの体験をシェアして友人に刺激を提供。ポジティブなループを通して、子どもたちが「未来の自分」を思い描き、夢に一歩近づくことを願う。今回は「ラグタグ」を訪れ、二次流通の最前線を学んだ。

ライタープロフィール
内藤里沙
慶應義塾大学総合政策学部在学中の3年生。「WWDJAPAN」のFFi PROJECTの記事を見てボランティアに立候補、大学生メンター1号として採用される。以降FFiでのプレ・インターンシップにも数多く参加し、中高生と共にファッションやビューティー業界への知見を深めている。このほか女子中高生向けファッションレンタルサービス「放課後マネキン」を運営するNadieでファッション業界のトップランナーにインタビューするポッドキャストのパーソナリティーを務めた。大阪・関西万博 TEAM EXPO 2025における「次世代共創リーダー育成プロジェクト」にも参加

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

原宿・新時代 ファッション&カルチャーをつなぐ人たち【WWDJAPAN BEAUTY付録:中価格帯コスメ攻略法】

「WWDJAPAN」4月22日号の特集は「原宿・新時代」です。ファッションの街・原宿が転換期を迎えています。訪日客が急回復し、裏通りまで人であふれるようになりました。新しい店舗も次々にオープンし、4月17日には神宮前交差点に大型商業施設「ハラカド」が開業しました。目まぐるしく更新され、世界への発信力を高める原宿。この街の担い手たちは、時代の変化をどう読み取り、何をしようとしているのか。この特集では…

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