ファッション

中高生に「ファッション育」 クリエイター事務所の代表が子どもに「好き」な世界を見せるため奔走

 スタイリストの白幡啓や山脇道子らのクリエイターが所属するマネジメント事務所LOVABLE(ラヴァブル)の秋山和香奈代表は、中高生のためのファッション育プロジェクト「フューチャー・ファッション・インスティテュート(FUTURE FASHION INSTITUTE、以下FFI)」の主宰も務める。「ファッション育」を通じて子どもたちの感性を磨き、未来の業界を担う人材やセンスを生かして働く子どもの育成を応援している。目指すのは、「好きなことを『好き』と言えて、好きなことを仕事にする世界の実現」だ。FFIの“0期生”は現在、中学生から高校生まで約30人。展示会への参加や業界人へのお仕事インタビューなどを体験したメンバーは、自ら記者となって、体験をシェアするコンテンツを制作。そのコンテンツに刺激を受けた子どもたちが興味を広げ、業界内の会いたい人に会い、今度は自分がその体験をコンテンツ化してシェアするというポジティブなループを通して、子どもたちが「未来の自分」を思い描き、夢に一歩近づくことを願っている。なぜ秋山代表は、若い頃からの「ファッション育」に注力するのか?

WWDJAPAN(以下、WWD):FFIを立ち上げようと思ったきっかけは?

秋山和香奈FUTURE FASHION INSTITUTE主宰(以下、秋山):私自身が子育てを通して「子どもって、考えなくちゃいけないことはたくさんあるのに、そのための時間はそんなに長くない」と実感したんです。「理数系の大学に行きたかったのに、文系しか勉強していない。だから文系の大学に進学する」なんて経験や友人を持つ方は少なくないと思います。例えば文系か理系かを最終選択するのが高校1年生の時だとしたら、その前には将来に向き合わなければいけません。でも、社会に触れたことのない中高生に「選択しなさい」と言っても、難しいですよね?部活があれば、なおさらです。その段階では、親の意識さえ高くないと思います。一方で子どもたちは、遊ぶことに関しては天才的です。遊ぶことに対しては常に前向きで、和気あいあいと楽しんでいます。そこで、楽しみながら「ファッション育」ができたら、子どもはもちろん、保護者の将来への意識もアップすると思ったんです。

WWD:なぜ「ファッション育」なのか?

秋山:私たちの調査では、中高生の92%が「おしゃれが好き」もしくは「おしゃれが大好き」と回答しています。好きなファッションを学ぶ「ファッション学」ではなく、ファッションから学ぶ「ファッション育」でセンスという万能スキルを磨き、好きを極めれば仕事になることを知ることができたら、「そのためには何をすれば良いのか?」「自分は、どうしたいのか?」が見つかり、生き生きと働く大人で溢れる2030年が訪れると思うんです。「ファッション育」を通して子どもと保護者の双方がファッションをアップデートできれば、業界にとっても有益ですよね?子どもも、保護者も、ファッション業界人と言えばデザイナーとモデル、それにスタイリストくらいしか知りません。MDや編集者という職業、商社や繊維・生地・副資材メーカーという存在には、気づいていません。多くの業種には知識や教養、場合によっては語学まで必要なことも分からないんです。「好き」をきっかけにセンスと感性を磨き、将来のために早い段階から努力する人材が増えれば、ファッションやビューティ業界は、もっと面白くなるでしょう。この業界で働かなくても、FFIで培った感性や知識があれば、もっとファッションやビューティを楽しんでくれるファンになってくれるハズです。

WWD:今は、何人くらいの子どもたちが参加している?

秋山:“0期生”は、30人くらいです。2019年の9月に子どもたちの募集を始めましたが、昨年はコロナの影響で思い通りに活動できませんでした。この春から、本格再開です。春には70人くらいにしたいですね。友達が友達を呼び、気づいたら知識が蓄積されて、好奇心が広がり、ファッション業界が彼らの選択肢になればと思っています。

WWD:これまでは、どんな活動を?

秋山:「マルニ(MARNI)」や「ディースクエアード(DSQUARED2)」のキッズ服も並ぶ「ディーゼル(DIESEL)」の展示会にお邪魔したり、「エコアルフ(ECOALF)」のお店に伺ってブランドの想いやサステナブルに関する活動を伺ったりしています。ラグジュアリーブランドのMDを務める友人を直撃し、お仕事について取材したこともあります。のちに親御さんに話を聞くと、「ずっと、その話ばかりしている」や「急に数学を勉強し始めた(笑)」なんて反応があるみたい。社会を見るきっかけになっているんでしょうね。振り返れば私も、大人が本気で働いている最初の姿を見たときは、鳥肌がたちました。撮影の現場なんて、最初は震えてしまうくらい(笑)。

WWD:子どもたちは、活動を自分で表現し、現場に一緒に行けなかった仲間にシェアしている。

秋山:FFIのウェブサイトに、体験者の記事を掲載した“子ども新聞”をアップしています。フォーマットは、自由。写真のコラージュや動画、文章などで構成し、来れなかった子どもたちに配信するんです。「誰かに伝えよう」と思って話を聞くのと、ただただ話を聞くのとでは、心構えが全然違います。インプットとアウトプットをミックスしたプロジェクトにしたいんです。

WWD:今後の目標は?

秋山:できればもう一歩手前からちゃんと企画した、学生イベントにしたいと思います。今の企業は、Z世代に踊らされていると思います。必死になって「追いつこう」としていますが、正直、それは難しい。子どもたちは「瞬間」を見ていて、次々乗り換えていきますから。だったら最初から、子どもたちの新しい感覚と、大人の審美眼を掛け合わせた何かを作ってしまう方が、面白いのではないか?と思っています。難しく聞こえるかもしれませんが、子どもたちとフランクに話し合えるようになれば、違う展開が見えてくると思うんです。展示会への参加だけでなく、プレ・インターンシップやワークショップ、メンバーとの商品開発まで、活動の幅を広げられたらと思います。

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