ファッション

菅付雅信連載「不易と流行のあいだ」 ポストコロナの商業空間

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 ファッションという「今」にのみフォーカスする産業を歴史の文脈で捉え直す連載。今回はコロナ禍での商業施設を考察する。編集協力:MATHEUS KATAYAMA (W)(この記事はWWDジャパン2021年5月24日号・31日号からの抜粋です)

 コロナ禍で閉店ラッシュが加速する一方、新しい時代意識を感じさせるお店もしっかりと誕生している。昨年11月に世田谷区下馬にオープンしたコーヒーショップ「スニート(Sniite)」もまさに今の気分が反映された店。妻がインスタで見つけ、私たちはオープン数日後に訪れた。しかし、入り口前で立ちすくんでしまった。「果たしてこれはお店なのか?」と。工事の途中に見えるその入り口はとても完成しているようには思えないし、内部をパッと見てもお店のようには見えない。しかしお客さんはいて、間違いなくコーヒーを片手に談笑している。「これは営業中なのだ」と確言し、恐る恐る中に足を踏み入れると、以前お会いしたことのある神戸渉バリスタが声をかけてくれた。彼が丁寧に自家焙煎するコーヒーの味の素晴らしさもさることながら、なんと言っても内装に度肝を抜かれた。ワクワクする未完成感。オーナーバリスタの神戸いわく「これで完成形です」と。一体誰が内装したのか気になり、彼から建築デザイナーの関祐介を教えてもらい、会うことにした。

 「ポパイ」2021年3月号「THE BIG BAD INTERIOR BOOK」特集で、関祐介は「BADな建築デザイナー」と形容され4ページにわたって紹介されている。彼が手がけた「スニート」はGOODというより荒削りなBADな魅力に溢れている。コロナ禍による不景気の中で、お金よりも知恵を使って人が集まる場所を作れるかの好例だ。

 「空間デザインは、アイデアやクリエイティブマインドで何かしらの問題を乗り越えていくのが正しいはずなのですが、いつの間にかそれが高級志向になり、良いものを使って、良いブランドを作る流れになってしまいました」と関は語る。「しかし、それは誰でもできると思うのです。大理石を置いておけば良く見えるし、それはお金さえあればできるので、アイデアではないんですよ。アイデアで問題を乗り越える姿勢を大事にしたいと思っています」。

 「スニート」のような飲食店からホテルの「KUMU 金沢」、大阪のセレクトショップ「アイ・シー・オール(I SEE ALL)」までを手がける関は「商業空間を作る際に大事にしているものは居心地」という。「しかし、全員に対してフラットにすると薄まっていって個性もなくなる。海外の魅力的な洋服屋やレコード屋、本屋、飲食店は、『これが好きな人は来てください。それ以外は来なくていいです』みたいなノリを持っていて、そのマインドは意識しています。お店の大事な価値観をハッキリさせるのが、今の居心地ではないかと」。

 コロナ禍でお店に人が集まる意味が問われている中で、商業空間デザインの第一人者はそれをどう考えているのか。ワンダーウォールの片山正通に話を聞いた。「ユニクロ」のニューヨークやロンドンの旗艦店、原宿の「ナイキ」旗艦店などで国際的に活躍する彼は、コロナ禍で「アパレルの商業空間は厳しくなった」と率直に語る。

 「僕は人間の本能として、コミュニケーションとして人が集まることは大事ではないかと思います。ただ一部には大勢集まることに対して『怖い』と思う人がいるのも事実。以前の状態に100%戻ることは難しいだろうと正直思います。物販の世界で言うと、ECの領域でZOZOみたいな会社が出てきて、お店に行かなくてもいいような流れが芽生えてきたので、行く必要のある場所以外は行かなくてもいいという風になってきている。アパレルの商業空間は厳しいと思うんです。でも空間のカリスマ性は、間違いなくあるんですよ」。

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