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「アデライデ」長谷川左希子が考えるリーダー像 “世界レベルを目指すには才能もコミュニケーションも不可欠”【ネクストリーダー 2021】

 長谷川左希子「アデライデ(ADELAIDE)」「アディッションアデライデ(ADDITION ADELAIDE)」ディレクターは、「WWDジャパン ネクストリーダー」第2回の受賞者だ。日本でも稀有なセレクトショップは、海外有力ブランドからのラブコールが絶えず、コロナ禍でも徹底した顧客主義で売り上げを維持している。さらに2020年8月には「フォーシーズンズホテル東京大手町」にライフスタイルストア「ザ スパ ブティック バイ アデライデ」をオープンしたことでも話題になった。同店の“2代目”である彼女は、今年「WWDジャパン ネクストリーダー2021」の審査アドバイザーを務める。20代からバイイングで世界中を飛び回り、ファッション業界のキーマンに数多く出会ってきた彼女が考えるリーダー像とは?

WWD:「アデライデ」はここ数年で外に対する“声”を強めているように感じます。意識の変化は?

長谷川左希子「アデライデ」「アディッションアデライデ」ディレクター(以下、長谷川):「フォーシーズンズホテル」の「ザ スパ ブティック バイ アデライデ」のキュレーションを手掛ける過程で、ファッション業界以外の人にも自分の価値観や経験を共有する機会が増えたからかも知れません。新たな分野での仕事や人々との出会いは単純にすごく楽しかったし、ミーティング中のシャイでドキドキした気持ちは、まるで何かの発表会のような気分でした。ヨーロッパでは国を挙げてファッション産業をサポートする土壌があるので、才能がある人が企業の偉い人と対等に出会う機会があり、ブランドやアーティストへのリスペクトありきで、後からビジネスがついてきたりする環境が整っています。日本では少し遅れている気がしますが、フォーシーズンズホテルの方々は海外のスタッフまで、「アデライデ」にわざわざ足を運んでくれて、「コンセプトをきちんと表現しているお店だ」と世界観に共感してくれました。レアなケースですが、これまでの経験の集大成として異分野で結果を出せたことは、10~20代の方にも今後「これが仕事の楽しさだよ」と提示できるエピソードになりました。

WWD:声を発することが自信へとつながっていった?

長谷川:そうですね。19年に「WWDジャパン ネクストリーダー」を受賞したことも意識が変わるきっかけになりました。あのときに「リーダー」と言ってもらえたからこそ、コロナ禍でも「ポジティブに頑張ろう」と思えていて、そんなインタビューを見た人からは「すごく前向きになれた、明るい未来が見られた」という声をもらうようになりました。以前は会社の“2代目”として、良いロールモデルにならなければ、というプレッシャーがありましたが、自分が思ったことや感じたこと、教えてもらったことを発言することで他の方も幸せになる、ということに気付きました。

WWD:リーダーにとって大切なことは?

長谷川:型にはまらないことは大切ですが、最初に型にはまる経験も大切。私自身、型にはまった下積み時代があったからこそ今があります。また、オタクでもアーティストでも世界で活躍するレベルになるにはどうやってでも表に出て、人とコミュニケーションを取る必要が出てきます。私は20代のときから本田健さんの「20代にしておきたい17のこと」という本を読むことで、色々なことを考えるクセがつきました。このシリーズは30代、40代、50代版があり、さまざまなアイデアを練る上で、指針の1つになっています。

WWD:リーダーシップの在り方に影響を与えた人は?

長谷川:「ジル サンダー(JIL SANDER)」のアクセル・ケラー(Axel Keller)CEOです。理由は情報収集力。よく人を見ていて、スマートで品があって、勉強家で、ファッション業界以外の方々とも長年付き合ってきている人だということも分かります。例えば展示会に行くたびに、私にまで「これどう思う?」と問いかけてくれて、「アデライデ」が何を買い付けるかを把握しています。インスタグラムのDMから質問が着たり電話をかけてくれたりすることも。大手のトップだけでなく、さまざまな人の意見に耳を傾け、いざというときには即断即決力もある人柄は本当にすごいです。

WWD:同世代にも気になる存在はいますか?

長谷川:スキンケアブランド「ミース(MEETH)」を手掛けるソンミさん。彼女は色々なことに考えが深くて、同世代として「私は何をやっているんだろう」と焦らされる存在。彼女は店舗接客をとても大切にしていて、「アデライデ」の真裏にあるショップではスタッフ全員がお辞儀まで完璧な接客をしてくれます。プロのコンサルタントを入れて指導を行うなど、経営者としてのアイデアに長けていて、人の気持ちも汲み取れる人。会社の業績も急成長していて、尊敬する数少ない年下として貴重な存在です。

WWD:「『ネクストリーダー』に自らエントリーするには“時期尚早”と謙遜する人に、背中を押す一言を。表に意識的に出る人の価値とは?

長谷川:私自身は、「ネクストリーダー」を受賞する前後で、会話の内容が変わりました。20代の頃は色々迷っていた時期で、お酒の場で「こういう人って嫌だよね」という話をよくしていましたが、今は「こんな人は素敵だよね」という生産的な内容になってマインドも変わりました。苦手なことを克服するのではなく、その意識を克服することが重要。日本には謙虚で奥手な人が多いですが、行動することが自信につながっていくし、それを言葉で表現する場も大切です。まずは、自分の性格と真逆の人に会って、意見を聞くのもいい。自分だけの価値観や殻を破ることができれば、その先にはきっとさらなる“変化”が待っていると思います。

村上杏理:1986年、北海道生まれ。大学で日本美術史を専攻し、2009年にINFASパブリケーションズ入社。「WWDジャパン」記者として、東京のファッション・ウイークやセレクトショップ、販売員取材などを担当。16年からフリーランスで、ファッションやライフスタイル、アートの記事執筆・カタログなどを手掛ける。1女児の母