ビューティ

仙台で70年間化粧品市場をけん引してきた「スキヤ」 若き3代目がDXにアクセルを踏み急成長【ネクストリーダー2021】

 「WWDJAPAN」はファッション・ビューティ業界の未来を担うリーダーを讃えるべく「WWDJAPAN NEXT LEADERS」企画を毎年行ってきた。今年は例年の企画をパワーアップさせ、初めて一般応募を受け付けた。総勢80人以上の応募者から選ばれたのは、仙台の高級化粧品店「パフューマリースキヤ」の3代目として活躍する由佐憲靖・取締役だ。現在仙台に3店舗を運営し、「メルヴィータ(MELVITA)」「ナーズ(NARS)」「シセイドウ(SHISEIDO)」「ローラ メルシエ(LAURA MERCIER)」など東北エリア初導入ブランドも多く誘致してきた。2015年に事業に参画した由佐・取締役は社内のDXをけん引し、毎年1億円売り上げを伸ばし、社内の業績だけでなく東北地方の化粧品市場全体を盛り上げている。そんな由佐取締役のビジョンについて聞いた。

WWD:「パフューマリースキヤ」は仙台で70年以上化粧品市場をけん引してきた。

由佐憲靖パフューマリースキヤ取締役(以下、由佐):僕らの強みとしては、地元に密着しているのはもちろん、ブランドの誘致が得意なこと。例えば「ジルスチュアート(JILL STUART)」「アディクション(ADDICTION)」「アナ スイ(ANNA SUI)」はわれわれが専門店として初めて扱い、現在も東北地方でほぼ独占的に販売している。「レ・メルヴェイユーズ ラデュレ(LES MERVEILLEUSES LADUREE)」はでフランス、銀座に次いで世界3号店が「スキヤ」。また「ロクシタン(L’OCCITANE)」も日本で唯一われわれがフランチャイズで運営している。それは叔父である社長が「ロクシタン」を昔から見ていて、百貨店にも入れなかった時代に声をかけていたから。そのほか「バイレード(BYREDO)」「ペンハリガン(PENHALIGON'S)」「セルジュ・ルタンス(SERGE LUTENS)」などメゾン系のフレグランスも東北で独占で扱っている。

WWD:そこまで多くのブランドを誘致できた理由は。

由佐:社長の先見の明はもちろん、ブランドへの理解が高いことだと思う。たとえばブランドが素晴らしいCMを作っても、いざ販売店に行くとその世界観からはかけ離れていることが多い。販売店からの発信とブランドの世界観が離れていることも少なくない。メーカーと小売店の考え方や感覚の相違なので仕方ないが、お客さまからするととても残念なことだと思う。われわれはお客さまがブランドを知る瞬間から、足を踏み入れる店舗、接客体験、さらに買った後もその世界観を統一できるように取り組んできた。

WWD:どのような人が来店するのか。

由佐:客層はとても若くて、40歳以下が7割を占める。また最近は男性客も多くて、5年前にメンズユニセックスの新業態を作り、「オルタナ(OLTANA)」「ボッチャン(BOTCHAN)」「シガーロ(CIGARRO)」などメンズ・ユニセックスブランドを集積している。フロアの中央には巨大なバイクを置いたりして、ほかにはなかなかない売り場として楽しんでもらえている。「スキヤ」は年齢・性別関係なくたくさんの方が来店してくださっていて、百貨店とは違う客層を掴めているのだろう。

アプリの開発から広告の打ち出しまで自社発信へのこだわり

WWD:ご自身は昔から化粧品に興味や知識はあったのか。

由佐:知識は全くなく、最初は右も左も分からなかった。2年ほど店頭に立ちながらいろいろな人と話すうちに、化粧品に対するイメージが変わっていった。化粧品は一般的な消費財だと思っていたが、実は奥行きがあって、ブランドそれぞれに背景や歴史があって芸術作品のようだと感じるように。ただその魅力をお客さまに十分に伝えきれていないと強く感じた。お店自体はすごくきれいだし、製品も素晴らしいものばかりだが、販促プロモーションや来店してもらうための施策、メーカーとのやりとりがとにかくアナログで、そこをいかにアップデートしていくかがまず課題と感じた。

WWD:どのようにアップデートしたのか。

由佐:当時は店頭外でのお客さまとのコミュニケーションは基本的にハガキが主だった。ホームページも昔のものを使い回していたし、SNSも当然やっていない。ただ、今は一般の女子大生がコスメをフックに10万人のフォロワーを持つ。それなのに化粧品を商売としているわれわれがSNSをやっていないのはもったいないと思った。そこでインスタグラムを自分一人ではじめたのだが、ただ投稿するだけでは女子大生に負けてしまうので、プロとして正しい情報を伝えることにこだわった。発売日や色を見せるスウォッチはもちろん、どれが限定色なのかとかなど分かりやすく情報を届けて、カタログのように作っている。すると1年半で1万フォロワーがつき、実際投稿した製品が即完売ということも。ちなみに製品の撮り方や編集はいまだに全て自分で行っている。

WWD:当然ECにも力を入れた。

由佐:ECを始めたのは2019年頭。当時の売り上げは3000万円ほどだったが、昨年は約2億円に成長した。化粧品もそうだが、ECの開発も自社で行ったし、SEO対策やSNSマーケティングなど全て独学で学んだ。SNSの広告なども広告代理店を介さずに全部自分でやるし、クリエイティブも自分で作ってしまう。だから時間もコストもかけずに効率的にプロモーションをたくさん打つことができるし、うまくECへの送客もできた。そのほか社内の連絡をはじめ、メーカーなど外部とのコミュニケーションも全てスラックに切り替え効率化の向上を図った。

今後の成長の鍵を握るのは自社開発のLINEアプリ

WWD:DXで最も注力しているものは。

由佐:自社で開発したLINE内のアプリ。これも自社開発にこだわったのは、お客さま一人一人に適したメッセージを届けたかったから。顧客IDと連携させて、たとえば「2年以内に『アルビオン』の“薬用スキンコンディショナー”を購入した人」だけにメッセージを送ることができる。既存のPOSと連携したので店舗、期間、金額、商品、ブランド、接客した販売員など本当に細かい組み合わせのセグメントでコミュニケーションを取れるようにしている。まもなく会員証も全部LINEの中に入れて、LINEの中で新規の会員番号の発行や既存の番号の移行もできるし、ポイントの確認も全部LINEの中で完結するようになる。われわれのように複数のブランドと店舗を運営する業態の特性上、全体に一気に配信されてしまうコミュニケーションツールを使うのが難しかったが、自社開発のアプリでその課題を解決できた。昨年の7月に始め、会員数は半年で1万5000人を超えた。登録数にあまりインパクトはないが、店頭の接客のみで増やしたところに意味があり、ID連携率は95%を超え、ブロック率も5%以下になっている。ここまでのDXは正直百貨店もできていないし、われわれの強みだと思う。

WWD:これまでさまざまな改革を率ってきたが、今後の課題は。

由佐:ビジネスの課題は目下のコロナでの売り上げ減少の食い止め。同時に長い目で見ると、新しい生活様式への順応が大きな課題。それを乗り越えるには、スタッフの力を最大化することが重要。人間の力を心から信じており、たとえばSNSやオンライン販売などデジタル上でも人間の温かみを生かせれば、われわれだけのオリジナルの正解を見つけられると思っている。デジタルの力を使ってオフラインもオンラインも関係なくスタッフの力を発揮できるような仕組みを作り、全国のお客さまに喜んでいただきたい。また達成には仕組みだけでは全く不十分で、自社スタッフにはことある事に話している「変化することに慣れる」が大事。会社全体も自分自身もそれを達成し、柔軟に課題を乗り越えたい。

WWD:10年後の目標は?
由佐:たくさんのお客さまと取引するメーカーに愛される会社でありたい。それに尽きる。

由佐・取締役はデジタルを活用して、オフライン・オンラインの力の最大化を図っている。70年も続く老舗で一人独学でデジタルや化粧品について学び、社内外の変革を率いている存在だ。入社前は音楽業界で活躍し、化粧品に関する知識もない状態でビューティ業界に飛び込んだ由佐・取締役は新たな視線でこれまでの“業界の当たり前”を覆し、地方の化粧品市場を盛り上げている。

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