ファッション

伊勢丹・神谷バイヤーに聞く、「リ・スタイル」の“個”が際立つ売り場の作り方

昨年8月にリニューアルした伊勢丹新宿本店の自主編集売り場「リ・スタイル」。1996年の誕生以来、ファッションのトレンドの最先端をゆく編集で一目置かれる売り場だ。今回のリニューアルでは、これまでのセレクションの個性に加え、スタッフの“個”が際立つ売り場が誕生した。神谷将太・三越伊勢丹 クロージング&アクセサリーⅠグループ 新宿婦人・婦人雑貨営業部リ・スタイル バイヤー にその意図について聞いた。

WWD:今回のリニューアルの経緯は?

神谷将太リ・スタイル バイヤー(以下、神谷):実は2019年6月ぐらいから計画していたリモデルです。そのころ肌感覚で行なっていたMDでは世の中の変化に対応できないのでは?と薄々感じていました。今、変化しなければいけないと。その時点でリモデルのポイントは、ブランドやMDの積み上げではない、“人”を軸にと考えていました。お客さまの心理や消費の変化を感じていたんです。

WWD:消費者の心理や購買の変化とは?神谷さん自身がその変化をどこから感じていた?

神谷:昔はお客さまがファッションに求めること、共感することに対して、大きなホームランが結構打てたんです。「パリコレでこういうのが出てきたので、今年はこれがトレンドです。だから着ましょう」みたいな。それが近年は大きなトレンドって見えづらい。お客さまはトレンドだから買うのではなく「自分がどうありたいか」で選んでいますよね。

今、モノ自体はECもあって、手に入れることのハードルは下がっています。だからこそその分、お客さまが「このブランドほしい」「このショップで買いたい」といった忠誠心というか、エンゲージメントを高めることが大切だと感じていました。

WWD:新型コロナウイルスの感染拡大がきっかけではない?

神谷:違います。機能的なプラットフォームでは楽天やアマゾンなどには絶対勝てません。もう少し精神的というか、気持ちをつないでいけるデザイナーやお客さま、ブランド、そしてもちろん我々も含めて“人”を軸にしたプラットフォームを作りたいと思いました。ただ実はコロナの感染拡大により、リモデルオープンが2カ月以上も遅れたんです。工事が止まってしまって……。

MDはホームランではなく、小さな共感の積み上げが重要

WWD:人を軸にしたプラットフォームとは?

神谷:「リ・スタイル」というお店が、物の足し算で成り立っているショップとして見られるよりも、きちんとショップとしてのフィロソフィーやブランディングが見えるショップにしたい。それを構成するのが、ブランドや洋服はもちろんですが「人」もです。僕らバイヤーだったり、販売スタッフだったり。そういう人がいてショップは成り立っています。それがお客さまの愛着心や忠誠心など、エンゲージメントを裏付けるものとして確立しないと。モノ勝負ですが、百貨店の存在意義はもうそこではないと思います。お客さまとどうありたいか、共感ですね。

昔は週に何本もホームランを打つことがマーチャンダイズに求められましたが、今は小さくても共感の数を丁寧に積み上げることで、結果的にそれがショップのエンゲージメント、強みになることが重要だと思います。

WWD:リモデルオープン後の状況は?思い描いたプラットフォームは構築できているか?

神谷:休業明けの営業再開後のリベンジ消費は実際ありましたし、リモデルオープンの効果で売り上げは良かったです。その後、コロナの感染などで落ち着いている印象ですが、ECは好調に推移しています。プラットフォームは出来ていると思います。たとえば、メインプロモーションの隣でスタイリストによる編集ゾーンも作る。前回は「ベージュ」を、今回は「白」をテーマに、違うスタイリストが色のキュレーションで編集しました。それを「リ・スタイル」の販売スタイリストが、個人のインスタアカウントで発信しています。リアル店舗がさまざまなイベントで変化しながら、それを目的に来る人、たまたま来た人、取り組むデザイナー、そして販売スタイリストと、みんなが集う場が割と作れていると思います。

課題はホームページでも同様の表現ができたらと思っていて、モノの情報はもちろんですが、「リ・スタイル」を構成する人やバイヤーなどの情報も載せたい。お客さまへのカスタマージャーニーというか、購買経験のつながりを出していきたいです。

WWD:どう購買経験のつながりを作る?

神谷:これまではバイヤーが買い付けたモノ、販売員がオススメしたモノを売るだけでした。でもリモデルで販売スタイリストは自主的にどういったショップを作るか、いわゆる「リ・スタイル」で取り扱う洋服以外のコスメやリビングアイテムなどを集積して、お客さまをお迎えしています。自主編集であり、自社社員がいる。それはかけがえのない強みだと思います。

個人アカウントの公認で、業務時間内作業が変わる

WWD:私自身、「リ・スタイル」の販売スタイリストの一人のインスタをフォローしています。百貨店の社員が個人アカウントを活用することは、昔の伊勢丹さんでは考えられないことだったのでは?ハードルはありましたか?

神谷: ありましたね。OKが出たのは最近です。みんな個人的にプライベートではSNSは使っていたと思うんです。それを会社が公認にしてバックアップする。たとえば、新宿本店のオフィシャルアカウントと、その子たちのアカウントを結びつけて発信することで、人を巻き込めると思います。また公認にすることで、ちゃんと業務時間内にインスタライブをやったり、スタイリングを発信したり……。ここ数年で業務内容が大きく変わりました。ただ業務時間内ですがビジネス目的ではないというか、自分の楽しみとしてやっているところがあると思う。

WWD:確かにみなさん、本当に楽しんで発信していると感じます。だから見ていて楽しいし、「これ、かわいい」と素直に思えます。

神谷:公認アカウントだとしても、プロモーション告知やインスタライブ、商品を紹介するだけじゃなく自宅で過ごしているシーンを投稿するなど、プライベートも織り交ぜていて。そこも含めて公認です。お客さまが共感するのは、自分を接客してくれている販売スタイリストがどういった生活をしているのか、リアリティーなんです。そういうことができるようになったのは、大きな変化ですね。

WWD:何か会社に働きかけをしたのですか?

神谷:はい。若い子たちはまさにSNSなどデジタルネイティブで、生まれた時からそれが普通でしょう?と。それが理解できると、バックアップしてくれるようになりましたね。昔みたいに新聞の折り込み広告を入れれば売れる、ではありません。一方的ではなくつながっていくことが大事で、そういう必然性や意義を会社が分かってくれたと思います。

WWD:販売スタイリストの人たちもやりがいがありますね。

神谷:あると思います。1年目、2年目からそういう発信ができるので。僕が若手のときはストック整理とか、そんなのばっかりでしたから(笑)。

WWD:先ほど出た、コスメやリビングアイテムなどをそろえるのも昔は難しかったのでは?

神谷:リモデルで蔦屋さんや香水ブランドさんと協業して商品を集めました。単にバイイングするのではなく、テーマを伝えてそれに合う商品を一緒に選ぶということです。昔ならば洋服以外をセレクトすることさえ難しかったと思いますが、変わりましたね。僕はこう解釈しているのですが、「リ・スタイル」で作る売り上げだけでなく「リ・スタイル」が起点となり全館への買い回りを活性化させる。だからこそ垣根を越えて「リ・スタイル」に商品をそろえる。そういう役割を自主編集は担っていると思います。

「バレンシアガ(BALENCIAGA)や「クロエ(CHLOE)」「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」など、ほかのセレクトショップが主力としてセレクトしているブランドが、百貨店ではショップとして存在しているので、セレクトだけのリソースでいうと限られます。ただお客さまから見たら境界線は分からない……。フロア全体で楽しんでもらうために、お客さまには「気付き」を感じてもらいたい。そのために「リ・スタイル」は存在したいです。

WWD:とはいえビジネスであり、利益を出さないといけない。

神谷:もちろん商売として構造を作っていかなければなりません。当然、ものすごく売れるブランドと、100人中1人が共感するブランドとありそのバランスは見極めています。さらにECはスタジオを内製化して戦略的に多数の型数を掲載するなどで、売り上げを上げています。こういった土台がしっかりしている。店頭の販売スタイリストはそういう土台があるからこそ、思い切ったキュレーションもできます。“個”を際立たせることができるんです。

WWD:どういった“個”なのでしょうか?

神谷:昔はみんなが同じようにできないといけませんでしたが、今は多様性ですよね。得意なことを見極めてあげるのはすごく大事です。インスタなどで自己を表現することが得意な人もいれば、そうじゃない人ももちろんいます。そうじゃない人が実はお客さまをすごく抱えていたりとか、新規のお客さまへの接客技術が優れているとか。そこをきちんと評価する風土はあると思います。インスタやメディアがビジネスにおいて重要な時代に、目立つ人がいるのは仕方ないことですが、百貨店の土台として大事なのは接客力です。店頭チームには新卒の子から60代までいて、60代の男性スタッフは人生経験がありめちゃくちゃオシャレで僕もアドバイスを受けることもあります。メディアで目立つ人、コンテンツを複数集めて面白いキュレーションをする人、ブランドを徹底的に深めて広げる人、ブランドとタッグを組むのが得意な人……。“個”をどんどん際立たせたいですね。

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