ファッション

フロントローの椅子取り合戦は思い出話になりにけり エディターズレター(2021年1月5日配信分)

※この記事は2021年01月05日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから

フロントローの椅子取り合戦は思い出話になりにけり

 明けましておめでとうございます。本年も「WWDジャパン」をどうぞよろしくお願いします。2021年もファッションをテーマにしたレター担当として、こちらのメルマガをお届けします。

 昨年、私の仕事の変化の象徴は「ファッションショーのフロントローに座らなくなった」ことです。年間200以上のファッションショーを見続けて約20年。特に編集長になってからは多くのショーで最前列を用意していただきました。ありがたいですし、デザイナーたちが繰り出すクリエイションが大好物である私にとってそれは非常に楽しい時間でした。

 メディアにとってフロントローはただの椅子ではありません。ショーが見やすいとか、見にくいといった話だけでもありません。その椅子は、メディアとブランドの関係値の象徴です。なぜならファッションメディアからすればブランドは取材対象であり、広告出稿主でもあるからです。取材を通じて販売収益につながるコンテンツを生み、営業活動を経て広告収益を生むからです。 “フロントローに座る”とはつまり“そのブランドのために時間を十分に割く”ことを意味し、取材であると同時に営業活動でもあるのです。逆にブランドからすればメディアとの良好な関係は認知度や売り上げアップにつながります。まさに一蓮托生です。

 この構造は長年業界が続けてきた“あ、うん”の関係の上に立っています。それはそれは熾烈な戦いであり、文字通りの椅子取り合戦が繰り広げられ、最も加熱した2000年代にはギャグみたいな実話がたくさん生まれました。私自身「ランバン」のショー会場前で人目もはばからず号泣したことがあります(笑)。思い返せばなんとエゴイスティックな姿でしょうか!マウンティングの嵐が吹き荒れる光景は側から、特に業界外から見たら滑稽でしかないでしょう。でも私たちは極めて真剣であり、そこに情熱を注いできました。

 その恩恵も受けてきた私は過去を否定するつもりはありません。が、新型コロナはそんなブランドとメディアの恋愛事情を大きく変えました。新型コロナの感染拡大が収まればリアルのショーは復活するでしょうが、その数は減るでしょうし、椅子が並べられたとしてもその椅子の意味は大きく変わっているでしょう。

 私のファッションショー好きを知る友人からは「寂しくない?」と聞かれますが、実は昨年、私は密かにホッとしていました。確かに私はファッションショーを見るのが大好きです。でもこのサーカスみたいなルーティーンをいつまで続けるのかしら?と自問自答しているところがあったからです。

 そして数多くのデジタルコレクションを取材したことで、リアルなショーでなくてもデザイナーたちが試行錯誤しながら繰り出すクリエイションのエネルギーに触れることができることがわかってしまいました。デジタル上で発表されるファッションクリップは未成熟な世界であり、だからこそ今最高に面白いと私は思っています。どんなカルチャーでも黎明期には予想もしない才能が飛び出すものですが、ファッションショーとデジタルを巡る世界も同様です。

 私は今年もファッションとファッションビジネスを追いかけます。デザイナーだけではなく、ファッションを生業とするあらゆる人たちの仕事を追いかけます。彼らの生き様や、社会とのつながりの見立てを追いかけます。そんなことをこのレターを通じて綴ってゆきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。(レターに関する感想、テーマの提案などを一言だけでもお寄せいただけると大変励みになりますのでぜひお願いします!)

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