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連載 鈴木敏仁のUSリポート

売らない百貨店「ノードストローム・ローカル」の狙い 鈴木敏仁USリポート

 アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。百貨店が淘汰の波に洗われる中、大手のノードストロームが新しい店舗の実験を行っている。EC(ネット通販)時代を象徴する新しい百貨店とは?

 百貨店のノードストローム(NORDSTROM)がロサンゼルスで実験している小型フォーマットを2店舗追加すると発表した。店舗の名称は「ノードストローム・ローカル」(以下、ローカル)。ロサンゼルスに2店舗とNYマンハッタンに2店舗と現在4店舗営業中で、これに2つ新たに加わることになるので計6店舗となる。

 この超小型店舗、1号店と2号店をロサンゼルスにオープンして実験を開始したのは2017年のことだった。NYマンハッタンへの出店は昨年で、本体のマンハッタン初進出に合わせて近隣にオープンさせている。物販を目的としておらず、非常にユニークなコンセプトで注目しているのだが、今回の2つ追加によって小型フォーマットは彼らの計画の中で今も動いていることを確認できた。

わずかな商品と豊富な機能・サービス

 どういう店なのか、NYマンハッタンの店舗を参考にして紹介しよう。

 2店舗出店しているが、1つはセントラルパークの東側(アッパーイースト)、もう1つはグリニッチビレッジで、双方ともに高所得層エリアだ。特にセントラルパーク周辺は高級マンションが立ち並ぶ「超」がつく富裕層が多い地域である。私が訪問したのは前者だ。店舗面積は167平方メートルで、ブティックや中小商店が利用する規模である。

 店内には販売用の商品はごくわずかしかない。やっていることをざっと並べると、ネット販売のピックアップと返品、洋服のお直し、スタイリストによるスタイリングのアドバイス、ラッピング、靴の修理、ベビーカーの掃除、洋服の寄付受付といったところである。

 入り口を入るとすぐ左側にネット販売ピックアップ用のラックが置かれ、オープンしてすぐに訪問したときはすでに商品が並んでいて、ニーズの高さを実感した。その真向かいにはサービスカウンターがあって、ピックアップや返品の作業を店員がこなしている。昨年のオープン時にはメーシーズ(MACY'S)やコールズ(KOHL’S)といった競合百貨店の返品も受け付けると発表して驚かされた。ノードストロームの無条件返品は昔から有名だが、さすがに他社の返品を受け付けると公言する企業は聞いたことがない。

 また入り口を入ってすぐ右側には寄付用のスペースが割かれている。アメリカは税控除になることもあって衣服を中心として不必要になったものを捨てずに寄付する人が多く、その受け皿としてサルベーションアーミー(救世軍)という大きな組織からローカルベースの小さなNPOなどたくさん全米で活動している。この店は近隣のNPOにスペースを提供していて、お客が持ち込んだ専用の大袋が詰まれていた。

 店の半ばあたりにはミシンが2台置かれてプロが常駐、お直しを請け負っている。奥にはドレッシングルームがあるので、例えばネットで買ったものをストアピックアップとして、試着してその場で直すということも可能である。私が訪問したときは数人が店員とやりとりしていた。

 ドレッシングルーム周辺はスタイリングエリアで、常駐しているスタイリストがお客にアドバイスする。訪問時にはお客が熱心にスタイリストと話をしていた。ネットで予約を取ることも可能である。

お客の選択肢を増やす面戦略

 紹介したのはNYマンハッタンのアッパーイーストサイドの店舗で、他の店舗もほぼ同じ構成のようだが、地域のニーズによって提供するサービスを変えると言っているのでまったく同じというわけではない。

 既述したように店内に販売用の商品はごくわずかで、一見して物販を目的としていないことが分かる。ノードストロームはこの新しいフォーマットに売り上げを求めていないのだ。コミュニティの中にある小さなサービスハブとしてお客との新たな接点を作ろうとしているのだろう。

 同社はこれをマーケット戦略と呼んでいる。ノードストロームやノードストローム・メンズといった旗艦店舗とオフプライスストアのノードストローム・ラックを主軸として、その周辺にローカルを配して補助的な存在として機能させる、日本語で言うところの「面戦略」である。

 ちなみにネット通販のストアピックアップでフォーマットの壁を壊し、例えばラックのネット通販で買ったものをノードストロームでピックアップしたり、ノードストロームで買ったものをローカルでピックアップしたりと、お客は自由に選べるようになった。機動性の高いローカルをピックアップハブとしても機能させようとしているのだろう。

 リモートや非対面ばかりに焦点が当てられる昨今だが、対面サービスはこれからも変わらず重要だと私は考えている。ローカルタッチはファン作りにも寄与することだろう。ノードストロームの新たな挑戦は注目に値すると思っている。

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