ファッション

マシューによる新生「ジバンシィ」公開、遠い未来から希望を届けた「トム ブラウン」 デジコレでドタバタ対談パリ7日目

 2021年春夏のコレクションサーキットのラストとなるパリ・ファッション・ウイーク(以下、パリコレ)も7日目となりました。パリからはベルリン在住のヨーロッパ通信員が現地取材の様子をお届けしますが、オンラインでも日本の記者たちが対談レビューという形で、“できるだけリアルタイムに近いペース”で取材を進めていきます。今回は、今回はメンズ、ウィメンズともにこれまでも各都市のコレクションを取材してきた「WWDJAPAN.com」の村上要編集長とパリコレ取材3度目の丸山瑠璃ソーシャルエディターがリポートします。

リアリスティックな「スキャパレリ」ウーマン

丸山:「スキャパレリ(SCHIAPARELLI)」は、ダニエル・ローズベリー(Daniel Roseberry)がクリエイティブ・ディレクターに就任してプレタポルテをスタートしてからもう3シーズン目になるんですね。クチュールのイメージが強かったのですが、ウエアラブルなアイテムが予想外に多く驚きました。というのも、今季ローズベリーは現在も数十年後まで着られるエッセンシャルなコレクションを、クチュールのクオリティで作りたかったそうです。過去2シーズンのコレクションも見てみたのですが、ゴールドの装飾がちりばめられたクラシックなパンツスーツからツイストが加えられたイブニングドレスまで、確かに今後何年も使えそうなアイテムがそろいます。ベーシックではあるものの、創業者のエルザ・スキャパレリ(Elsa Schiaparelli)が好んで使っていたというゴールドのメジャーテープの装飾や南京錠、ロブスター、ゾウなどのアイコンが効いていますね。

村上:ダニエルさんは、「トム ブラウン(THOM BROWNE)」出身だけど、絵心あるクリエイティブ・ディレクターですね。ムービーでも、イラストの制作場面がなんども出てきます。スカーフのみならず、セットアップにまで本人直筆のイラストを用いているみたい。シュールレアリスムが信条のブランドが、アーティストのごときデザイナーを起用するのは、とても正しい選択な気がしました。正直にいうと復活以降、「難しいなぁ」って思って見ていたんです。オートクチュールとプレタポルテの中間“プレタ・クチュール”の確立を目指して再スタートを切ったけれど、シュールすぎて「お金とアートを愛でる心の双方がズバ抜けた、欧州のお金持ち以外にマーケットはあるのかな?」って思っていました。それがずっとリアルになって、それでもアートマインドは失わず、絶妙なバランスを模索しながら路線変更しつつある印象です。例えば寝転ぶと床と一体化した平面のように見えるジャケットは、もちろん実物はリアルウエア。でも写真に撮るとシュールに見えて、SNS全盛の今っぽい。マスクは販売するかわからないけれど、シュールの度合いが強い商品はアクセサリーに絞り込んでいるのも正解だと思います。

NYからパリにやって来た「ガブリエラ ハースト」

丸山:いつもニューヨークで発表している「ガブリエラ ハースト(GABRIELA HEARST)」は今季パリで発表しました。リアルなショーをライブ配信していましたが、映像ではランウエイだけでなくモノクロでバックステージの様子も見せていて、その緊張感が伝わってきました。ニューヨーク・ファッション・ウイークを取材している村上さんは「ガブリエラ ハースト」のクリエイションをこれまで見てきたと思いますが、彼女の強みは何なのでしょう?

村上:「ガブリエラ ハースト」の今季は編みや太めのコットン糸を用いたハンドステッチなどの手仕事を加えながら、オーガニックなムードを維持しながら、エキゾチックなスパイスを加える彼女らしさが発揮されていたと思います。シンプルなコットンワンピのショルダーストラップや、細い2連のベルトづかいも彼女らしい。ただ、そうそうたるブランドが集うパリだと、もうちょっとオリジナリティが欲しいのも事実。ニューヨークでは、他よりラグジュアリーな分、素材に人一倍こだわって独自性を保ってきたけれど、それだけじゃパリでも同様には輝けない。今後の進化に期待しましょう。

夜のパリをガツガツ歩く「バレンシアガ」

村上:「バレンシアガ(BALENCIAGA)」は、他のブランドよりも一足早く、21年プレ・フォール・コレクションに相当する21年サマー・コレクションを発表ですね。このブランドのサイクルは独特で、メインと次のプレで1つのストーリーが完成。つまり今回の21年プレ・フォールは、7月に発表したコレクションの続き、ですね。確かに、全体のシルエットは7月発表のコレクションよりも落ち着いている印象だけど、ボロボロのニットやロゴ入りのスエット、カラフルなトートバッグなど似たようなアイテムもチラホラ。モノすごく新しいとは思わなかったけれど、デムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)らしいクリエイションですね。サステナブルへの取り組みを明言しているけれど、これまでの残反やアーカイブも使っているのかな?アイデアが枯渇しないためにも、考え自体も使い捨てず、次に繋げる考えは賛成です。気になったのは、BGMの「Sunglasses at Night」でしょうか?元々は、好きな女の子のウソを直視したくないから夜でもサングラスっていう男の子の歌だと思うんだけど、その曲を今、用いた理由はなんだろう?業界の悪しき慣習に対するアンチテーゼ??

丸山:音楽はコリー・ハート(Corey Hart)の1983年の曲「Sunglasses at Night」をデムナと長年組んでいるプロデューサー、BFRNDがカバーしたものでしたね。ちなみに最後に仲間と合流したラストルックのモデルがBFRNDです。映像では曲の通り夜なのにサングラスをしたモデルがパリの街をガツガツ歩きます。勝手に3Dを駆使したSFチックな映像が来るのではないかと想像して身構えていたので意外でした。でも、デムナは事前インタビューでこのコレクションでは2030年のファッションを思い描こうとしたと明かしています。2030年ですが「レトロフューチャリスティックなスタイルの提案ではなく、何が必要不可欠でサステナブルかということをより探求するということ」だそうで、見たこともない新しいものというより、デムナが10年後も残ると思うエッセンシャルなアイテムを集めたコレクションだったのではないでしょうか。1983年の曲を使ったのも、それが現代まで残っているからなのかなと思いました。ですがフーディーを着ずに頭からかけたり、イブニングドレスにスリッパを合わせたり、ティックトック(TikTok)のように歌詞に合わせてモデルが口パクする演出など、どこか違和感のある要素は健在でした。違和感というのは新しいものを初めて見るから生まれる感情でもあると思うのですが、昔からあるものを違う見せ方をしているので新しいように感じます。ちなみにユーチューブでは映像をずっとループさせて見せていて、かれこれ十数時間ライブしているのですがいつまでやるのでしょう?

遠い未来の宇宙からユーモアを届けた「トム ブラウン」

丸山:「トム ブラウン」はリアルのショーと同じようにデジタルでもユーモアたっぷりな映像を公開。まず設定から、22世紀の月で開かれたスポーツ大会「2132 LUNAR GAMES」の開会式の実況とぶっ飛んでます。会場は実在のスタジアム、ロサンゼルス・メモリアル・コロシアム(Los Angeles Memorial Coliseum)なのですが、実況者によれば過去のアーカイブから再現したものだそう。スタジアムを埋め尽くす観客は全員「トム ブラウン」を着用。オリンピックの開会式で選手が正装で入場してくるときのように、最新コレクションをまとった選手が、各競技を現したロゴが描かれた旗とともに入場してきます。最後はトム・ブラウンの愛犬ヘクターをモデルにした犬型の宇宙船がスタジアム上空に現れ、双子のスター選手が宇宙船から降りた後、「トム ブラウン」のライターで聖火を灯すという、ツッコミ満載な映像でした。コレクションは白を基調にしていましたが、これは希望を表しているそう。デジタルでも変わらないユーモアを希望とともに届けてくれたトム・ブラウンに感謝です。

村上:「トム ブラウン」は、112年後も燦然(さんぜん)と輝き、代表選手団のユニホームを手がけているのね(笑)。112年後のオリンピック的なスポーツの祭典は、まだスタジアムをメーン会場に行われているのかな?ナレーターによると、このスタジアムは「20世紀のロサンゼルスを再現している」みたいだけれど。その後ナレーターは、グレース(Grace)さんのリポートの後、「Amazing Grace」とのコメントを発していたね。「Amazing Grace」はアメリカで昔から歌われる賛美歌で、春には新型コロナウイルスと戦う医療関係者に向けて贈られました。舞台は2132年だけれど、随所に過去へのリスペクトが感じられます。心温まるストーリーですね。2132年も「トム ブラウン」が打ち出し続けるフォーマルに代表される古きと、
スペースエイジ時代に欠かせないミラーサングラスのような新しきが入り混じっている素敵な世界だといいなぁ、って思っちゃいますね。絶対生きてないけれど(笑)。

パリジャンに着想を得たリアルな「パコ ラバンヌ」

村上:「パコ ラバンヌ(PACO RABANNE)」は、正直、もうちょっと何かを期待してしまいましたね。終盤のシルバー&ゴールドのスパンコールドレスは、「まさに!!」と興奮しましたが比して前半は、それなりにメタルづかいは含まれているけれど、「『パコ ラバンヌ』で買わなくてもいいかもなぁ」というアイテムも多く。ただメタル使いとか、ラミネート加工を増やすと重さ、着心地、価格などの面でリアルから遠ざかってしまうし、難しいところですね。終盤は、とっても「パコ ラバンヌ」だけど、あくまでコレクションピースでしかないワケで……。そう考えると、「スキャパレリ」は上手な落とし所を見つけつつある印象です。

丸山:ジュリアン・ドッセーナ(Julien Dossena)=クリエイティブ・ディレクターは、ロックダウン中にそれまで当たり前だった近所の通りで個性豊かな女性たちが行き交う姿を眺めることが恋しくなったとのことで、今季の「パコ ラバンヌ」も彼女たちが着ているようなジーンズやブラトップ、キャミソールなど日常使いできるリアルなアイテムが多かったですね。一部のモデルもドッセーナの友人のパリジャンを採用していたとか。さらに会場の扉は開け放たれていて、ショーを見に集まった群衆や通りを走る車が垣間見えます。モデルは会場の外を歩いてから会場に入ってくるという演出で、パリの日常からランウエイにそのままやってきたようでした。ただ前回のジャンヌダルクに着想を得たコレクションは強さもありながら神秘的な素晴らしいコレクションで、ドッセーナの本領は日常着よりも洗練されたファンタジックな表現の方が発揮されるのかなと思っていたので、個人的には少し残念ではありました。ただ、コロナ禍で消費者もファンタジックよりもリアルな方を好む消費傾向にあるので、それに合わせた結果でもあるのかなと思います。

ビーズを用いたドリーミーな「ビューティフルピープル」

村上:「ビューティフルピープル(BEAUTIFUL PEOPLE)」はバルーンシルエットを基調に、フリルやプリーツをプラスしたひざ丈のドレスの裾にマイクロビーズを封入。すると裾まわりのボリュームがさらに誇張されて、という仕掛けですね。ショーの前に届いた招待状も、マイクロビーズを詰め込んだハンドピローみたいな物体だったんだけど、実際、ビーズも販売するのかな?とても自宅で気軽に詰め込めるシロモノじゃないけれど、軽くて暖かそうではあります。招待状みたいなハンドピローを数個セットにして販売したり、ドレスとセットで売ったりするのかな?そば殻を詰め込んだ枕とフカフカの布団のように、軽くて、ドレスだけど「おうち時間」にも良さそうで、リラックスできるアイテムでした。

丸山:「ビューティフルピープル」は服の表である“Side-A”と裏である“Side-B”、表と裏の間に着目した仕立てのアイデア“Side-C”を以前から採用していましたが、今回はこの間を相互につなげてマイクロビーズを入れられるポケットを作ったんですね。公開した映像は、封入されたビーズが服からモデルの動きに合わせてドラマチックに落ちるという演出でした。ビーズが詰まったポケットに寄りかかればそれはビーズクッションやアームチェアに早変わり。そのまま寝れちゃう枕にインスパイアされたヘッドピースや、ベッドリネンやテーブルクロスのような生地など、家の中にあるものに着想を得たコレクションでしたが、「もしも洋服が住居として変化したら?もしも洋服が感情を揺さぶる存在として、精神を高揚させつつも、穏やかな居心地良さと安心を与えることができたとしたら?」というアイデアを由来としているそうです。

マシュー・ウィリアムズによる新生「ジバンシィ」

村上:新生「ジバンシィ(GIVENCHY)」、私たちはルックを見ただけですが、なんだか良さそうですね。クロコダイルのようにゴツゴツした質感のレザー、喜平のメタルチェーン、スキャンダラスなブラックミニドレスなど、メゾンらしい強さとモード感が漂います。前任クレア・ワイト・ケラー(Clare Waight Keller)は、とっても優しいので、時に無理して力強い方向に振っていた印象もあるけれど、マシュー・ウィリアムズ(Matthew Williams)にとって、ブラックやモード、メタル使いに代表されるエッジーは、得意のフィールドだしね。詳しくは、ヨーロッパ通信員の藪野淳さんが現地でコレクションを見てリポートしてくれています。

丸山:やっぱりマシューの得意なアクセサリーは素晴らしかったですね。特にティーザーでも見せていた南京錠を用いたアイテムは売れそうです。しかもエントリー価格のアイテムも出すそうで、楽しみですね!「1017 アリックス 9SM(1017 ALYX 9SM)」でも最近はテーラードを意識していましたが、メゾンの技術によりまた別格なクオリティに仕上がっていました。ちなみにキャップやヒールに採用した角などゴシックな要素は意外だったのですが、アレキサンダー・マックイーン(Alexander Mcqueen)期のアーカイブからと聞いて納得。

最新号紹介

WWD JAPAN

コロナ禍の現地取材で見えた“パリコレ”の価値 2021年春夏コレクション続報

「WWDジャパン」10月19日号は2021年春夏コレクションの続報です。コロナ禍でデジタルシフトが進んだコレクション発表ですが、ミラノとパリではそれぞれ20ブランド前後がリアルショーを開催。誰もがインターネットを通じて同じものを見られる今、リアルショーを開催することにどんな意味があるのか?私たちはリアルショーを情熱の“増幅装置”だと考え、現地取材した全19ブランドにフォーカス。それぞれの演出やクリ…

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