ファッション

「コントワー・デ・コトニエ」にスタイリスト出身の新ディレクター 「トレンドよりもスタイル」な時代の最強ワードローブを提案

 ファーストリテイリング傘下の仏「コントワー・デ・コトニエ(COMPTOIR DES COTONNIERS以下、コトニエ)」が2020年春夏シーズンからブランドを大刷新している。クリエイティブ・ディレクターに抜擢したのは、「マリ・クレール(MARIE CLAIRE)」、仏「ヴォーグ(VOGUE)」、「テクニカルト・マドモアゼル(TECHNIKART MADEMOISELLE)」などの編集者やスタイリストを長く務めてきたナタリー・マーシャル(Nathalie Marchal)だ。ベリーショートのマニッシュな姿からは完璧主義を、話してみると知性や秘めたやさしさを感じさせるナタリーに、東京ミッドタウンのグループオフィスで、新生「コトニエ」のビジョンを聞いた。

―エスモード出身で、編集者やスタイリストとして長くキャリアを重ねてきたが、どんな仕事をしてきたのか?

ナタリー・マーシャル(以下、ナタリー):ファッションのエディトリアルやスタイリストとして、いろいろな服を合わせて「シルエットを作ること」に努めてきました。「コトニエ」にもたらせるものがあるとすれば、スタイルやシルエットを作ることで、これはものすごく大事なことだと思っています。多くの仕事をしてきた中で一つだけ紹介するとしたら、仏「ヴォーグ」の音楽特集でスーパーモデルのジェリー・ホール(Jelly Hall)のページを担当し、(当時の夫だった)ミック・ジャガー(Mick Jagger)にドレスを着せたことですかね。ミックから提案があったものを具現化しましたが、とてもサプライジングでインパクトがありました。有名人と仕事をする機会もありましたし人脈もできましたが、どちらかというと日常の女性を演出して写真や映像の中で見せていくことをメインに手掛けてきました。

―「コトニエ」のクリエイティブ・ディレクターに就任する決め手となったことは?

ナタリー:写真や映像の枠を超えて、多様な女性に日常に根差した服そのものを提供したいという気持ちがありました。今までの経験を生かして、独自のアリュール(魅力)とシルエットを提案できると思ったからです。今まで仕事をした雑誌ではエクスクルーシブなものが多くて。それも面白かったのですが、「コトニエ」ではあらゆる女性に語りかけることができるという点に大きなやりがいを感じました。

―もともと「コトニエ」に抱いていたイメージは?

ナタリー:他のフランス人と同じだと思いますが、とても素晴らしいブランドだし、フランスでは有名で、文化の一部担っているブランドです。“母と娘”というテーマもよく知られていて愛情も感じていましたし、質の良い服を手ごろな価格で提案するイメージや、“相性”とか“親密な関係”というイメージを持っていました。

―ライフスタイルや価値観が変わる中で、現代の女性に向けてどのようにブランドを刷新しようとしているのか?

ナタリー:変えてはいけないのは、クオリティーの高い服を提供すること。一方で、これまで以上に多くの女性に扉を開いていきたいと考えています。母と娘だけでなく、子どものいない女性にも友人同士にも、成熟した女性にも若い女性にも開かれたものとして幅広い女性に語りかけていきます。このブランドでやりたいのは、「理想のワードローブを女性に提供すること」。シンプルな中にもフェミニニティーがあるニットやマスキュリンなパンツやブラウスなど、みんなが夢見るような理想のワードローブを作るためのエッセンシャルな(欠かせない)アイテムを提供していきます。実は多くの人々が好きなものは共通していますし、自分の好きなスタイルはそう変わるものではありません。皆が着られるアイテムを、良い素材でディテールも作り込んで、きちんと作る。そうすることで長い間着られるタイムレスでエッセンシャルなものとして選んでいただきたいんです。「前に買った服が流行遅れになったから別のものを買う」のではなく、「そのアイテムが大好きだからと色違いを買いに来た」という風になってもらいたいですね。そして、どんな組み合わせでも着こなせて、同じ1枚の服でも自分の好きなスタイルで着られる、制約から解放されるようなブランドにしたいと思っています。スタイリストの経験から、ほとんどのアイテムをいくつもの着方ができるようにしたのも新生「コトニエ」の大きなポイントです。まさに今は“トレンドよりもスタイルが重要”な時代ですから。

―洗練された現代のベーシックウエア&ワークウエアという印象を持ったが、コンセプトに掲げる“アリュール”や、“フェミニニティー”とブランドの中でどう表現していくのか?

ナタリー:“アリュール”とは魅力的なという意味ですが、服を着た時に自信が持てて、飾らずに自然体でいられることや、自分自身の人間性にフィットしていると思えることなどが大事なことだと思っています。全体的にクリーンなライン、シンプルなラインを重視しており、デザインのためのデザインはしないようにしました。そして、着心地の良さとシルエットの良さを両立させることを重視しているんです。女性が窮屈さを感じることは避け、きっちりしたラインのものでありながら、歩いたり、走ったり、日常的な動きができるようなものをと心がけています。フェミニニティーについてはいろいろな表現の形がありますし、とくに最近は型にはまった女性らしさを求められることはなくなっています。これみよがしなデザインではなく、布帛系のアイテムの絶妙なラインなどで語っていきたいと思っています。

―服作りは初めての経験?ディレクションするときの流れや、インスピレーション源は?

ナタリー:はい、初めてですね。私がディレクションして、デザイン室のチームがデザインして、私がスタイルブックを作る、というような流れです。まずは仕事をしたり、子どもがいたり、忙しい女性にとってワードローブに何が必要なのか、とくに「こういうものが欲しいけれどもなかなか良いものがない」というもの、「どんな風に組み合わせても着られるもの、長く着られるもの、女性たちが楽になるもの」を考えました。メンバーは体形も個性もいろいろなので、みんなに似合うか、それぞれがどう着こなすのかを見るのがとても楽しくて興味深かったですね。ちなみにインスピレーション源は“女性たち”です。とくにイメージするのはフランスのアイコン的な女性が多いですね。60年代の女優も大好きで、写真もたくさん残しています。当時のカトリーヌ・ドヌーブ(Catherine Deneuve)のシンプルなボーダーにキャスケットを合わせたような、シックでナチュラルなスタイルや、小説家のフランソワーズ・サガン(Francoise Sagan)のマスキュリンなスタイルが好きなんです。

―以前に比べて天然素材を多く使用しているように見受けられるが。

ナタリー:ブランドとしてできるだけ自然を尊重したモノづくりを考えました。天然素材を使うことでフランスのブランドという原点に立ち返り、歴史や文化やノウハウ、モードなどの要素を改めて生かしました。とくに、リネンやコットンはフランスが伝統的に得意にすると素材です。クリーンな感じが好きなので、コットンポプリン(綿ブロード)で作ったシャツやマスキュリンなボトムスも気に入っていますし、リネンの落ち感や洗練されたシルクの織物なども好きで取り入れています。良い素材を使い、ディテールまで計算しつくされた、クオリティーの高いものを作り上げました。また、サステナビリティは優先課題として意識しています。長く着られる服を提供することがサステナビリティの第一の柱です。どうやったらベストな形にできるか模索しているところです。

究極の目標は「どれを選んでも間違いない」というぐらい信頼してもらうこと

―ファーストリテイリングのグループ企業であることのメリットとデメリットは?

ナタリー:メリットはたくさんあります。大きなグループのサポートを得られることで、とても心地よく仕事ができます。服飾産業としてのノウハウを持っており、常にクオリティーが高く、しっかりと考えられた商品を提供できるのも重要な点です。今のところデメリットは感じていません。あ、今まさにそうなんですが、出張によるジェットラグぐらいですね(笑)。

―ちなみに、前職時代、「ユニクロ」についてはどのような印象を持っていた?

ナタリー:もちろんよく知っていましたし、私のベーシックアイテムの中にはユニクロの服もありました。シンプルできちんと考えられてきちんと作られた技術性の高いものが、手ごろな価格で提供されているという、しっかりした価値を感じていました。私が「コトニエ」の価値観でも共感したのは、「誰もが手に取ることができること」でした。10年間モードの勉強をした人でなくてもわかる、デザインのためのデザインではない、シンプルで機能的な良い服を提供できることが楽しみなんです。ちなみに、「ユニクロ」はコラボ相手のチョイスにもいい意味で意外性があり、多様性があるという印象を受けました。それは、いろいろなものにトライをして仕事をするというファーストリテイリング、「ユニクロ」の持つ精神的な開放性、オープンさの証明だと感じていました。実はそういう企業やブランドはめずらしい存在でした。

―「コトニエ」ではお客さまとのコミュニケションはどう構築していく?

ナタリー:そこにも私は関わっていますが、かつての仕事の経験からも、イメージ発信はとても大切なものだと思っています。新キャンペーンでは、同じ商品を若い人から成熟した人までいろいろなタイプの女性に着てもらいました。このコレクションをいろいろな解釈で多様に表現することが重要だと考えたからなんです。「一つ」「私」ではなく「複数」「私たち」だということを表現するために、英語の「ウィー(WE)」に当たる「ヌー(NOUS)」をコミュニケーションワードとして使用したりもしています。

―昨年、パリのボン・マルシェ(Le Bon Marche)の向かいに新たにセーブルバビロン店をオープンしたが、どのような店に仕上げたのか?また、今年はブランド設立25周年でもある。何か特別な仕掛けは?

ナタリー:セーブルバビロン店では、商品の刷新に先駆けて、内装で新しいスピリットを表現しました。蚤の市で見つけてきた古い家具や本などをミックスしてブランドの世界観を表現し、全体としてパーソナルな雰囲気を作ったのが特徴です。実は今、新たにパリに旗艦店をオープンする新プロジェクトを推進中です。ユニークでオリジナリティーの高いものになると思います。

―次の秋冬、そして来年に向けて、継続すること、変えていくことは?

ナタリー:すでに方向性は定まってきたので、アイコン的なアイテムを、素材を替えたりディテールを変えて提供していこうと考えています。今は私も周りの女性も、自分の好みはあまり変わらず、スタイルに一貫性があり、服も同じようなものを買いますよね。逆に、気に入ったもの、好きなものを買いに行って「ない!」ということになるとフラストレーションを感じてしまいます。もちろん、気分も変わるしモードも変わるので、時代の空気を取り入れた新しいものや、新しい解釈を入れたものも提供していきますが、アイコン的な商品を大切にし、継続して発売していきたいと思っています。

―クリエイティブ・ディレクターとしてのゴールは何か?

ナタリー:「シンプルだけど特別な服」を多くの女性に提案し、共感してもらうことです。きちんとした質があり、女性が日常にリアルに着られる服で、大げさでもないし、物足りなくもない、「必ずぴったりのものが見つかる場所」として、多くの女性のワードローブの役割を果たしたいと思っています。究極の目標は、「どれを選んでも間違いない」というぐらい信頼してもらえるブランドになることです。

―趣味や、気分転換方法、休日の過ごし方は?

ナタリー:一番の趣味は読書ですね。仕事の密度が濃いので、プライベートは静かな過ごし方をしています。どちらかというと女性作家の、フランソワーズ・サガンやヴィルジニー・デパント(Virginie Despentes)などを愛読しています。フランス文学が好きなのですが、古典も含めて読んでいないものもたくさんありますし。レジャーで図書館に行くのが楽しいですね。市営図書館にも素晴らしいところがあり、新しい作家にも出会うことができます。アーティスティックなものは常に自分に良いものをもたらしてくれます。展覧会も気分が上がります。バカンスも大切ですし、都市を離れて少し静かな、時間のペースがゆるやかな場所に行くのがいいですね。年齢を重ねるごとに自然と触れ合うことがますます重要になってきます。他にもときどきする料理でもリラックスできます。バスチーユの市場や、もっと下町風のアリーグルのマルシェも多種多様なものを売っていて楽しいですよ。

―日本でインスピレーショントリップをしたことは?

ナタリー:まだないんです。今回も六本木と有明が中心で時間が取れなかったのですが、ぜひやりたいですね。日本は大好きなのでもっと知りたいですし。川端康成や小津安二郎の映画も大好きなものがあります。ぼんやりイメージがあるので、照らし合わせながら、日本の文化の理解をもっと深めてもっと語れるようにできれば。次はバカンスで来たいですね。

EDITOR’S CHECK:「コトニエ」の設立は1995年。フェミニンさと素朴な雰囲気を宿したフレンチカジュアルブランドは短期間で急成長し、10年間で「アニエスベー(AGNES B.)」「ザディグ・エ・ヴォルテール(ZADIG & VOLTAIRE)」「マージュ(MAJE)」と並び、主要な百貨店やショッピングエリアには必ずといっていいほどラインアップされるブランドに成長した。2005年にファーストリテイリングの傘下入り。柳井正社長は「真にグローバル化できる企業」であり「グループとしてのシナジー効果を出していきたい」と語り、日本での展開なども始まった。200店舗・160億円程度だった売上高が、2年で1.5倍に成長した。けれども、欧州の消費低迷やファストファッションとラグジュアリーブランドに押される形で伸び悩み、16年8月期から赤字が続いている。13~14年にはザディグ・エ・ヴォルテール」の共同創設者で「ケンゾー(KENZO)」のデザイナーも務めたアメリ・ジリエ(Amelie Gillier)を、15~16年にはアン・バレリー・アッシュ(Anne-Valerie Hash)をクリエイティブ・ディレクターに起用。その後、「ユニクロ(UNIQLO)」のデザイン・ディレクターだった元イッセイミヤケ(ISSEI MIYAKE)の滝沢直己を起用したりもしたが、かじ取りは難航を極めた。直近の店舗数は290店舗余り。いまここで再生できるか、ナタリーの肩には大きな期待がかかっている。

松下久美:ファッション週刊紙「WWDジャパン」のデスク、シニアエディター、「日本繊維新聞」の小売り・流通記者として、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)

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