「WWDジャパン」は、ファッション界の次世代を担う人に光を当てた企画「ネクストリーダー」を実施している。今回で3回目を迎えた同企画の対象者は、ファッションビジネスに関わるあらゆる分野の若きリーダーたち。情熱と才能を持ち、強い信念で前へ進むネクストリーダー10組を紹介する。
「弁護士」というと、“専門性が高く、とっつきにくい存在”だと感じる人も少なくない。その既成概念を打ち崩すのが、三村小松法律事務所の小松隼也・弁護士だ。彼はファッションローに明るい弁護士としてだけでなく、“リーガルディレクター”の顔も持ち、ファッション領域でのビジネスを法的観点からサポート。デザイナーズブランドを中心に、海外進出やM&A、協業の際の契約などさまざまなアドバイスを行っており、ブランドからの信望も厚い。法の力でファッションビジネスの可能性を広げてきた“弁護士界の異端児”はどのようにして今に至り、そして今後何を目指すのか。小松弁護士の過去、現在、そして未来を探る。
WWD:リーガルディレクターとは、どういった存在なのか?
小松隼也・三村小松法律事務所 弁護士兼リーガルディレクター(以下、小松):一言で言うと、ビジネスにおける戦略をクライアントと共に考えるパートナーだ。以前とある人に“アートディレクターの法律版”と言われたこともある。例えばショールームはどこと組むのがいいのかや、海外ブランドと協業する際の契約形態などを、法的な観点や事例をもとに一緒に考えている。
WWD:リーガルディレクターとして活動を始めた経緯は?
小松:15年にニューヨークに渡り、ファッションローについて2年間ほど学んだ経験が大きい。そもそも渡米したのは、弁護士の活動と並行して東京写真学園に進学した際に知り合った、モデルやデザイナーといった人々から、法律的な相談が増えていたからだ。海外活動におけるトラブルが多かったこともあり、最前線であるNYで学ぼうと考えた。現地のファッション系の学生たちとのディスカッションや、実際の事例などを見ていく中で実感したのは、NYのファッションローが非常に実務的だということ。デザイン保護の観点が強い日本とは異なり、NYでは投資を受ける際の契約や労働問題、起用モデルに対する支払いなど、多くの人がさまざまな観点から考えていた。さらには弁護士とデザイナーが一丸となり、デザイン保護のための法律を作ることもあった。そんなNYの企業では、内部にCLO(チーフ・リーガル・オフィサー)と呼ばれる人々がおり、投資対策や交渉、契約などを行っている。僕個人としては、外部としてCLO的な動き方ができればと思い立ち、日本に帰国してから徐々に活動を始めた。
WWD:日本へ帰国した当時はリーガルディレクターのような活動をしている人は少なかった?
小松:確かに少なかったし、それが今、自分が三村小松法律事務所を立ち上げた理由でもある。もし、リーガルディレクター的な活動をする人が100人いたら、日本はもっと面白くなると思っている。自分はファッションやアートが好きで、そういった分野での法的サポートを行っているが、バイオだったり、食品だったりとさまざまな分野で法的なサポートができるリーガルディレクターが生まれれば、競争力は増すはず。そのためには多数のリーガルディレクターを擁する事務所が必要だと考え、 当時所属していた長島・大野・常松法律事務所から独立し、今に至っている。
WWD:法律の観点から見て、ファッション業界で課題に感じることはあるか?
小松:実際にトラブルが起きてからでないと、なかなか相談に来てくれないことだ。トラブル発生後だと、契約書の解釈のみになってしまう。もちろんそういった仕事も重要だが、契約書を作る前段階から相談してくれれば、少なくとも10倍以上はできることがある。われわれとしても、案件が増えていることで、さまざまな事例において比較ができるようになっているし、海外へのシッピングの問題や、トラブルになった際の損害の回避といった部分的な話だけでなく、より包括的な相談に乗れるようになってきている。
WWD:クライアントはどういった企業が多い?
小松:国内のデザイナーズブランドのほか、ヴァーチャルインフルエンサーimmaをマネジメントしているアウ(Aww)など多岐にわたるが、実際のところ自分が担当している全案件のうちファッションを含めたクリエイティブ関連は半分程度、残りはガチガチの企業法務だ。これは若手の育成の際にも言っていることだが、ファッションだけに特化してしまうと、ファッション業界の感覚しか分からなくなってしまう。ビジネス性が強い企業での交渉の感覚を常に持つことで、弁護士的な感覚に偏りがないよう、バランスを取っている。
WWD:ファッション業界では、ある種の直感的思考が重要な場面も多々ある。そういった部分にはどのように対処している?
小松:契約書を作らなくても、せめてメールで文面を残すようにとアドバイスをするなど、業界特有のビジネスの手法は大切にしつつ、どう法律を落とし込むべきかは常に考えている。全てを「法律的にはこう」と決めつけてしまうとブランド側との関係値も崩れてしまうし、クリエイティブ性も失われてしまう。一方で、どこまでがオマージュで、どこからが侵害か?といったことについてブランドと一緒に考え、より良いコレクションを作っていけるのはとても楽しい。うれしいことに、「相談をしたことでやれることが増えた」とブランド側に言ってもらえることもある。
WWD:今後の目標は?
小松:今後5年で日本を世界のファッションローのハブにしたい。世界と比べても、日本ほど産業に寄り添って活動している弁護士は少なく、ファッションローの観点では日本は強い。ただ、海外には現地法があり、国内の弁護士では対応ができない。日本のファッション業界を知っていて、現地で対応ができる弁護士を生むために、現在はパリ弁護士会と提携し、現地の弁護士に研修として日本に来てもらうことなどを考えている。ゆくゆくはロンドンやニューヨークなど、ファッション業界にとって重要な国々との提携も行っていきたいと考えている。国内のブランドたちが世界レベルで勝負していくために、われわれの事務所がハブとなり、世界での法的なサポート体制を整えていくつもりだ。
【推薦理由】
国内大手法律事務所で弁護士として腕を磨き、“ファッションロー”の概念を生み出した教授を擁するフォーダムロースクールを卒業した世界を股にかける弁護士。特に訴訟に強いという定評がある。一方でほかの弁護士と一線を画すのは、ファッションやアートへの造詣の深さ。多くのアート作品を保有し、国内のデザイナーズブランドの作品を着こなす。このような点から、若いアーティストからの相談も多い。今年、独立し代表弁護士として新事務所を設立。さらなる活躍が期待され、法律業界からも注目が集まっている。