ファッション

医学部卒で「盗-TOH-」のデザインも手掛ける異色のデザイナー・陣内良飛 医療×アート×ファッションで提示する“新しい医療”

PROFILE: 陣内良飛/デザイナー、アーティスト、研修医

PROFILE: (じんない・りょうと)2000年神奈川県生まれ。筑波大学医学群医学類卒業。医学を学びながら東京を拠点にデザイナー/アーティストとして活動。Dos Monosや「脳盗」「奇奇怪怪」「盗-TOH-」、アートフェス「BENTEN」などにデザインを提供。24年、全体のデザインを手掛けた「盗-TOH-」がACC CREATIVE AWARDを2部門で受賞。25年にプロジェクト「IGEI(医藝)」を設立し、現代美術、グラフィック、ファッションデザインなどの複合的視点から医療と芸術の融合を企画・実践している。

医学生(3月に卒業し、4月からは研修医)でありデザイナー/アーティストとして活動する陣内良飛による展示「イコ=ル・メディカル・センタ=(=QUAL M=DICAL C=NT=R)」が、3月20日から29日まで原宿のBLOCK HOUSEで開催中だ。

同展は、2025年に陣内が立ち上げた医療・アート・ファッションを横断するプロジェクト「IGEI(医藝)」の一環として行われ、“白衣が存在しなかった世界の病院”をコンセプトにした架空の医療ブランド「イコ=ル・メディカル・センタ=」を軸に構成。シューズ・アーティスト戸田健太とのコラボレーションによる作品や、クリエイティブクルーCLOVEROMとの楽曲・映像作品「Am I Living?」など、医療と芸術をテーマにした作品が展示されている。

陣内良飛とは何者なのか。これまでの経歴から同展の狙いまで展示会場で話を聞いた。

医療とアートの両立

WWD:現役の医学部の学生ということですが?

陣内良⾶(以下、陣内):先日医学部を卒業して、4月からは初期研修医として2年間、病院に勤務する予定です。

WWD:何科に進むか、すでに決めているんですか?

陣内:まだ迷っているんですけど、今は精神科に興味があります。

WWD:医者を目指した理由は?

陣内:父も医者で、家系的な影響が大きいです。一方で高校では学内掲示物のデザインをしたりしていたので、大学進学時に「医療とアートを掛け合わせたい」と考え、芸術系の学部もある筑波大学を志望しました。

WWD:デザインはいつ頃からやられていたんですか?

陣内:父が絵を描いていたのもあって、僕も子どもの頃から絵を描いていました。小学4年生の時にクラスのキャラクターを作る授業があって、そこで自分が考えたキャラクターをみんなが気に入ってくれて。「デザインっておもしろい」と思ったのが、原体験ですね。

それから独学でグラフイックデザインを勉強して、中学3年生の時に、友達のバンドのロゴを作ったり、高校でも友達に頼まれたデザインや、文化祭のポスターや学内の掲示物、学年の文集の表紙とかもデザインもしていました。学内では「デザインといえば陣内」みたいなポジションでした。

インスタから広がる出会い

WWD:医学部に入ってからもデザインの活動は続けていた?

陣内:大学入って、最初はヒップホップダンスをしていたんですけど、2年生になる直前にコロナ禍になってしまって。ダンスもできなくて、家からも出られないって状況だったので、在宅でもきるグラフィックデザインを本格的に始めました。

最初はインスタグラムで作品を投稿していたんですが、全然無名の頃に、今回の展示でもコラボしているクリエイティブチームのCLOVEROMのメンバーからDMをいただいて。すぐに仕事にはつながりませんでしたが、ずっと交流を続けて、ようやく今回の展示でコラボが実現しました。

大きな転機は大学3年生ごろに、アーティストの岸裕真さんのポッドキャスト「本もらった」のグラフィックをやらしてもらったことです。面識はなかったんですけど、インスタのストーリーズでカバーワークを描いてくれる人を募集していて、それに応募したら、採用していただきました。それをTaiTanさんが見て、Dos Monosのグラフィックの依頼が来て……といった感じで広がっていきました。

WWD:そこでTaiTanさんにつながるんですね。

陣内:Dos Monosがシークレットライブの時のフライヤーやグッズをデザインさせてもらって。そこからTaiTanさんつながりで「奇奇怪怪」、「脳盗」、「盗-TOH-」などのデザインもさせていただきました。

特に「盗-TOH-」は24年の最初の企画段階から参加し、ロゴ、会場で掲示されていたグラフィック、フライヤー、ルールブックまでほとんどのデザインを担当しました。これまでで、最も幅広くデザインさせてもらえたし、大きな反響もありました。

「IGEI」の立ち上げと今回の展示

WWD:医学部の勉強とそれを並行してやっていたと。

陣内:そうですね。かなり大変でした。実は6年生で一度留年しているんです。基本的に医学部の学生は6年生になったらバイトをやめて、医師国家試験に向けて1年間勉強するんですが、僕は試験の2カ月前ぐらいまでデザインの仕事をたくさんしていて。それで卒業に必要な単位を取得できず、国家試験を受けることができなくて、留年してしまって。

それをきっかけに、改めて「自分が本当にやるべきことは何だろう」と考え、医療と藝術にちゃんと向き合おうと決めて、25年3月に医療と藝術の融合をテーマにした「IGEI(医藝)」というプロジェクト立ち上げました。

最初はポッドキャストからスタートして、そこで今回コラボをしているシューズ・デザイナーの戸田(健太)さんやCLOVEROM、PERIMETRON の神⼾(雄平)さんなどにゲストに来てもらって、どうやったら、医療とアートを接続できるか、話し合ってきました。今回の展示が、その「IGEI」の初アウトプットです。

WWD:戸田さんはどこで知り合ったんですか?

陣内:昨年、TaiTanさんがオーディオブランドの「シュア(SHURE)」とスニーカーを制作した時に、展示会場で初めて会いました。共通の知人も多く、社会とクリエイティブを結びつける視点に共感して、ポッドキャストの出演を経て、今回のコラボに至る、という流れです。

WWD:今回の展示「イコ=ル・メディカル・センタ=」のコンセプトは?

陣内:医者が白衣を着るのは現在では当たり前ですが、19世紀以前は黒い服が主流でした。白衣はクリーンイメージがある一方で割と人を寄せつけない感じもある。黒っていろんな色が混ざっていて、自分にとっては落ち着くし、好きな色なんです。だから、「もしも⽩⾐が誕⽣しないまま、医者の服が黒かったら、また新しい概念が立ち上がるんじゃないか」というのが、今回のコンセプトの大枠です。

WWD:展示では医療とアートにファッションも掛け合わせています。

陣内:「IGEI」は当初から医療×アート×ファッションを掲げています。アートは鑑賞で完結しがちですが、ファッションは着ることで日常に入り込む。友達と会って、「その服どこの?」みたいな会話が生まれたりもする。ある意味で、服を着る人がアーティストになっている。消費者をパフォーマーとして再定義できるのが、ファッションの良さだと思っていて、今回はそれを医療やアートと結びつけています。

WWD:もともとファッションには興味はあった?

陣内:中学生の時に、母親に「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」の服を見せられて、何十年も変わらずにこんなかっこよくて、しかも黒の服ばかり作っているのは、すごくアートだなと思って、そこから好きになりました。あと、Sleepy Boy(DAI TANAKA)さんのファッションブランドで2、3年デザイナーとして関わっていた経験も活かされています。

「意味のない慣習をどう更新できるか」

WWD:展示ではどの作品から考えたんですか?

陣内:このパーカーやバッグにもなる変形スクラブです。ここ数年、衣服をグラフィックデザイン的に解釈しようとしていて、「スクラブがなぜ医者らしく見えるのか」って考えたら、理由もなくVネックになっているところと、半袖かなと思って。それで袖やフードをつけたら、医者に見えなくなるんじゃないかと考えました。そこから展示全体として、医療業界の固定観念を変えるをテーマに作品を作っていきました。

WWD:Vネックは脱ぎやすいからとか、そういう理由ではなかったんですね。

陣内:そういう後付けみたいなことはいくらでも言えるんですけど、確かな理由ってなくて。医療業界には「なんとなく続いている」慣習が多く存在します。例えば、看護師の靴は白オンリーとか、上の服も白かピンクしかダメだとか。そうした意味のない慣習をどう更新できるかに、挑戦しました。

WWD:戸田さんとの作品にはどういった意図が込められている?

陣内:「FRA-MED(フレームド)」を共通タイトルにして、2人で作品を考えました。今作では医療の残酷さを過剰に表現できないかをテーマにして。例えば患者は医者が与えられた薬を飲みますが、それにはガイドラインがあって、その指示通りに出している。そのガイドラインは医学会の上の人が作っていて、その決定には政治的なものもあるかもしれない。そうしていろんな慣習が作られていて、システムによって人の生死とか身体が規定されてるっていうのは、すごく怖いなと思って。

それを作品でどう表現するかと思った時に、ギプスが思いつきました。今回はハイヒールをベースに、そこにギプスを巻いて。靴は本来足を守るのが目的ですが、ハイヒールは装飾性を優先してった結果、(履いていると)指が変形してしまったりする。そういった守るべきものが、逆に悪くしてしまうというのを、戸田さんの作品と僕のポスターで表現しました。

WWD:モニターに流れている映像作品はCLOVEROMとコラボした作品ですね。

陣内:「Am I Living?」という作品です。これは入院中に発症することがあるせん妄をテーマにしました。その発症要因の1つと言われているのが、病院のツブツブ模様の天井なんです。これを見てると、虫とか人の顔に見えたり、模様が動き出したりするみたいで。せん妄って防ぎようがない病気らしく、だけど、一般的にあまり知られてないと思ったので、どうにかこれをアートで表現できないかなと考えました。

この映像は病院の天井の模様が次第に歪んで見える現象を、CLOVEROMのYuuki Matsuuraくんというアニメーターが作ってくれていて。音は救急専⾨医かつDJのFUTURE が、病院の環境⾳を再現・サンプリングしていて。それをCLOVEROM のPALMYRAというプロデューサーがビートにして、TIVEくんがラップをのっけてくれた作品です。

ブランド「イコ=ル・メディカル・センタ=」の始動

WWD:このフィギュアのような作品は?

陣内:これは今回の展示に合わせてローンチするブランド「イコ=ル・メディカル・センタ=」のロゴをキャラクター化したものです。再生停止ボタンを模して、それを90度傾けて、「=(イコール)」にしています。

もともと「IGEI」のロゴが再生停止ボタンと巻き戻しボタンを組み合わせたもので。「医療は未来に進むこと」とよく言われるけど、前に進むだけでなく、立ち止まったり、少し戻ったりすることも「未来に進むこと」につながるのでは、と考えてそのロゴにしました。


「イコ=ル・メディカル・センタ=」のロゴはそこから派生させています。再生停止ボタンを90度傾けると「=(イコール)」になる。医療や医者と患者や病院以外の人を全部つなぐという思いを込めて、この「=」のロゴにしました。

WWD:全部がちゃんとつながっているんですね。

陣内:ヒップホップが好きなので、そうした連想ゲームをベースにデザインも考えています。

WWD:そして、今回その「イコ=ル・メディカル・センタ=」から販売されるTシャツとスクラブ。

陣内:先ほどのファッションの話につながるんですけど、例えばこのスクラブやTシャツを着て病院に行くと、看護師と病人が同じ服を着ていることがあり得る。医療にしても、クリエイティブにしても、最初に思ったのが「事実が一番強い」。実際にどういうものが存在してるかってことがめっちゃ重要だと思ったんです。それで病院と病院以外の人が同じ服を着ているっていう事実をつくろうと思って、まずはTシャツとスクラブを販売します。

WWD:バックの「CR=W(クルー)」という文字にもその想いが込められている?

陣内:そうですね。Eを=に変えて、「CR=W」にするとブランドの意図をこれだけで表現できるので、いいなと思って。

WWD:アパレルはオンラインでの販売も考えている?

陣内:基本的にはギャラリーで展示を見て、コンセプトを理解してから着てもらいたいと思うので、当分はしないつもりです。

ヴァージル・アブローからの影響

WWD:陣内さんの活動について周りの医学生の反応は?

陣内:みんな応援してくれています。以前にスクラブを作って学内で販売したんですけど、学年の3分の1ほどが購入してくれて。みんなコンセプトを理解してくれて応援してくれるんですよね。今回のビジュアルを撮影してくれたのも医学部の同級生で、そういう人たちとは今後も関われたらいいなと思っています。

WWD:さまざまな領域で活動する陣内さんが一番影響を受けた人は誰ですか?

陣内:1人挙げるなら間違いなくヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)ですね。本当に尊敬しています。彼がやっていたのは既存のコラボレーションの概念をアナザーレベルまで持っていった。何なら世界平和とかにもつながる力があったなと思っていて。少しでもそこに近づけたらいいなと思っています。

WWD:医療の世界は外からだと全然分からなかったですが、今回陣内さんの話を聞いて、少しだけ理解できました。

陣内:医療の世界は特に、明確な理由があるわけでもないのに閉鎖的で、そのせいでとっつきづらくなっているんだと思います。例えばアートでも医療をテーマにした作品は多いですが、実際には今使われていない治療法や検査器具が用いられていることもあって、専門的に見ると違和感を覚えることがあります。もちろん多くの人は気にならないと思いますが、こうしたズレが生まれるのも医療が閉じているからだと思うんです。

もっと医療が開かれていれば、現実に基づいた深い表現ができるはずですし、逆に医療の側にもアートが入り込める余地があるはずです。いわゆるホスピタルアートも、現状は「花を描く」といった表層的なものにとどまっている印象で、もっとできることがある。その両者をつなげていきたいと思っています。

WWD:医療業界にいると、やはり独特の問題も見えてきますか?

陣内:たくさんあります。ただ、多くが「仕方ない」で済まされてしまっているのが現状です。例えば病院の空間が無機質すぎること。入院患者にとって病院は生活の場で、1年近く過ごす人もいるのに、白一色の空間で同じ服装の人たちに囲まれて過ごすのは、精神的にもきついと思うんです。娯楽もほとんどなく、せいぜい院内のコンビニに行くくらい。でもそうした環境を積極的に改善しようという動きは少ない。そもそも閉鎖的で外の視点が入りにくいという問題があるので、まずはそうした課題を外に開いていきたい。ただ問題提起だけでは意味がないので、それをクリエイティブに昇華していくことが重要だと思っています。

WWD:4月から研修医として勤務されますが、「IGEI」の活動は続けていく?

陣内:医療とデザイン、どちらかだけだと意味がないと思っているので、活動は続けて行きます。今回のようにポッドキャストにゲストで来てくれた人と作品を作っていくのは変わらず続けていくつもりです。

ブランドとしては、最初に紹介した変形スクラブをベースにしたパーカーは何らかの形でリリースしようと思っていて。あと、今回はまだ作れていないんですが、パンツなどもいずれは作りたいと思っています。

PHOTOS:TAMEKI OSHIRO

展示概要

◾️「=QUAL M=DICAL C=NT=R(イコ=ル・メディカル・センタ=)」
会期:2026年3月20〜29日
時間:13:00〜20:00
会場:BLOCK HOUSE 4F
住所:東京都渋谷区神宮前6-12-9
入場:無料
https://www.instagram.com/igei_official/

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