
ファスナーの巨人YKKが、新タイプのファスナー開発に力を入れている。昨年4月に米国シリコンバレーに新部門「グローバル・プロダクト・イノベーションセンター(GPIC)」を設立し、周辺のスタートアップ企業や大学と連携し、全く新しいタイプのファスナー開発に着手しているほか、アパレル以外の企業とのパートナーシップを組む。YKKは主力のアパレル・雑貨向けファスナーの世界シェアが高く、カジュアルからスポーツ、ラグジュアリーまで幅広いカテゴリと分野で圧倒的な強さを誇るが、ここ数年はコロナ禍や米国発の地政学的リスクに翻弄されてきた。松嶋耕一社長は「米国とイスラエルのイラン攻撃などで地政学リスクは連鎖的に拡大している。新規分野の開拓や需要想像に本腰を入れることで、収益基盤を安定させたい」。
YKKは25年からスタートした4カ年の中期経営計画で「ワクワクする商品開発」を掲げており、昨年から相次いで新タイプのファスナーを開発している。昨年12月にはドイツの国際的なスポーツ・アウトドア用品の見本市「ISPO」でオンデマンドの3Dプリンターで製造した引き手でベストプロダクト賞を受賞。今年1月には世界最大の家電見本市「CES」に出展し、自走式のファスナーを提案した。今年12月には、靴用の紐を結ぶ必要のないアジャスターと新構造の軽量スナップの開発完了を予定している。
シリコンバレーのGPICは短期・長期で様々なアイデアの具現化に取り組んでおり、シューズやインテリア向けのアジャスターから、人型ロボットのウエア用ファスナーなどの開発にも取り組む。「今はいろいろな可能性を探っている。アパレル業界の外のスタートアップや研究機関とパートナーシップを組むことで、イノベーションを実現したい」(松嶋社長)と意気込む。
革新的な新型ファスナー生産機の開発に着手
こうしたイノベーションを支えるべく、DXを通じ、開発・生産体制の抜本的な改革にも着手する。4月1日付でデジタル業務推進部と情報システム部を統合し、デジタル本部を新設。本部長には、デジタル業務推進部でビジネスモデルの刷新や業務改革プロジェクトをリードしてきた恒田隆一氏が就任し、恒田氏は上席常務執行役員に昇格する。
YKKは世界70カ国に拠点があるうえ、取引先もラグジュアリーブランドからスポーツウエア、SPA、ウルトラファストファッションブランドまで幅広く、業務フローやビジネスモデルが混在化していた。この数年で地域でバラバラだった商品コードを全世界で統一。業務オペレーションの標準化にも取り組んできた。デジタル本部を立ち上げることで、デジタル化の進むアパレルサプライチェーンに対応する。
また、スマートファクトリーや革新的なファスナー生産機械の開発も加速する。YKKはファスナーの製造機械から富山県黒部市の本社工場で開発・生産し、世界中の自社ファスナー工場に供給してきた。黒部工場内にはテスト的に「24時間365日無停止・無人化」を掲げた小規模な生産ラインを作っており、検証を重ねたあとに他のエリアにも適用していく考え。
ファスナー生産の機械はこれまでサイズごとに分かれていたが、複数のサイズのファスナーを生産できる新型のファスナー生産機械も28年度中に開発する計画だ。
25年度は減収減益 トランプ関税により主要地域でアパレル需要が冷え込む
2026年3月期は、売上高が前期比1.2%減の4277億円、営業利益が同10.7%減の424億円、ファスナー販売本数は同2.8%減の97.5億本の見通し。「昨年4月に発効した米国の相互関税の影響で、とくに上期が大きな影響を受けた。下期に向けて回復基調にあったものの、イラン攻撃で再び不透明な情勢になっている」と松嶋社長。期初に803億円を予定していた設備投資も、最終的には554億円にとどまった。
27年3月期は、売上高が前期比9.0%増の4664億円、営業利益が同26.1%増の535億円、ファスナー販売数量は103.3億本を見込む。設備投資は全世界で880億円。内訳はISAMEA(南アジア・中東・アフリカ)・ASEAN・中国で623億円、日本/アメリカ全域/欧州で246億円になる。