ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)による2シーズン目の「ディオール(DIOR)」のウィメンズ・コレクションは、太陽の光をいっぱいに浴びた花々のようだった。会場は、パリ市内で最古のチュイルリー庭園。「ディオール」は、この公園の修復・保存に関するパートナーシップ契約を締結して以降、2020年からここを会場にウィメンズのプレタポルテ・コレクションを発表している。普段は池の上に床を敷き、特設のテントを立てているが、今回は八角形の池を縦断、そして取り囲むようにランウエイを設け、全体をガラスで覆った。幸い好天と季節外れの暖かさに恵まれて会場は汗ばむほどだったが、陽の光が燦々と降り注ぐ空間は、やはり幸せを感じる心地よいものだ。ショーのインビテーションは、2脚の椅子。これは、人々が交流したり、自然を愛でたりするために腰掛ける、実際チュイルリー庭園に数多く設置された、ごくごく普通のものだ。対話という双方向の交流を増やしながら、庭園を訪れるパリジャン・パリジェンヌ同様に自然を愛でたムッシュ・ディオールが生み出したメゾンに、ありふれた普通の日々でも楽しめるカジュアル性を加えることでメゾンを進化させていこうという、現職就任以来変わらないジョナサンの思いが伺える。彼は、「自然光の下でも成り立つ洋服が作りたかった」と話した。
コレクションは、1カ月前に発表した26年春夏オートクチュール・コレクションを「自然光の下でも成り立つ」よう、カジュアルダウンしたムードが強い。
ジョナサン・アンダーソン初の「ディオール」クチュールは、メンズ&ウィメンズのプレタと接続
追放されていたジョン・ガリアーノへの敬意も
ジョナサン初のオートクチュール・コレクションでは、上述の通りクリスチャン・ディオール(Christian DIor)の花を愛する姿勢、そしてかつて「ディオール」のトップを務めたジョン・ガリアーノ(John Galliano)から贈られたシクラメンの花束などにインスピレーションを得て、プリーツとラッフルで作ったラッパスイセンのようなドレスを筆頭に、生地をタッキングしたりノッティングしたりで花や花弁を思わせるシルエットに仕上げたドレスを見せたが、今回はそれをミニ丈にしたり、デニムと合わせたりでカジュアルダウンして「自然光の下でも成り立つ洋服」に仕上げている。クチュールでも登場した螺旋状の構造の上に生地を這わせたドレスはさらに改良を加えて、造形物としてのアートから着用できるファッションの世界にスライドしてきた印象。アクセサリーも、クチュールコレクション同様、花々に覆われた。クチュールで登場した陶磁器などに着想源を得たのだろうピーナツのような形状のバッグもある。
ムッシュ・ディオールが生み出した名作はおろか、それ以前のフランスの貴族服も再解釈することで、「ディオール」はもちろん、パリにおけるファッションという文化であり産業を守っていこうという意欲も変わらない。引き続き18世紀のドレスやフロックコート、ペプラムジャケットやバッスル入りのスカートなどを提案。ただいずれも、やはり快活なミニ丈にしたり、例えばペプラムジャケットはカーディガンのようにニット素材で仕上げたりすることで歴史を現代にアップデートした。デニムに施した波打つ飾り刺しゅうは、スカラップドヘムのシャンティレースやチュールで作ったドレスのエッセンスを現代女性のみならず、男性に向けても提案したものだろう。ドレスのドレープを楽しみたいなら、連打した楊柳パンツがオススメだ。ジョナサンが生まれ育った英国を思わせる千鳥格子をプリントしたタイプもある。“ニュールック”や“デルフト”など、ムッシュ・ディオールが生み出したシルエットも健在だ。ただ“バージャケット”は今期、ツイードよりもさらに柔らかな起毛素材で作り、ハイウエストの位置で括れる超コンパクト丈に。ジョナサンは、「昔は、『このジャケットがあれば、10年は安泰』という時代だったかもしれないが、今は違う。今は絶えず手を動かし続けなければ」と話し、ファースト・コレクションで見た洋服の数々も全て、改良やアップデートを試みた経緯を説明した。
上の記事でも書いたが、メンズのショーから6週間、クチュールから約1カ月、そしてウィメンズ、2カ月後にはロサンゼルスで27年クルーズ・コレクションを発表するという超過密スケジュールだ。ここに「JW アンダーソン(JW ANDERSON)」や「ユニクロ(UNIQLO)」とのコラボレーションまであるのだから激務は想像に難くない。しかし、今回のようにクチュールとプレタポルテの世界を自由に行き来しつつ、1つのアイデアを1回で使い捨てない元来の精神も変わっていない。激務であることは間違いないが、彼ならできないことではないのかもしれないという感覚は、完成度の高いコレクションを見る経験を重ねるたび、強くなっている。