PROFILE: ゆりやんレトリィバァ/芸人、アーティスト、俳優
芸人、俳優、アーティストのゆりやんレトリィバァが映画監督デビューを果たした。その映画「禍禍女」(マガマガオンナ)は、恋愛ホラー。好きになった男たちに付きまとい、その命を不条理に奪っていく禍禍女と、好きな男子を禍禍女に殺されてしまった美大生・早苗の対決を描く。南沙良のリミッターをはずした怪演により、早苗は映画史上前代未聞のキャラクターとなり、南は新境地を開拓した。デビュー作でこの偉業を成し遂げつつ、ホラー映画としてのツボを押さえつつ、結果的に作家性が滲み出るデビュー作を完成させたゆりやんレトリィバァ。一生に一度しかない初監督作について話を聞いた。
初めての映画監督
——映画を撮りたいと思ったきっかけからお聞きしたいです。
ゆりやんレトリィバァ(以下、ゆりやん):小学生の頃に「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を見て、マイケル・J・フォックスを好きになって、「マイケル・J・フォックス=英語」「英語=アメリカ」「アメリカ=映画」みたいな感じで映画を好きになったことがきっかけです。「いつか映画の世界で働きたい」と思っていました。
——「監督になりたい」と思ったわけではなかったんですね。
ゆりやん:監督という仕事がどういう仕事か分かってなくて(笑)。5年前くらいにテレビのインタビュー(※2021年9月放送「ボクらの時代」)で「次やりたいこと」を聞いてもらったときに、「映画にたずさわらせてもらうんだったら監督がいいなー」くらいの感じで「映画監督」と言ったら、「禍禍女」の高橋(大典)プロデューサーから連絡をいただきました。
——撮りたい題材やテーマ、ジャンルみたいなものはありましたか?
ゆりやん:なかったです。ホラー映画が好きだというのはもちろんあったんですけど、撮りたいものは具体的には全くなくて。高橋さんにお会いして「どんな映画にしましょうか」といろいろ話す中で、自分の過去の恋バナをしゃべっていたら、高橋さんが「それはホラーです」と。そこから「恋愛ホラーのスタイルにしていきましょう」となりました。
——どんなホラー映画が好きでしたか?
ゆりやん:子供の時に「学校の怪談」を見て、そこから「怖いもの見たさ」みたいな感じで「怖いもの」が全体的に好きだったんですけど、正直「Jホラー」は苦手というか……。本当に呪われそうな怖さなので、見るのに勇気がいりました。どちらかというと「ミザリー」とか「シャイニング」とか、人がちょっとおかしくなっていく「ヒトコワ系」の映画が大好きでした。
——「禍禍女」の前半は「学校の階段」やJホラーのスタイルを踏襲し、禍禍女という幽霊に呪われる男たちのエピソードが描かれます。そして、その中の一編に登場する早苗(南沙良)が徐々にミザリー化していき、禍禍女と対決します。どのようにしてこの構成になったのでしょうか。
ゆりやん:自分の恋バナをもとに、「禍禍女に好きになられたら終わり」というところからお話を広げていって、その中に自分の好きな要素をふんだんに盛り込ませていただきました。(早苗と禍禍女の対決に関しては)高橋さんと内藤さん(※脚本の内藤瑛亮)と3人で話していく中で、「幽霊のストーカーと人間のストーカーを対決させたら面白いよね」となって、そういう展開になりました。
——普通のホラー映画の主人公は、人としての真っ当さや先人たちの知恵で幽霊を退治していくものですが、早苗は既存の映画には存在しない強烈なキャラクターでした。
ゆりやん:全ての登場人物を変な感じにしたかったのと、誰も可哀想な人がいないのがいいなって思っていたんです。早苗という人は、私もそうなんですけど、恋愛経験がないから、好きな気持ちを相手にアピールする表現方法を知らないんです。自分の「好き」という気持ちに正直に、人の都合を考えず、暴走してしまう。それが正しいと思っているので、ある意味ピュアではあります。でも、誰よりも禍禍女が一番ピュア。結局全員ピュアなのかも(笑)。
——ゆりやんさんご自身の恋愛経験をさらけ出すことに恥ずかしさはなかったですか?
ゆりやん:さすがにありました。実は自分の中で「これより先はさらせない」というボーダーラインがあったんです。それがNetflixで「極悪女王」という作品に出させてもらったことで、そのラインを超えられました。「自分とはなにか」みたいなところで、さらに自分を正直に見せられるようになって、前よりも自然に生きている感じがします。
キャスティングについて
——キャスティングに関してはどのように関わりましたか?
ゆりやん:キャスティングの会議に最初から入らせてもらいました。南沙良さんは高橋さんからお名前が出て、「ぜひやっていただきたいです」ということで、満場一致で決まりました。斎藤工さんに関しては、自分が斎藤工さんに興味を持っていたけれど振り向いてくれないから、映画の中で大変な目に遭ってもらおうと思って霊能者役をお願いしました。
——だから他の男性キャラクターとは違う、ある種の特別扱いをしたのですね(笑)。禍禍女に呪われる男性キャラクターの一人、明人役を九条ジョーさんが演じています。禍禍女に取り憑かれた男性はみんな目を吸われて死んでしまうのに、明人だけ死なせてもらえない。生き恥晒しのパターンを作ったのはなぜでしょう。
ゆりやん:生き恥晒し!(笑)。目を吸われて命を取られるというのも嫌だけど、“自分ではなくなった状態”で生かされ続けるのも復讐の一個ではあるよなと思ったんです。
——九条さんに対してなにか思うところがあったのかな、と勘繰ってしまいました。
ゆりやん:九条くんに対しては、プライベートの恨みはないです(笑)。なんだったら楽屋で恋バナを聞いてもらったり、いい関係の同期であり友達です。
リミッターを外した南沙良の演技
——この作品で南さんはリミッターを外し、殻を破っていました。それこそがゆりやんさんの監督としての功績の一つだと思うのですが。
ゆりやん:ありがとうございます。早苗という役は、それこそ「恥ずかしい」気持ちとかあったらできないですし、沙良さんにはいろいろ要求することが多い撮影になると思ったんですね。女優さんに「恥ずかしがらないでください」なんて言うのはもちろん失礼なんですけど、こちらが遠慮していたら絶対にうまくいかないし、思いっ切りやってほしいから、私も「思うことをちゃんと言おう」と。「違う」と思ったらしっかり「違う」と言いましたし、「なぜ違うのか」も言いました。
そんな中で、どうすれば沙良さんと私がやりやすくなるかも話し合いました。特にミュージカルのシーンでは、振り付けではない動きがあるので、私としては、沙良さんが考える早苗のミュージカルをしてほしかったんです。自分が想像しなかったところを見れたら嬉しいなと思ったので、「私(お手本を)やらへんからとりあえずやってください」という感じでやってたんです。でも、ミュージカルに限らず、早苗としての表現方法を話し合った中で、私が1回やってから、沙良さんがやるのが、2人の中では一番やりやすいということになりました。
——ミュージカルシーンの南さん、すごかったです。動きも、表情も、感情の爆発のさせかたも。お手本の存在を感じなかったです。
ゆりやん:うれしいです! 私がやると普通に踊ってるだけに見えるけど、沙良さんがやることで早苗の踊り慣れていない生々しさが出て、そこが面白かったなって思います。
——ご自身が「極悪女王」でボーダーラインを超える経験をしたから、南さんにも振り切ってほしいと思ったのでしょうか。
ゆりやん:そう思います。振り切った先にあるものが見えるのって最高じゃないですか。「禍禍女」も、見てくれる人にびっくりしてもらえるような映画にしたいから、そのためにどうやっていったらいいのかを2人で擦り合わせていきました。
——今回、監督に専念されていますが、出演もするという話はありましたか?
ゆりやん:ありました。早苗さんを誰にやってもらうかまだ決まってないときに、自分の想いがのっているキャラクターではあるので、「クリント・イーストウッドもしてるから、自分も(監督と主演を)やってみたいなー」と言ってみたら、プロデューサーさんから「早苗は南沙良さんにやってもらいたい」と言われてしまいました(笑)。
——禍禍女というキャラクターにもゆりやんさんの想いがのっていると感じるのですが。「禍禍女は私です」というコメントもされていましたし。
ゆりやん:そうです。禍禍女のもとになっているのは私です。私、高校生のときに好きな先輩Aさんがいて、その人はいつも男子3人組でいたんです。私は「Aさんのことが好きです」と言って、学校中走り回って追いかけて。Aさんに振り向いてもらえなかったから、次は3人組の一人、先輩Bさんを追いかけたんです。誰でもよかったわけじゃなくて、たまたまBさんもかっこよかったんです。Aさんの次にBさんを追いかけたので、もう一人の先輩Cさんが「次、俺のこと好きになるんじゃないか」「(私に)好きになられたら終わりだ」と怖がってたんです。なにが終わるのか分からないですけど(笑)。
「ゆりやん印」の美術
——「眼球」を重要なモチーフとしたのはなぜでしょうか。
ゆりやん:宏(前田旺志郎)が殺されるときに、禍禍女が上から迫ってくるカットがあるんですけど、禍禍女に好かれた人にだけ、ああいう感じで禍禍女が見えているんです。禍禍女が眼球を吸い取って殺すのは、自分に振り向いてくれない人が最期に見たものを自分にして、忘れさせないためです。
——なるほど……! 眼球のない死体の造形に、王道のホラーを感じました。その一方で、ゆりやんさんが今までに発信してきたポップ&キッチュな要素もビジュアルに生かされています。美術チームとはどのようにやりとりしましたか?
ゆりやん:大まかにバーンとイメージを伝えるというよりは、「早苗のアトリエはどんな感じですか」と聞かれて、「時計じかけのオレンジ」の白いマネキンがたくさん出てくる場面が好きだったので、それをイメージとして伝えました。あとは「好きな人をモデルにした作品がいっぱいあったら気持ち悪いですよね」「早苗は実はこういうところで作品を作ってたんだっていうのが見えたときにゾッとする感じでいろいろ置いてほしいです」と伝えたら、いろいろやってくださいました。アトリエにあるでっかい「口肛門」は、「早苗のミュージカルが終わったあとにそのシーンを終わらせるなにかがほしいよね」という話になって、「監督、なにかありますか?」と言われたときに、黙っちゃったら「ビジョンない奴」みたいになるので、口から出まかせで、「でっかい宏の顔があって、その口が肛門みたいになってて、そこから早苗が出入りするってどうですか?」と言ったら、みんなが「それだ!」となりました(笑)。
——いいチームですね(笑)。
ゆりやん:口から出まかせで言ったことが、プロデューサーさんからは「ゆりやん印」みたいな感じで言ってもらいました(笑)。肛門の質感、大きさ、雰囲気を細かく聞いてくださって、それを実現してくださいました。
「自分に問いかけるのが意外と難しかった」
——今回、監督業を初めて経験して、大変だったことや苦労したことというと? 作品資料によると「たくさん怒られた」そうですが。
ゆりやん:めっちゃ怒られました。メイキングに残ってると思うんですけど、プロデューサーを睨んだりしてました(笑)。自分の台本に「ここのシーンはこう撮る」とか書き込んでるんですけど、「私に言われても知らん!」とかも書いてます(笑)。チームで同じ方向を向いている中で、より良くするための話し合いとかぶつかり合いとかがあるのは普通のことなんですけど、その中で自分の意見を通すということは勇気がいることやけど必要なこともでもあるんですよね。なにかを判断するときに、自分がなにをしたらいいのか、自分はなにが好きなのか、自分はなにがいいと思ってるかということを自分に問いかけるのが意外と難しかったです。よく考えたらやったことがなかったので。一人で生きている分には、(自分自身に)そこまで聞く必要がないので。
——ピン芸とチームワークの違いですね。
ゆりやん:はい。いろんな意味で自分の訓練になりました。
——芸人としての経験は、監督業に活かせましたか?
ゆりやん:とても活かせました。白石和彌監督にいただいたコメントで、「映画の中で、起きていることに対してつっこませていないところが映画的だった」と言ってくださったんです。わけわからんことが起きてても、映画の中で「なにしてんだ!」とキャラクターに言わせずに、お客さんに「なにしてんねやろ?」と思ってもらえるようにしているところが、「映画って実はそうなんだよ」というのを教えてくださいました。私はピン芸人なので、ネタの中でやったことに対してお客さんが「なにやってんねん」と、つっこんでくれるようなことをするのが好きなんです。
——私もいつもツッコミを入れながらネタを拝見しています。
ゆりやん:ありがとうございます。なので、やっている最中は気づかなかったんですけど、「映画って実はピンネタと似てたんかあ」と後から思いました。無駄に長い「間」も。私しつこいのが好きなので、「これ、ここで止めたくなるけど、もうちょっといったら面白くなってくる」という「間」も、怖がらずに使えたかなと思います。
——監督業の面白さは感じましたか?
ゆりやん:はい。楽しかったです! 一個のアイデアをみんなで広げていって、各プロフェッショナルの方が真剣に一個一個粘土みたいに作り上げていくとこうなるのか、という感動がありました。いろんな想いを乗せて、瞑想しているような感覚というか。もちろん皆さんの想いもいっぱい乗ってるんですけど、自分に向き合って判断していくことが、難しいことではあったんですけど、自分を研ぎ澄ましていくような作業だったので、なんだか生まれ変わったような気持ちです。
——クリアになった。
ゆりやん:クリアになりました。好き嫌いがはっきりして、めっちゃお嬢様になっちゃった!
——お嬢様(笑)。ゆりやんさんにとって監督業のお手本は白石和彌監督ですか?
ゆりやん:はい。和彌監督に「師匠と呼んでいいですか?」と聞いたら「いいですよ」と言ってくれました。「極悪女王」に俳優として出させてもらった時は、和彌監督と茂木(克仁)監督のことが大好きだから、「監督がいいと思っているものにしたい」という思いで挑むことができたんです。だから私も、テクニカルなことは分からないんですけど、出てくれる俳優さんにとってそういう監督でありたいという意味での師匠です。あとは、「よーい、スタート!」「カット!」「オッケー!」の言い方は、和彌監督インスパイアでやってます。
——「極悪女王」の経験が大きかったんですね。
ゆりやん:めっちゃ大きかったです。
卒業論文は「スタンリー・キューブリック」
——「禍禍女」が完成したことで、自分の中の禍禍女が成仏した実感はありますか?
ゆりやん:めっちゃあります。「禍禍女」は、私のことを振ってきた男性に、いかにあんたたちが間違っていたかということを分からせるために作った復讐映画なんですけど、出来た映画を見たら「あ〜! 全部私が悪かったんだ!」と思いました。
——セラピーのようです。
ゆりやん:禍々しいものを詰め込んで心がスッキリしました。本当に浄化された気持ちです。
——一方で、ガールズ・エンパワーメント映画でもあります。
ゆりやん:そういうふうに思ってもらえたらうれしいです。ただの自分の復讐映画なのに、ガールズ・エンパワーメント映画と言ってもらえたら、それにこしたことはないです(笑)。
——今回のこの映画制作を経験して、アーティスト・表現者としての、今後の展望をお聞きしたいです。
ゆりやん:自分をさらけ出すことで「自分とはなにか」を知ることができたので、もっと自分に正直に、自分の感覚を大切にしたいなと思います。「好き」とか「いいな」とか「こうなりたい」ということに正直に生きていきたいし、もしもまだ映画の世界で生きていいなら、監督として生きていきたいです。
——次の作品の構想はありますか?
ゆりやん:「国宝2」です。
——楽しみです(笑)。ゆりやんさんが影響を受けた映画監督は?
ゆりやん:大学の文学部で映画を研究・専攻していて、卒業論文をスタンリー・キューブリック監督で書きました。あの世界の気味の悪さ、狂った感じ、暴力的なところでクラシックが流れる違和感やギャップが好きだったので、もしかしたら「禍禍女」でもそういうのが出てるかもしれないなと思います。
——今回監督に挑戦し、肩書きが増えました。
ゆりやん:これからもいろいろやりたいです。空手の選手にもなりたいし、ダンサーにもなりたいし。空手はまだ1回もやったことないんですけど、ダンスは今週から習い始めました。
——アーティストとしてはご自分で作詞を手がけたシングルを3曲リリースしています。
ゆりやん:「禍禍女」の音楽を作ってくれたyonkeyさんがずっと私の曲を作ってくださっているので、yonkeyさんが「いいよ」と言ってくれるなら、これからもやらせてもらいたいです。
——アーティスト活動にはyonkeyさんが必要なんですね。
ゆりやん:はい。イッキーでもニキーでもサンキーでもなくて。
——ヨンキー(笑)。ハリウッドスターも目指しつつ。
ゆりやん:当たり前のようにハリウッドのど真ん中にいる人間になりたいです。物理的にではなくて、エンタメの。
——LAで生活してみて、ハリウッドに入る余地は感じますか?
ゆりやん:全然あります。みんな意外と近いし「普通の人なんや」って。「昨日ここにアンジェリーナ・ジョリー来てたらしい!」とか「スーパーでハル・ベリーに会った」とか「アダム・サンドラーと車ですれ違った」とか。「めっちゃ普通にみんなここにおるんや」と思ったら、「(ハリウッドスターになるの)全然余裕ちゃうん?」と思ってます(笑)。
PHOTOS:TAKAHIRO OTSUJI
映画「禍禍女」
◾️映画「禍禍女」
2月6日から全国公開中
出演:南沙良
前田旺志郎 アオイヤマダ 髙石あかり 九条ジョー 鈴木福
前原瑞樹 平田敦子 平原テツ
斎藤工 田中麗奈
監督:ゆりやんレトリィバァ
脚本:内藤瑛亮
音楽:yonkey
製作:紀伊宗之
企画・プロデュース:高橋大典
製作・配給:K2 Pictures
共同製作:吉本興業
制作プロダクション・共同製作:エピスコープ
©2026 K2P
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