アトモスの創業者・本明秀文さんの独自の目線と経験から、商売のヒントを探る連載。米スポーツ小売り大手ディックス・スポーティング・グッズ(以下、ディックス)が、フットロッカーを約24億ドル(約3500億円)で買収すると発表した。取引の完了は、2025年後半を予定しているという。アトモスを21年にフットロッカーへ売却した当事者であり、現場を知る本明さんは、この一連の流れについて「アメリカの弱肉強食の世界を痛感する」と語る。ファッション業界はなぜ今、M&Aに走るのか?(この記事は「WWDJAPAN」2025年6月2日号からの抜粋です)
──ディックスがアトモスの親会社であるフットロッカーを買収すると発表しました。
本明秀文(以下、本明):僕が意見を言える立場ではないから事実だけ言うと、ディックスがフットロッカーの買収を発表して、フットロッカーの株価は12ドルから23ドル近くまで上昇した。その金額でTOB(株式公開買付け)を実施するという話だから、約80%のプレミアムということになる。僕がアトモスを売却した2021年当時は、フットロッカーの株価は60ドル台だった。当時の時価総額は約80億ドル(現在の為替レートでは1兆円弱)、今はだいたい10億~15億ドルぐらいまで下がっている。スニーカー業界全体が低調なんだよね。
──なぜ、業界全体が不調でも買収するんでしょう?
本明:ディックスとフットロッカーはどちらもアメリカ拠点の会社。仮に両社にディビジョンマネジャーがそれぞれ100人いたとして、統合すれば150人で済む。つまり50人削減できる。次にバイイングパワー。例えば両社が「ナイキ」の商品をそれぞれ100億円分仕入れていたとする。統合すれば200億円規模での交渉となるから、10%値引きできたらそれだけで20億円のコストカットにつながる。取り扱いブランドも似ていて相関性が高いから、シナジーが出やすい。あと注目すべきは株価の動き。例えば、日本で今一番アパレルブランドを買っているのはyutoriでしょ。上場企業だから売上高を継続的に伸ばして、株主に対して説明責任を果たさないといけない。以前は主力の「9090」が売り上げの半分を占めていたけど、今は落ちてきている。だから、その分を他ブランドの買収で補っている印象だね。売り上げが10%落ちたら、同じ分を買収で埋める。年商2億円、営業利益3000万円規模のブランドを年間5~6社買って、ダメなら撤退する。とにかくそれを繰り返さないと株価が維持できない。
──そもそも、買収するためのお金はどこから捻出するんですか?
本明:買収を発表すると株価が跳ね上がるから、新株予約権を発行して、取引完了までに資金調達する。投資家に一定価格で株式を買える権利を与えるわけだから、期待で株価がドンと上がれば、投資家は利益を得られる。ただ、こじはるの「ハーリップトゥ」を買収したときみたいに、PER(株価収益率)よりものれん代(ブランド価値)にプレミアムが乗りすぎると、初動で株価が上がっても、その後に下落して失敗するケースもある。
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