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「レクサス」新型“RZ”試乗レポート  バッテリーEV新時代の幕開けを告げる先駆車

トヨタ自動車の「レクサス(LEXUS)」は24日、クロスオーバー型のバッテリーEV(以下、BEV)“RZ”シリーズの新型を発売した。航続距離の向上などの改良を施した“RZ350e バージョンL”(FWD)、“RZ500e バージョンL”(AWD)に加え、日本市場初導入となる操舵システムや、走りの楽しさを追求する新機能を搭載した“RZ550e Fスポーツ”、同車の走行性能をさらに磨き上げた特別仕様車“RZ600e Fスポーツ パフォーマンス”(2026年3月2日発売予定)を新たにラインアップする。これを記念して17日に、千葉県の袖ヶ浦フォレストレースウェイで試乗会を開催。筆者は“RZ500e バージョンL”と“RZ550e Fスポーツ”の公道試乗、“RZ600e Fスポーツ パフォーマンス”のサーキット試乗に参加した。同シリーズのエクステリアやインテリア、走行性能のほか、世界で2例目となる、日本初導入の操舵システム“ステアバイワイヤシステム”と、走りの楽しさを追い求めた新機能“インタラクティブマニュアルドライブ”の真価をひもとく。

「レクサス」唯一の BEV専用車“RZ”

“RZ”は、23年に発売した「レクサス」唯一のバッテリーEV(以下、BEV)専用シリーズだ。エクステリアデザインは“シームレス Eモーション”をコンセプトに、BEVならではのシームレスな加速感と力強さを着想源に、同車が備える機能とパフォーマンスを車体全体で表現したという。

最大の特徴は、塊感あふれるフロントフェイスだ。「レクサス」最新のアイデンティティーの1つである“スピンドルボディ”は、内燃機関搭載車ではボディーとグリルの開口部がグラデーションのようにつながるデザインが特徴だが、BEVの“RZ”にはエンジン冷却用のラジエーターがなく、空気を取り込むための大きな開口部を必要としない。そのため、バッテリーなどを冷却するための最小限の開口部を残し、“スピンドル形状(中央がくびれた形)“をシンプルに落とし込んでいる。同車の“EVっぽさ”や未来的な印象を感じる理由は、この要素の影響が大きいだろう。

サイドの上下に走るプレスラインや、リヤのディテール造形は直線的で、クロスオーバーらしく力強い。リヤに配した“LEXUS”のバラ文字や横一文字テールライトも今っぽく、性能を造形に溶け込ませ、現代的かつ先進的なデザインでまとめている印象だ。

エクステリアに関しては、旧型の“RZ”から大きな変更点はないものの、新たに追加するグレードの“RZ550e Fスポーツ”にはブレーキの冷却性能を高めるブレーキダクトやリアスポイラー、エアロホイールなど細かな空力パーツを追加。さらに特別仕様車の“RZ600e Fスポーツ パフォーマンス”には、“空のF1”と称されるエアレースで活躍する室屋義秀選手を開発陣に迎え、航空機の空力技術を応用したツインスポイラーやターニングベインなど、カーボンを使った17点の専用パーツを備えるほか、最高出力を313kWまで向上。車高も通常モデルより20mm下げ、より安定した走りのためにパッケージ面も見直した。

なお、“Fスポーツ”や“Fスポーツ パフォーマンス”は、「レクサス」のスポーツグレードの名称。“Fスポーツ”はスポーティーな走りと個性を誰もが楽しめることを目指したモデルで、“Fスポーツ パフォーマンス”はさらにそれを磨き上げ、パワートレイン自体も強化したモデルだ。

“人中心”の思想が息づく
先進的かつ上質なインテリア

インテリアは、シートやドアトリムに採用した東レのウルトラスエードが、ブランドらしい上品な質感を表現するなか、BEVの“ハイテク”なイメージを裏切らない、運転席中心のコックピット感あふれるレイアウトが広がる。レクサス独自の設計思想である“Tazuna Concept”を継承し、ヘッドアップディスプレーからメーター、インパネ中央にあるタッチディスプレーまでスムーズな視線移動ができる配置を意識。人が馬を操る“手綱”のように、手元の最小限の動きで操作ができるように各種部品を配置した。

17インチのタッチディスプレーは、そのコンセプトを体現する装備の一つだ。ステアリング周辺から伸びるように隣接したパーツ配置がされており、ドライバーに向けて角度をつけている。走行中、目を向けている際の不安感は不思議と少ない。画面の大きさからして、全ての機能をタッチ操作に集約するレイアウトもありえたと思うが、頻繁に使用する音量や空調調整の物理ボタンを残したところには、先進性を見せつけるよりも“人”を中心に据える「レクサス」らしさがにじむ。個人的には、走りを追求するBEVとして、走行モードも物理的な操作で選びたいところだ。

内装の改良では、調光機能付パノラマルーフの鮮明度や遮光性の向上、レーザー加工を施したドアトリムのグラフィック、従来のイルミネーションランプのモーション追加などの細かな変更を施した。一際存在感を放つのは、“RZ550e Fスポーツ”と“RZ600e Fスポーツ パフォーマンス”に新たに搭載したヨーク形状のステアリングだ。これは“ステアバイワイヤシステム”の採用に伴うもので、ステアリングの最大切角の最適化によって、従来の持ち替えを前提とした円形ではなく、飛行機の操縦桿のような横長形状を実現した。結果的にメーターも見やすくなり、膝周りもスッキリして乗降もしやすくなった。

BEVらしい走りを
より静かに、長く、安定的に昇華

試乗は、袖ヶ浦フォレストレースウェイを起点としたコースで行った。サーキットのほか、道幅の狭い山道やワインディング、高速道路など、日常使いからスポーツ走行まで、多彩なシチュエーションがそろう約40kmのルートだ。

まずは“RZ500e バージョンL”で、ベースとなる走行性能を公道で試す。やはり魅力はシームレスな加速感だろう。アクセルを踏み込んだ瞬間に“グッ”と押し出されるような加速感で、変速ショックなしの力強い伸びは、トランスミッションを介さず、停止状態からすぐに最大トルクを出せるBEVならでは。加速感について新型“RZ”開発担当者は、「あえて“飛び出すような感覚”には仕立てていない」という。「気持ちの良い急加速感は、長く乗ると疲れに変わる。いたずらに加速感を強調せず、踏んだ分だけ素直に加速する“リニア感”を備えることは、人としての感覚に寄り添うことでもあり、レクサスのBEVらしい味付けでもある」と話す。

走行状況によって4輪の駆動力を配分する駆動システム”DIRECT4“も優秀だ。カーブでは、曲がり始めはフロント寄りに、立ち上がりはリア寄りに駆動力を分配。路面をガッチリと掴みながら押し出してくれる感覚が心地よい。高速域のカーブでは横に振られる感覚は多少あるものの、新型“RZ”ではシステムの特性も見直され、挙動全体の安定感は抜群に良く、安心して身を預けられる印象だ。

また、車内にみちる静けさも魅力の1つ。一般的に「BEVは静か」と思われがちだが、エンジン音のあるガソリン車では気にならなかったわずかな異音や振動が、ほぼ無音のBEVでは逆に際立ってしまう。開発陣はこの“静けさの罠”に向き合った。後席下やドアトリムに防音材を追加したほか、荷室に装着したトノカバー内部に吸音材を仕込み、リアタイヤ周辺から伝わるノイズを軽減したり、高減衰接着剤を使用し不快な振動を抑えたりするなど、細部にまで手を加えた。

今回の改良のメーンとも言える走りの面では、BEVシステム全体を見直すことで、基本性能を底上げしている。新開発の大容量リチウムイオンバッテリーによる出力特性の向上や、モーターの高出力化など多岐にわたるが、バッテリーパックの構造も再設計し、“RZ”の弱点であった短い航続距離の延伸(“RZ350e”では575kmで約20%向上、“RZ500e”では500kmで約14%向上)と、低温環境下を含む急速充電時間の短縮といった、日常での使いやすさに大きく貢献する改良も多く施した。

自動車の未来を示す
2つの先進的システム

“RZ”の進化を語る上で欠かせないのが、“ステアバイワイヤシステム”と“インタラクティブマニュアルドライブ”。同システムを搭載した“RZ550e Fスポーツ”の公道試乗、“RZ600e Fスポーツ パフォーマンス”のサーキット試乗で、その新しい走りを体感する。

“ステアバイワイヤシステム”は、シャフトを介してステアリングと駆動輪が連動する従来の機構を一切設けず、繋がったワイヤを伝う電気信号のみで操舵を行う、スロットルバイワイヤ、シフトバイワイヤに続いて量産車に落とし込まれた最新技術だ。ロックトゥーロック(左右最大操舵角)は約200度に設定しており、速度や走行状況に応じてステアリングギア比を調整し、舵角に対するタイヤの切角を最適化する。低速域では少ない舵角で大きくタイヤを切ることができ、取り回しやすさが向上。高速域ではステアリングの反応を穏やかにし、優れた直進安定性を確保する。これまでのステアリングギア比可変機構では難しかった広い調整幅を実現し、ギア比は最小から最大まで約2.5倍にも及ぶ。また、路面からの不快な振動は直接ステアリングに伝わらないため、快適性に寄与する一方、縁石通過時の感触や横Gなど、運転に必要な情報と手応えは選別し、操舵反力を作り出す機能も備える。将来的にステアリングを自由な位置に配置できたり、ドライバーの好みに応じて操舵特性をパーソナライズできたりする可能性を秘めた構造であるのも特徴だ。

はじめに公道で試乗した“RZ500e バージョンL”のステアリングのロックトゥーロックは約1080度。同システムの舵角はその5分の1ほどになるのだから、差は歴然だ。サーキット駐車場内でのテスト走行では、走り出しの低速域はかなり機敏な反応だと感じたものの、数分でその違和感は快適さへと変わる。90度程度のカーブは持ち替えなしでスムーズに旋回し、公道試乗での右左折も、ゲームのコントローラーのような操作性をシミュレーター感覚で楽しめていた。ステアリングとタイヤがリニアにつながる感覚があるのは、従来の機構と異なり、ステアリングを何度も回転させる必要がなく、どんな時でも舵角がそのまま旋回方向を示しているからだろう。

社内での本格的な開発が始まった18年から約7年、プロドライバーやモータージャーナリストなどによる試乗のフィードバックを経て改善し、実装に至った。開発当初はロックトゥーロックを150度とし、応答性の良さを重視していたが、「反応が鋭すぎて繊細な操作が難しい」との声が寄せられ、最終的には200度に設定。試乗では特に低速域で、90度以上の断続的なカーブでは腕が突っ張ってしまい、ステアリングの持つ場所をずらす必要があったため、筆者個人としては150度の舵角でよかったのでは?と感じたが、この点については、当初社内でも意見が分かれたという。「通常のステアリング機構との共存が必要な中、現代のユーザーにとって“自然で安全なハンドリング”を提供するため、調整を重ねた結果」だと “ステアバイワイヤシステム”開発担当者は話す。

シャフトを介さない操舵システムは、13年に“ダイレクト アダプティブ ステアリング”という名称で「日産」の“スカイライン”が量産車として世界初搭載した。しかし非常時のためにシャフトが残されていたため、軽量化やステアリング配置の自由さなどの可能性を見出せない構造だった。完全なる“ステアバイワイヤ”を目指した「レクサス」は、システムを構成するモーター、電子制御ユニット、通信ケーブルまで全てを2系統備え、万が一どちらかのシステムに不具合が起きても、もう一方が即座にバックアップとして機能するよう設計し、安全性を確保した。

ステアリングシャフトを完全に廃した量産車は、「テスラ(TESLA)」の“サイバートラック”に続いて世界で2例目。日本初導入のシステムのため規制制度も整備されておらず、規制当局との連携しながらの開発も、実装までに時間を要した理由だという。

サーキットでの高速走行では、“インタラクティブマニュアルドライブ”の楽しさを存分に味わえる。このシステムは、8速の仮想ギアを手元のパドルシフトで変速し、加速に応じたサウンドや変速時の物理的なフィードバックも体感でき、MTのような操作感と高揚感を楽しめる

ATに備わるマニュアルモードは、パドルシフトやシフトノブで変速操作ができるが、ドライバーが完全にコントロールできるわけではなく、スポーツ走行時でもやや介入感が残る。従来モデルもパドルシフト風の部品は搭載していたものの、回生ブレーキの効きを調節する機能のみを割り当てていた。しかし、新たにラインアップした“F”の名を冠する2モデルでは、センターコンソールの“M MODE”ボタンを押すことで、擬似的なタコメーターが表示され、変速操作をすべてドライバー自身で行えるMT車に早変わり。レッドゾーン手前、レッドゾーン内、レブリミットでの変速で、シフトショックの大きさも明確に差別化しており、変速時の回転数に応じた物理的な応答を体全体で感じられる。自動でシフト操作が行われないため、レブリミットまで回しきることもでき、速度とサウンドは一定の高さから上がらず、オーバーレブ時の挙動も再現している。エンジン搭載車であればためらう操作だが、同車に備わるエンジンはあくまで“仮想”。やりたい放題だ。アクセル開度合わせてトルクも変化するBEVの特性をあえて変質させ、ガソリン車同様にレッドゾーン手前で最もトルクが発生するように非実用的な調整を加えていることからも、走りの楽しさへのこだわりがうかがえる。

興味深いのは、サウンドの作り込みだ。ガソリン車のエンジン音とも、BEV特有の電子音とも違う、“コオオオ”という飛行機のジェットエンジンを彷彿とさせる聞き馴染みのない音だ。「従来のエンジン音は整数倍の周波数(倍音)で構成されるが、今回のサウンドはあえて自然界に存在しない非整数の倍音を織り交ぜた。一つの個性だと捉えてほしい」と“インタラクティブマニュアルドライブ”開発担当者。

仮想変速機能を量産BEVに搭載した例も、世界的に見て極めて限定的。先行例として知られるのが、「ヒョンデ(HYUNDAI)」が24年に発売した“アイオニック5 N”だ。同車のシステムはエンジン音を模したものを含む3種類のサウンドを備えており、好みに合わせて変更が可能。それに比べ、選択肢を提供できていない点で言えば遅れをとっているものの、あえて最初に“どこにも属さない音”一つで勝負した“インタラクティブマニュアルドライブ”には、エンジン車のみを懐かしむ懐古的な思考でなく、BEVとして新たな価値を築こうとする姿勢を感じる。

今後、OTA(通信によるソフトウェア更新)の開発が進めば、ステアリングギア比や操舵フィールをサーキット向けにカスタマイズできたり、サウンドを好みに合わせて調整できたりと、走る楽しみすらもパーソナライズできる車になることも夢ではない。

BEVは“ドライバーとの対話”を再設計する時代へ

筆者は試乗会に、V8NAエンジンを搭載する“LC500”で向かった。BEVとは対極にあるパワートレインを体感した直後だったからこそ、BEVが抱える“走りのフィードバックの乏しさ”が際立った。アクセルを踏み込めば、変速を介さず一気に高速域へ駆け上がる。その静かさと容易さは快適である一方、返ってくる情報は少なく、操っている実感は希薄。内燃機関車では振動や音が走行状態を伝えてきたが、BEVでは、そのようなフィードバックは自然に生まれない。そんなドライバーとBEVの非接続感を補うため、各自動車ブランドはアクセル開度に合わせた音の演出をはじめとする工夫を凝らし始めている。

本改良で導入した2つのシステムそれぞれは世界初の技術ではないものの、両者をいち早く組み合わせて実装した点に、自動車の未来を示す先進性が凝縮している。新型“RZ”は、走りの楽しさとともに、ドライバーと自動車の対話を2つの視点から再設計した、BEVの新時代を象徴する先駆車と言えるだろう。

◼️車両情報
“RZ350e バージョンL”
価格:790万円
駆動方式:FWD
システム最高出力:165kW(224PS)
最大トルク:268Nm(eAxle単体)
全長×全幅×全高:4805×1895×1635mm
100km/h 加速:7.5秒

“RZ500e バージョンL”
価格:850万円
駆動方式:AWD
システム最高出力:250kW(340PS)
最大トルク:268Nm(eAxle単体、前後2基)
全長×全幅×全高:4805×1895×1635mm
100km/h 加速:5.3秒

“RZ550e Fスポーツ”
価格:950万円
駆動方式:AWD
システム最高出力:300kW(407PS)
最大トルク:268Nm(eAxle単体、前後2基)
全長×全幅×全高:4805×1895×1635mm
100km/h 加速:4.4秒

“RZ600e Fスポーツ パフォーマンス”
価格:1216万5000〜1244万円
駆動方式:AWD
システム最高出力:313kW(425PS)
最大トルク:268Nm(eAxle単体、前後2基)
全長×全幅×全高:4860×1965×1615mm
0-100km/h 加速:4.4秒

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