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日本ロレアル、若手理系女性支援で20周年 日本の女性研究者比率は18%の低水準

ロレアル-ユネスコ 女性科学者 日本奨励賞

日本ロレアルは10月2日、第20回「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」の授賞式を大阪・関西万博をテーマウイーク会場で実施した。例年、物質科学分野と生命科学分野から各2人を選出していたが、応募者の研究内容の質が年々上がっているため20周年を迎えた今回は各3人ずつ、計6人の若手女性科学者に授与した。また、20周年を記念して俳優のいとうまい子が特別賞を受賞した。いとうは45歳で早稲田大学に入学し、予防医学とロボット工学を学びんだ後、同大学院修士課程、博士課程へ進学。4月に情報経営イノベーション専門職大学の教授に就任。AIベンチャーで介護ロボットの研究開発を行っており、既存のキャリアに囚われず研究者として新たな道を切り開いた点が評価された。

「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」は、「ロレアル-ユネスコ女性科学賞」の日本版として、日本ロレアルが日本ユネスコ国内委員会の協力を得て2005年に創設。「世界は科学を必要とし、科学は女性を必要としている(The World Needs Science and Science Needs Women)」という理念の下、日本の若手女性科学者の研究活動の継続を奨励することを目的として、日本国内で博士課程後期に所属する女性研究者を対象に授賞。副賞として奨学金100万円を贈呈。これまでに75人が受賞し、直近では「アジアの科学者100人」(2023年版)に同賞受賞者4人が選出されるなど科学界に貢献する人材を輩出してきた。

科学が女性を必要とする理由

日本ロレアルは、同賞の背景としてさまざまな分野で見過ごされていた“性差”が、科学技術の発展を阻害している可能性があることを挙げる。例えば、医学・薬学分野においては創薬研究において女性治験者数が少なく、過去には入眠剤ゾルビデムの薬効に性差が発見され、米国では13年以降、女性の服用量が男性の半分になったなどの例がある。また、職場においては女性の身体特性に合致した安全衛生措置が欠如していることから、職場におけるけがが男性は世界的に減少傾向にある一方で、女性は上昇傾向にあり、基準が男性を想定していることとの因果関係が示唆されている。そのほか、化学薬品への耐性は女性の方が低い傾向があるが、男性と一律の基準の場合が多い。工学の分野では、音声や画像認識の精度が女性より男性の方が高い。車の衝突実験では男性ダミーが使用されており、女性の事故死亡率は男性の1.45倍といったデータもある。

OECD(経済協力開発機構)の生徒の学習到達度調査(PISA)によると、15歳時点の先進11カ国グループ(G10)の男女の数学平均点は日本が最も高い点を示し、各国とも点数の男女差も大きくない。しかし、世界的に学部レベルでは男女比率が拮抗しているにも関わらず、博士課程以降、職位・階層が上がるごとに女性比率が低減するという。さらに、科学分野の研究職の女性比率は世界平均が33%であるのに対し、日本は18.5%にとどまっており諸外国と比較して遅れをとっている。

阻害要因は無意識の思い込み

日本ロレアルによると、科学分野における女性比率向上の阻害要因はライフステージの各段階でアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見・思い込み)が影響していると説明。小中高校時期は、両親、特に母親と教職員による「女性科学者のキャリアは安定しない」などの無意識の思い込み、友人の影響や同調圧力がある。学部以上においてはロールモデルやメンターの欠如、理系キャリアの可能性についての知識不足がある。研究職・専門職では採用時のバイアスに加えてワークライフバランスの性差、性差別的な職場慣習などが女性比率向上に影響しているという。

同社は、科学におけるジェンダー平等実現は圧倒的に不足する高度人材充足の助けとなるほか、科学の恩恵を包摂的に全ての人に届け、経済成長、科学発展にも寄与すると指摘。また、日本の科学分野におけるジェンダーギャップ解消には、次世代の女性が早い段階で理系分野に興味を持ち進路を選択できるよう周囲の理解を深めることが不可欠であるとして、女性科学者のロールモデル発信やアクアスしやすい情報の提供などを含めて積極的な支援を続けるとしている。

▪️第20回「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」受賞者一覧 

※肩書きは2024年応募当時、( )内は25年10月2日時点の年齢

〈物質科学分野〉

・木野 量子(28)/東北大学大学院理学研究科物理学専攻 素粒子・核物理学講座 原子核物理研究室 ストレンジネス核物理
研究内容:ハイパートライトンのΛ束縛エネルギーと寿命の高精度測定によるバリオン間力の解明
受賞理由:原子核の寿命を決定する装置を開発する国際チームをけん引し、国際的な実験研究をリードする研究者としての貢献を高く評価

・髙田 咲良(26)/慶應義塾大学大学院 理工学研究科 基礎理工学専攻 生命分子工学研究室
研究内容:人工細胞内再構成系を用いた細胞内の時空間秩序原理の解明
受賞理由:細胞という複雑な系の仕組みを物理学的な手法で解析するというユニークな研究を展開し、新たな分野を切り開く独自性への評価

・仲里 佑利奈(26)/東京大学大学院 理学系研究科 物理学専攻 宇宙理論研究室
研究内容:多波長観測と高精度シミュレーションで探る宇宙最初期の銀河形成
受賞理由:宇宙初期の銀河形成について、宇宙の風による星の集団が形成されることを理論シミュレーションにより世界で初めて示すなど、独自の発想による研究が高く評価

〈生命科学分野〉

・上野山 怜子(28)/岩手大学大学院 連合農学研究科 生物資源科学専攻 分子生体機能学研究室
研究内容:ネコ科動物のマタタビ反応の行動学的意義とメカニズムの研究
受賞理由:ネコ科動物のマタタビ反応が生存戦略に関わるという独創的な発見であり、科学的知見を社会に広める意義も大きい研究であることを評価

・沖田 ひかり(28)/名古屋大学 大学院工学研究科 生命分子工学専攻 浅沼研究室 トランスフォーマティブ化学生命融合研究大学院プログラム
研究内容:人工生命の創製に向けた天然アミノ酸由来の核酸による化学的な遺伝情報伝達系
受賞理由:生命の起源に挑む挑戦的な研究で、RNAよりも簡素なアミノ酸が遺伝情報伝達に機能しうるという発見、人工生命創製への期待と大きい成果を評価

・吉本 愛梨(29)/東京大学大学院薬学系研究科 薬品作用学教室
研究内容:皮質視床ネットワークによるトップダウン心拍数調整
受賞理由:新たな実験系を確立し、ラットの心拍調整が訓練によって可能になることを解明したこと、そしてヒトの心拍コントロールや医療応用への貢献の可能性を見いだしたことへの評価

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