ロレアル(L’OREAL)の2025年1~6月期(上半期)決算は、売上高が前年同期比1.6%の224億7330万ユーロ(約3兆8429億円)、営業利益が同3.1%増の47億4010万ユーロ(約8105億円)、非経常項目を除いた純利益が同1.0%増の37億8300万ユーロ(約6468億円)となり、増収増益だった。ニコラ・イエロニムス(Nicolas Hieronimus)最高経営責任者(CEO)は7月29日に開催したアナリスト向け説明会で、トランプ関税の影響やトラベルリテールの展望など、今後の事業見通しについて語った。
米関税の影響は「管理可能な範囲」
イエロニムスCEOは、米国がEUからの美容製品に15%の関税を課すと発表したことに対し、「関税が当社の利益率に与える正確な影響はまだ明確ではないが、管理可能な範囲にとどまる見通し」とコメント。現時点で想定される影響は40ベーシスポイント(0.4%)未満だという。「当社は世界中に36の工場と150以上の流通センターを持ち、多くの製品を販売地域で生産している。その柔軟性が強みだ。唯一の例外は欧州で製造するラグジュアリーフレグランスだ。十分な在庫を確保しており、関税の影響の一部を相殺するため、価格の引き上げも検討している」と語った。
米国で販売する同社製品のうち、欧州から輸入する割合は30%を占める。アナリストから今年度第4四半期(10〜12月期)または来年から関税の影響を受けるかどうか、またその影響を軽減するための対策について質問されると、同社のクリストフ・バブル(Christophe Babule)最高財務責任者(CFO)は「一部の部門ではすでに第2四半期(4〜6月期)中に関税引き上げを想定した対応を始めた」と明かし、来年以降の影響についてもフレグランスなど特定のカテゴリーで中長期的な対策を模索中だとした。イエロニムスCEOは、「製造拠点の移動やその他の緩和策が必要かどうか判断するため、明確な状況が把握できるのを待っている。欧州当局に対して化粧品への関税免除を引き続き働きかけていくことを諦めていない」と述べ、交渉の余地があるとの考えも示した。
世界市場は再び加速基調に 中国も回復傾向
イエロニムスCEOは世界のビューティ市場の成長は予想通り徐々に加速傾向にあるとして、「第1四半期(1〜3月期)は約2%の伸びだったが、上半期(1〜6月期)全体では約3%超えに拡大した」と説明。特に北米市場が年初の低調を乗り越え好調に転じたほか、中国本土も前年同期比で横ばいと昨年の4%減から大きく回復したという。「より重要なことは、中国でマス市場よりラグジュアリー市場の回復が顕著なことで、当社にとって明らかな追い風」と説明した。中国本土は第2四半期(4〜6月期)に、5四半期ぶりにプラス成長に戻り主要なけん引役となった。新興国市場は半期における同社の総売上高の17%を占め、2ケタ成長を継続。メキシコ、ブラジル、インド、タイが全体の売上高に貢献した。欧州市場も堅調を維持しているという。
ロレアルの25年上半期売上高は、報告ベースで前年同期比1.6%増、実質ベースで同3%増。ITシステム刷新に伴う影響を除けば、4部門のうち3部門で市場平均を上回る成長を記録した。リュクス事業本部は全地域・全カテゴリーで成長。特にフレグランスは市場の2倍のスピードで成長した。プロフェッショナル プロダクツ事業本部はプレミアムヘアケアの継続的なブームを背景に急成長。「ケラスターゼ(KERASTASE)」は10%台後半の伸びを記録した。ダーマトロジカル ビューティ事業本部も出荷ベースでは大幅に改善し、市場平均に対して30%増を上回る売上高を記録した。一方、コンシューマー プロダクツ事業本部は低迷する米国メイクアップ市場への過度な依存や、マス市場で最も成長が速いフレグランスへの対応の不足が響き、市場平均をやや下回った。ヘアケアやメイクアップでは市場を上回った。
トラベルリテール市場は再構築期に
トラベルリテール事業は地域によって明暗が分かれた。「アジアのトラベルリテール市場は依然として状況が複雑で、10%台後半のマイナス」となる中、ロレアルは「1ケタ台後半の減少にとどまりシェアは拡大」した。イエロニムスCEOは、「空港での売り上げは回復基調で8%程度のプラスだが、市中免税店の売り上げは大幅に減少している。これらの店舗は、旅行客が減少した時期に多くの企業が開設し、代購(代理購入)ビジネスに支えられていた」と説明。特にソウルなどで閉店が相次いでいる。
パリでは、LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)が中国観光客のグループ旅行減少を受けて、中国観光客向け販売モデルを展開していた老舗百貨店サマリテーヌ(LA SAMARITAINE)をル・ボン・マルシェ(LE BON MARCHE)と共通の経営体制の下に置き、リブランディングを図っている。サマリテーヌは以前、LVMH傘下で免税店を展開するDFSグループが運営していた。
中国・海南島の免税市場も「トラフィックは回復しているが、売上高は約25%減」とイエロニムスCEOは指摘した。「本来のトラベルリテールの形である個人旅行者向けのブランド露出の場に戻りつつある。トラベルリテールを除けば北アジア地域全体はプラス成長だった」と述べた。「今年前半の動向から、経済的・地政学的な不確実性にもかかわらず、年初の予測通りグローバル美容市場の成長率は約4%で着地すると確信している。昨年は上半期の4.5%から下半期の3.5%へ減速したため、比較対象が低くなることで市場加速が続くと予想している」と続けた。
EC比率は約29%に拡大 新製品比重も引き上げへ
「美容に対する需要はかつてないほど活発だ。現在、世界の人口の2/3以上が、健康で魅力的な外見でいたいと考えている。これは3年前より6ポイント高い数値で、グローバルなトレンドだ」と述べた。美容に関するSNS上の会話も活発で、TikTokにおける美容関連検索は上半期に65億件に達し、前年同期比で50%以上増加した。「関税引き上げに関連する価格上昇が、美容市場の成長を後押しする可能性がある」とイエロニムスCEOは述べた。「今年後半は、市場の刺激策をさらに加速させる。新製品の発売を前年比で300ベーシスポイント(3%)以上引き上げることを目標としており、市場を上回る成長を目指す」と続けた。さらに、過去12~18カ月間で美容市場全体の売上高に占めるオンライン売り上げの割合が加速的に拡大している点を強調した。「上半期にオンライン売り上げが市場全体の2倍のペースで成長した。当社はこのチャネルに長期的な投資を続けてきた」と述べ優位性を強調した。同社のEC売上高は前期比で10%増前後の伸びを記録し、売上高全体の約29%を占めるまでに拡大。前年同期比で2ポイント上昇している。