ファッション
連載 注目若手デザイナーへの10の質問

デザイナーとスタイリストがタッグを組む「ゾマー」 日常を彩るカラフルで遊び心あふれるクリエイション

海外ファッション・ウイークを現地取材するWWDJAPANは毎シーズン、今後が楽しみな若手デザイナーに出会う。本連載では毎回、まだベールに包まれた新たな才能1組にフォーカス。10の質問を通して、ブランド設立の背景やクリエイションに対する考えから生い立ち、ファッションに目覚めたきっかけ、現在のライフスタイルといったパーソナルな部分までを掘り下げる。

今回取り上げるのは、ウィメンズウエアブランド「ゾマー(ZOMER)」を手掛けるデザイナーのダニアル・アイトゥガノフ(Danial Aitouganov)。アムステルダム・ファッション・インスティテュートを卒業後、「クロエ(CHLOE)」や「バーバリー(BURBERRY)」「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」などで経験を積んできたダニアルは、2023年に親友であるスタイリストのイムル・アシャ(Imruh Asha)と一緒にパリを拠点にブランドを立ち上げた。出身はそれぞれ異なるが、2人ともアムステルダム育ちで、ブランド名はオランダ語の「夏」に由来する。

「ゾマー」の着想源は、現代アートとカルチャー。鮮やかな色彩やユニークなテクスチャー、大胆なシェイプを取り入れつつ、商業性も考慮し、洗練と遊び心が同居するコレクションを提案している。デビューシーズンの24年春夏はパリ・ファッション・ウイークの公式スケジュール外だったが、翌シーズンからは公式スケジュールでコレクションを発表。ユーモアあふれるショー演出もブランドの魅力で、25-26年秋冬は服の前後が真逆になったシーズンの象徴的デザインを反映し、ショーをまるごと逆再生するかのような演出で観客を驚かせた。また、9月3日に受賞者が発表される25年度「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ(LVMH YOUNG FASHION DESIGNER PRIZE)」のファイナリストにも名を連ねており、今後さらに注目度が高まりそうだ。

1:出身は?どんな幼少期や学生時代を過ごしましたか?

私はロシア連邦のタタールスタン共和国の出身で、イムルはカリブにルーツがあります。二人ともオランダで育ちました。子どもの頃は少し反抗的で服の着こなしには強いこだわりがありましたね。イムルはその頃から色彩に引かれていて、私はただ自分が着たいものを自由に、時には奇妙な組み合わせで楽しんでいました。

2:ファッションに関心をもった原体験やデザイナーを志したきっかけは?

子どもの頃から服が大好きで、よく服で遊んでいました。10代になるとクリエイティブな活動にもっと浸り、常にスケッチをしていて、やがてグラフィックデザインを学ぶようになりました。転機になったのは、映画「レクイエム・フォー・ドリーム(Requiem for a Dream)」を観たとき。ジェニファー・コネリー(Jennifer Connelly)が着ていたヘルムート・ラング(HELMUT LANG)のトップスに興味を持ち、調べていくうちにブランドの世界と出合いました。それが、最初に本格的にファッションに心惹かれた瞬間でした。

3:自分のブランドを立ち上げようと決めた理由は?

私たちはしばらくファッション業界で働いていますが、ずっと誰かのビジョンを実現する立場でした。自分たちのブランドを持つことは夢でしたが、当時はまだ準備ができていませんでした。だからまず業界に浸り、経験を積むことを選んだんです。やがて、そこから「自己表現をしなければならない」という強い気持ちが生まれました。

4:学生時代から過去に働いたブランドまで、これまでの経験で一番心に残っている教えや今に生かされている学びは?

コレクションを作るには村一つ、いや街全体が必要なくらい多くの人の力が関わります。私たちは小さなチームですが、「ルイ・ヴィトン」のようなビッグブランドと同じ基準で評価されてしまう。だからこそ、大企業で働いた経験はとても貴重なものでした。シンプルなスケッチから完成形になる過程を見られ、さまざまな部署と関わることができたのは本当に大きな学びだったと思います。

5:デザイナーとしての自分の強みや、クリエイションにおいて大切にしていることは?

私たち2人の中には、意義のあるメッセージや明確な声を持ちつつも、同時に「欲しい!」と感じてもらえるものを作りたいという、程よいバランスがあります。人生でもブランドでも大切にしているのは、遊び心あふれる感覚。楽しくて喜びにあふれるエネルギーを、すべてのクリエイションに注ぎ込みたいのです。また、私たちの強みだと感じるのは、さまざまなブランドでの経験や異なる地域での生活、異なる文化のルーツといったことがもたらすバックグラウンド。そしてスタイリストであるパートナーの存在が、さらに異なる層をブブランドにもたらします。こうした多様な視点の融合こそが、「ゾマー」を特徴づける要素です。

6:活動拠点として、今暮らしている街は?その中でお気に入りのスポットは?

現在はパリに住んでいて、スタジオは11区のトロワ・ボルヌ通り(Rue des Trois Bornes)にあります。同じ通りにある「レ ウフ(Les Oeufs)」はシェフが毎月入れ替わり、美味しいタパスが食べられますしワインも充実していて、お気に入り。リラックスしたいときや友人とのキャッチアップには最高の場所です。

7:ファッション以外で興味のあることや趣味は?

イムルはスポーツ好き。定期的にランニングをして、最近はウェイクボードにも挑戦しています。私はジムでローイングをしていますが、いずれ実際に水上でもやってみたいと考えています。また、乗馬を最近始めた友人から「とても解放的だ」と聞いたので、興味を持っています。そういった体験が、今の自分に必要だと感じるんです。

8:理想の休日の過ごし方は?

ファッションについて考えるのを一旦やめて、透き通る海と白い砂浜で過ごすことでしょう。面白みはないかもしれませんが、私がずっと求めているものです。ただ、今年の夏は実現しなさそう。コレクションの進行が遅れていたので予定を空けておく必要があったんですが、そうしているうちに友人たちはみんな旅行を予約していて、値段もかなり高騰してしまいました。なので、夢の楽園へ行くのはまたの機会になりますが、南仏くらいならちょっとした逃避にいいかもしれませんね。

9:自分にとっての1番の宝物は?

ちょっとベタかもしれないですが、正直、人生そのものを宝物のように感じます。私にとっては、日々の小さなことにこそ価値があるんです。物にはあまり執着しませんが、母からもらったハート形の小さな陶器は常にポケットに入れていて、父からはゴールドの指輪を受け継ぎました。その2つは、私の宝物ですね。それ以外は自由気ままに暮らしているので、もし明日ニューヨークに引っ越さなければ行けなくなっても、何のしがらみもなく行けると思います。

10:これから叶えたい夢は?

目指すのは、スタッフに価値に見合った報酬を払うことができる健全で持続可能な会社を築くこと。顧客にサービスを提供するだけでなく、それ以上のものを届けられる成長を遂げていきたいです。理想は、服以上のものを世界にもたらすことができるブランド。それこそが、真の夢です。

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