ヴァレンティノ(VALENTINO)の次期最高経営責任者(CEO)に、親会社であるカタールの投資会社メイフーラ(MAYHOOLA)のマネジング・ディレクターを1月から務めているリカルド・ベッリーニ(Riccardo Bellin)氏が就任することがわかった。今月退任したヤコポ・ヴェントゥリーニ(Jacopo Venturini)前CEOの後任として、9月1日付で着任予定。「クロエ(CHLOE)」や「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」でも再建を成し遂げてきた手腕を生かし、業績が低迷しているブランドのテコ入れを図る。
求められるのは、迅速な好転
ラグジュアリー業界のベテランであるベッリーニ次期CEOは、事業再建の豊富な経験、メイフーラの主要株主からの信頼、アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)=クリエイティブ・ディレクターとの強い信頼関係、ブランドが直面するビジネス上の課題への理解、そして度胸を備えている。そんな彼が担うのは、「ヴァレンティノ」の現状を迅速に好転させるミッションだ。そのためには、ミケーレに前職の「グッチ」時代と密接に結びついたクリエイティブなメッセージと美学の進化を促し、ビジネスを活性化させる必要がある。ラグジュアリー市場全体が停滞する中、ブランドは現在売り上げが2ケタ減収していると見られ、ヴェントゥリーニ前CEOの予期せぬ退任によって不安定な状況に陥っている。
包摂的かつ共感的で周りを引きつけるリーダーシップスタイルで知られるベッリーニ次期CEOは、パリ、ローマ、ミラノにある「ヴァレンティノ」のオフィスを拠点にするが、まずは世界各地の従業員のもとを訪れて、チームを鼓舞しモチベーションを高めることから取り組むことになる。また、すでにミケーレと“クリエイティブの再編”についても幅広く話し合っている。
ただし、再建のミッションに時間的な猶予は少ない。というのも、23年にヴァレンティノの株式の30%を取得したケリング(KERING)が28年までに残りの70%を買い取るオプションを保有しており、最終的な買収額はヴァレンティノの業績に左右されるからだ。バーンスタイン(BERNSTEIN)のルカ・ソルカ(Luca Solca)=アナリストによると、負債を抱えるケリングは残りの70%取得に最大34億ユーロ(約5854億円)が必要とされる。
ベッリーニ次期CEOは、「バルマン(BALMAIN)」や「パル ジレリ(PAL ZILERI)」なども擁するメイフーラ全体を監督するマネジング・ディレクターに就いて以来、少なくとも半分の時間を「ヴァレンティノ」に費やしてきたという。同社は新たなマネジング・ディレクターを任命する計画は当面なく、それは彼が取り組む課題の重要性と大きさを示していると考えられる。
ベッリーニ次期CEOの経歴と実力
ベッリーニ次期CEOは、イタリア出身。ミラノのボッコーニ大学とスペインのIESEビジネススクールビジネススクールで学んだ。プロクター・アンド・ギャンブル(PROCTER & GAMBLE)で美容部門の役員を10年間務めた後、2007年から17年2月までディーゼル(DIESEL)でさまざまな要職を歴任。17年3月から19年11月までメゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)のCEOを務め、売り上げを2倍以上に増加させた。その後、同年12月にクロエ(CHLOE)の社長兼CEOに就任。ガブリエラ・ハースト(Gabriela Hearst)をクリエイティブ・ディレクターに起用し、“パーパス・ドリブン(目的主導)”なビジネスモデルでサステナブルなブランドへの変革を進めるとともにビジネスを成長させた。
23年12月に退任してからは多くのラグジュアリーブランドやファッション企業にコンサルティングを手掛けており、25年1月にはメイフーラのマネジング・ディレクターに就任。ラシッド・モハメド・ラシッド(Rachid Mohammed Rachid)会長兼CEOにポートフォリオ戦略やM&Aのアドバイスを行ってきた。
ヴァレンティノの会長も務めるメイフーラのラシッド会長兼CEOは、「彼のラグジュアリー業界での豊富な経験、戦略的洞察力、そして確固たるリーダーシップは、アレッサンドロ・ミケーレの力強いクリエイティブビジョンとともにメゾンを前進させ、そのユニークのアイデンティティーを強化してくれるだろう」とコメント。ベッリーニ次期CEOは「ヴァレンティノという卓越した伝統とクラフツマンシップを独自のクリエイティビティーを融合させている象徴的なメゾンに加わることを光栄に思う。アレッサンドロ・ミケーレや素晴らしいチームと共に、メゾンのタイムレスな価値観を称えながら、新たな章を築いていくことを楽しみにしている」と述べた。