PROFILE: 藤澤虹々可

女子スケートボードの世界といえば、10代のアスリートが大活躍しているイメージはないだろうか?そんな中で23歳の藤澤虹々可は、自身も国内外で活躍しながら、年長者として、スケートボードの若い世代への普及や世間一般の理解促進のためにも尽力している。「スケートボードとファッションは似ている」と話す藤澤をファッションシューティングしながら、自身のこれまでを振り返ってもらいながら、改めてスケートボードというカルチャーの魅力を聞いた。
WWD:スケートボードとの出合いは、いつ頃?
藤澤虹々可(以下、藤澤):6歳のころ家の近くにスケートパークができ、趣味でサーフィンをしていた父がオフトレとしてスケボーを始めました。それを見ているうちに、やりたくなったんです。自分ではよく覚えていけれど、何をやらせてもすぐに飽きてしまう子どもだったそうで、母が「1週間頑張ったら、誕生日プレゼントにスケボーを買ってあげる」と言うと、取り憑かれたように頑張ったそう。小学校に入ると家族は、雨の日も、風の日も、練習中は外から応援してくれるようになりました。ただ中学2年生くらいになると、学業との両立が難しくなって。大会とかに出る感じでもなかったので、一時期離れました。
高校受験では、進学したい学校がありました。そこで、合格したら学校生活を楽しんで、不合格だったらスケートボードの世界に復帰しようと決めました。結果は、不合格(苦笑)。そこで通信制の高校を選び、アルバイトをしながらスケートボードを再開し、アメリカを目指すようになりました。
WWD:やはり、本場の世界に憧れた?
藤澤:スケートボードというカルチャーを肌で感じたかったんだと思います。幸い、アメリカの大会で良い結果を出したり、世界大会に招待していただけたりするようになりました。ワクワク・ドキドキする楽しい時でしたが、東京オリンピックが近づくと、怪我をすることが増えたんです。
WWD:スケートボードの世界は、怪我と表裏一体。「恐怖心が芽生えきっていない、若い世代の方が有利」と言われることもある。
藤澤:個人的には、やり続けなければ、恐怖心は消えないと思っています。もちろん練習でも怪我をする危険があって、怪我をすればフラッシュバックしてしまうこともあるけれど、上手になればリスクは軽減できる。アスリートジムに通って、トレーニングを通して怪我を予防するようにもなりました。とはいえ足首を捻ったりは日常茶飯事ですが、長く良いパフォーマンスができればと思っています。
「失敗しても笑顔の大会」以来、
みんなにも楽しんでほしいと活動
WWD:アスリートとしての自覚が芽生えた?
藤澤:お金を頂いたり、ウエアやギアをサポートしてもらったりとなると、昔のようにただ楽しくスケボーをやっていてはダメ。結果を出さなければならないし、自分の感覚だけで競技に臨んではいけないんだと思います。周囲の期待や視線は、意識するし、意識しなければいけないとも思う。趣味では、お金はいただけませんから(笑)。
スケートボードは、プロでなくても厳しい世界だとも思います。基本、最初は何もできません。そしてたった1回の成功のために何時間も、たった数秒の動画のために何日も挑戦しなければならないスポーツです。時には、楽しさを忘れてしまうこともあります。だからこそ、みんなで楽しく滑れたら、辛い練習がもっと楽しくなるのでは?と考えるようになりました。
アメリカで初めて参加したのは、世界で一番大きな女性だけの大会でした。それまでの日本の大会は緊張感に包まれていたけれど、アメリカではヤバい技を決めれば大盛り上がり。公園でピクニックをしながら、皆が互いを称え合うんです。「こんなに楽しい、失敗しても笑顔で終われる大会があるんだ」と思いました。以来、私も楽しくて始めたスケートボードを、みんなにも楽しんでほしいと思い、さまざまな活動をするようになりました。
WWD:具体的には、どんな活動を?
藤澤:例えば午前中のスクールで初心者を教えた後、「この後、ハイレベルな大会があるので、是非見てみてください」と話して、午後は私がガッツリ滑ったり。すると「楽しかった」とか「また是非スクールを開催してください」などの素直な喜びの声がいただけるようになって。大会でしか会わない子に「こんなに喋るんだ」とビックリすることもありました。昔に比べればパークの数は見違えるほど増えたし、それぞれの施設も充実しています。素晴らしい変化が起こり始めているとは思いますが、地方ではまだまだ「やってみたいけれど……」という声を聞くんです。まだまだ発展途上なスポーツだと思います。
WWD:オリンピックやXゲームのおかげで、今では人気スポーツというイメージがある。
藤澤:オリンピックで良いイメージを持つ方が増えたとは思っていますが、一方で近くで滑っている人がいると「うるさいなぁ」とか「あぁ……」と思われているように感じる機会は今なお時々存在します。もっともっとメジャーになったら、「やったら楽しい」「見ているだけでも面白い」というイメージが浸透したら、環境はもう少し改善するのではないか?と思います。もちろん、マナーが悪い人たちには「決められた場所で乗るように」や「周囲の迷惑にならない音量で」と“小さな配慮”を啓蒙していくことも大事です。
WWD:若い世代にスケボーの楽しさを啓蒙したり、後輩アスリートを応援したりもしているが、一方で現役のトップアスリートでもある。競技と普及、今はどのくらいのバランスで取り組んでいる?
藤澤:9.5対0.5くらいで、ガッツリ競技です(笑)。日本ではまだ10人にも満たないシグネチャーデッキを発売していただくなど、プロスケーターとしての活躍を期待して頂いていルのに、東京やパリ五輪は出場が叶わず、結果がビミョーな大会もあるので(苦笑)、改めてアスリートを自覚しなければと思っています。
WWD:シグネチャーデッキを含め、自身の“滑っている姿”は意識している?
藤澤:もちろん!乗っているだけでも気持ちいいスポーツですが、お気に入りの服を着て鏡を見たり、撮影されたりすれば、やっぱりテンションが上がります。足に筋肉がつくので、昔は太めのジーンズにダボっとしたTシャツに憧れました。今は自分に似合う太めのパンツとタイトなトップスを探したり。お気に入りのパンツを履いてスケートすると、ふと足元を見た時にテンションが上がるので、そんなことも考えながら服を決めています。今は女性らしいスタイルも気になっています。トップアスリートのスタイルも、少しずつフェミニンに変化しているんです。でも、スケートボードもファッションも、「自由で、なんでもアリ」ですよね。スケートボードの良いところは、上手くなるだけが全てじゃないこと。10年間同じ技ばかりを、しかも、その時の腕の位置とかを追求してもいいんです。実際同じ技でも、それぞれのアスリートで腕の位置は異なっていて、その上がり・下りを気にしている人は多いですね(笑)。ビデオを撮ったり、写真を撮ったりする文化があるスポーツなので。ファッションと似ていませんか?
競技に⼈⽣や⻘春を賭けている選⼿たちが、社会から多くのサポートを得られるような「⽂化」を育てていきたい。そういった思いから、「WWDJAPAN」は「ユニコーン・アスリート」企画を立ち上げる。彼らのストーリーをファッションで表現しながら、個⼈のキャリアやアスリートとしてのブランディングにつながっていくよう、ひとつのきっかけを与えられることを願って。
PHOTOS & VIDEO:ROBIN FURUYA
HAIR:HIRO TSUKUI
MAKE-UP:IKUMI SHIRAKAWA
STYLING & CREATIVE DIRECTION:MASAHIRO MURASE