ニューヨーク・ブルックリン在住。ストリートカルチャーに根ざした表現を30年以上にわたり展開し、カラフルな“モンスター”のキャラクターで世界中にファンを持つ。「ナイキ(NIKE)」「ステューシー(Stussy)」「ガール スケートボーズ(Girl Skateboards)」などさまざまなブランドと協業してきた。 PHOTO:MASASHI URA
ニューヨークを拠点に活動するケビン・ライオンズ(Kevin Lyons)は、数十年にわたりストリートカルチャーの最前線で活躍してきたアーティスト/デザイナーだ。「ナイキ(NIKE)」や「ガール スケートボード(GIRL SKATEBOARDS)」などのさまざまなブランドや、パリの伝説的ショップ、コレット(Colette)でのデザインやアートディレクションを担うかたわら、2000年代には自身のシグネチャーである“モンスター”を軸とした作品でアーティストとしても知名度を獲得。多くのブランドとの協働を通して、アートとポップカルチャーを横断する独自のスタイルを確立してきた。昨年11月に参加した「東京アートブックフェア 2024(TOKYO ART BOOK FAIR 2024)」、“モンスター”のキャラクターに隠された思い、そして東京のカルチャーについて、率直に語ってもらった。
WWD:頻繁に来日しているとのことですが、東京ではどんな活動を?
ケビン・ライオンズ(以下、ケビン):去年は、展覧会や「エクストララージ(XLARGE)」とのコラボレーションでポップアップショップもやったよ。原宿のワン ハラジュク “ケイ”(1/1 HARAJUKU “K”)など、ミューラル(壁画)も二つ描いた。1990年代から、年に2、3度は来日をしてきたけれど、コロナ禍の頃は全然日本に来れていなかったから、また東京とつながれたのは嬉しいね。
WWD:「東京アートブックフェア 2024(TOKYO ART BOOK FAIR 2024)」では本も発表した。
ケビン:「100モンスターズ」っていう、100体のモンスターのスケッチをまとめた本を作った。今までは写真や文章入りの本を出してきたけど、この本は純粋にドローイングだけで構成した、初めての本なんだ。
WWD:モンスターたちは、どこで描いてきた?
ケビン:昨年、ずっとニューヨークと東京を行き来していたので、移動中の飛行機とかホテルの部屋で描いていた。飛行機では一睡もできないから、16時間ずっと描きっぱなし(笑)。1回のフライトで40〜50体くらい描くこともある。ずっとライトをつけて絵を描いているから、周りの人たちにとっては迷惑な客だったかもね。
WWD:ドローイングだけの本を作ろうと思ったキッカケは?
ケビン:日本のブックフェアに参加するのが初めてだったから、何か特別なものを作りたかった。ただ作品を持ってくるだけじゃなくて、“ここで作った”っていう意味も込めて、印刷も製本もすべて東京でやったんだ。日本の印刷技術とクラフトはすごいと思ったよ。
WWD:キャリアの初期は主にグラフィックデザイナーとして活動していた。
ケビン:そうだね、もともとはグラフィックデザイナーとしてキャリアをスタートして、アートディレクターやクリエイティブディレクターもやっていた。でも、ある時から自分のキャラクター(=モンスター)を描き始めて、それが自然とアートの道につながっていった。
WWD:アーティストに転向する決断をしたきっかけは?
ケビン:はっきりした転機があったわけじゃないし、意図してアーティストになろうとしていたわけではないけど、パリのセレクトショップ、コレット(Colette)と、そのクリエイティブディレクターを務めていたサラ・アンデルマン(Sarah Andelman)の存在は大きかった。彼女たちが僕のキャラクターを気に入ってくれて、10年にわたってたくさんのプロジェクトを一緒にやってきた。それが世界中に広がっていくきっかけになったんだ。
WWD:モンスターを描く上で、インスピレーションの源は?
ケビン:「セサミストリート」で有名なジム・ヘンソン(Jim Henson)が手掛けてきた多くのキャラクターや「ガーフィールド」、あとは、キース・ヘリング(Keith Haring)のストリートアートが一番大きいと思う。子どもの頃に好きだったものや若い時に見てきたものが、そのまま形になっている感じがするね。あとは、バックスバニーやトゥイーティーなどが登場する「ルーニー・チューンズ」のキャラクターからも、無意識のうちに影響を受けていると感じるね。
WWD:モンスターに込めているメッセージはありますか?
ケビン:特別なメッセージはない。モンスターは僕自身のポートレートだと言われることもあるけれど、見てくれる人が感情移入してくれたり、「自分に似ている」って言ってくれたりするのが嬉しい。「これは自分が怒っているときの顔だ」とか「コーヒーを飲む前の顔だ」という具合にね。モンスターには性別も人種もないから、誰でも自分に重ねることができるんだ。結果的には「ポジティブであること」がテーマかもしれないね。
WWD:アーティストとしての活動とデザインの仕事のバランスはどうやってとっている?
ケビン:意識的に両方やるようにしている。ずっとキャラクターばかり描いていると飽きてしまうし、逆に企業との仕事ばかりではつまらない。だから両方の領域を行き来しているのが、僕にとっては理想なんだ。
WWD:若い世代と関わることも多い?
ケビン:スタジオでは若いデザイナーたちと一緒に仕事をしているし、少しでも彼らの刺激になれたらいいなと思っているよ。自分も彼らからは学ぶことが多いし、何より楽しい。彼らが自分の道を見つけて独立していく姿を見るのも、嬉しいことだよ。
WWD:東京については、どう感じていますか?
ケビン:もう何十回も来ているけど、やっぱり東京のキャラクター文化には毎回刺激を受けるね。看板とかお菓子のパッケージとか、街のどこを見てもキャラクターで溢れている。印刷や本の作りもレベルが高くて、日本は本当にビジュアルを大切にしている国だと感じるよ。
WWD:今後のキャリアの目標は?モンスターは今後も描き続ける?
ケビン:もちろん描き続けていきたい。最終的には、僕の名前が知られなくてもキャラクターが愛され続けてくれたらいい。ムーミンやミッフィー、ハローキティみたいに、キャラクターが“作者の手を離れて”生きていくことが理想。それが僕の目標だよ。自分の娘たちにも、僕が描いたモンスターが身近にいる世界を残していけたら嬉しいね。