PROFILE: 小木充/ウェルネスビューティーコンサルタント

小木充(以下、小木): ナチュラル・オーガニックブランドを取り巻く厳しい現状を話してきましたが、最終回では今後の明るい未来への展望を模索できるようなメーカーの話をしたいと思うんですが。
――:具体的にどちらですか?
小木:石澤研究所とスタイリングライフ・ホールディングスBCLカンパニー(以下BCL)です。
――:それはちょっと意外なチョイスです。
小木:この2社を見ていると、ナチュラル・オーガニックブランドを展開しているけれど、自社のPBも持っている、そこで自社の利益をしっかり確保しているから、新たなサステナビリティとか未来の面白いビューティに投資できるという考え方になるんじゃないか、と思うんです。いいブランドなんだけど埋もれちゃうくらいだったら、他にベースとなるブランドを持つことで、もっといい原料を探そう、クリーンビューティ寄りに作ろう、元々考えていなかったけれどこの思想にこだわってみようというふうに突き詰められる。
――:石澤研究所は「毛穴撫子」と「アルジタル(ARGITAL)」、BCLは「サボリーノ」「乾燥さん」が人気ですが、ナチュラル・オーガニック系って何かやっていましたっけ?
小木:フランスのZ世代向け「ゼットエマ(Z&MA)」とか、赤ちゃん用おもちゃから派生した「キリンのソフィー コスメティクス(SOPHIE LA GIRAFE COSMETICS)」、デリケートゾーンケアの「ウーマン エッセンシャルズ(WOMAN ESSENTIALS)」。実は前者2つはすでに終了していて、「エルバビーバ(ERBAVIVA)」も再上陸のタイミングで引き受けたものの、今はおもちゃ箱が取り扱っています。言い方が悪いけど、成功しているとは言い難い(笑)。でも「デリケートゾーン」とか「ベビーライン」とか、自分たちがPBでやりきれていない部分をオーガニックの輸入でやろうという姿勢を続けているんですね。これが大手企業やアパレル企業だと「オーガニックはダメ、1度も成功していないからやめよう」という判断になる。ところが年商100億円以上1000億円未満の中堅どころの会社でPBが何かしら売れていると、オーガニックもやり続けられるということを、BCLが証明していると思うんです。
――:そしてついに美容家電にも参入しましたね。8月5日発売のヘアドライヤー「マスター モイスト(MASTER MOIST)」の発表会に出席しましたが、確かにチャレンジング精神旺盛です。
小木:やり方がまずかったとかいろんな反省を経て、また数年後にやるわけです。諦めてない。石澤研究所が扱う「アルジタル」は派手さはなくすごく難しいブランドだけど、やっぱりやり続けているし、投資もしている。
――:創業者のフェラーロ博士に昨年インタビューしましたが、人智学から発想しているので、製品一つ一つにしっかりとした意味があることが分かる。でもその思想が簡単に消費者に伝わるとは思えないので、2008年の日本上陸からよく継続しているなあと思っていました。
小木:両者のPBで面白いのは、ともに日本の女の子のキャラクターを立てていること。「毛穴撫子」は昭和レトロな雰囲気、「乾燥さん」は乾燥守子という27歳の女性を設定。「毛穴撫子」は07年に誕生し、「お米のマスク」の発売が15年。「サボリーノ」は15年誕生していろんなシートマスクをシリーズ化している。驚くのは「お米のマスク」が23年で累計4億枚を売り上げていること。中堅企業で1SKUで4億枚売れるものを持っているって、やっぱりすごいですよね。BCLの「サボリーノ」もシートマスクがメインですが、こちらはシリーズ累計で10億枚を超えています。
――:面白い共通点ですね。素朴な女の子のキャラクターを使ったブランドがヒットする一方で、オーガニックブランドを地道にやり続けている。
小木:しかもどちらも企画担当は若い女性です。社長や幹部との距離がすごく近くて、どんどん提案ができて、失敗しても左遷がない。大手企業だとそこでバツが付いてしまうと、銀行と同じでなかなか次がないし、失敗しづらい空気があったりする。でもダメだったものは今ある在庫がなくなったらやめて、また違うことをやればいいじゃん、という空気があるんです。
――:それは“打たれ弱い”と言われるZ世代も萎縮することなくのびのび仕事ができるし、モチベーションにもつながりそうです。
小木:昔は大学生の就職希望先ランキングに必ず大手化粧品会社が入っていたけれど、今や資生堂すらトップ10に入らない。じゃあ化粧品会社を目指す場合どこなんだろう? 早くして企画をやりたい、生産をやりたい、ブランドマネージャーをやりたい、マーケティングをやりたいということであれば、こういう中堅を考えるのがいいんじゃないかと思いますね。アイデアがあればどんどん採用してくれるし、活躍できる場は多い。給料は大手企業ほどではないかもしれないけど、会社の将来性も期待できるし、社員数がそんなに多くないから役員になれるチャンスも考えられる。
――:確かに発表会を見ていてもみんなでやってる感が伝わってくるし、活気がある。逆に大手は守りに入っているような惰性を感じます。
小木:攻めない限り金のなる木に育つことはないですからね。「乾燥さん」では最近「乾燥体操」というのをTikTokでやり始めていて、なんでこんなの始めたの?と聞いたら、肌が乾燥する時期は売れるけどそうでない時期は売り上げが厳しく、そんな時期でもファンの人とブランドコミュニケーションを続けたい、そこで肌だけでなく心の乾燥にも着目して企画のメンバーが振り付けを考えた、と。企画から2カ月ぐらいで実現させたようで、そういう発案とスピード感は大手企業にはないですね。「サボリーノ」はテレビCMも展開していて、こうなると大手企業を目指す意味がますます分からなくなる。
――:大手だとまずはピッチから始めて広告代理店を選定して、ブランドカラーに合う有名人を選んでという流れになるので2年はかかるし、他社との違いは結局人選だけだったりします。そうなるとブランドの成長にも限界がある。
小木:この2社にはさらに共通点があって、どちらもグローバルで勝てているんです。「毛穴撫子」は07年に重曹スクラブ洗顔から始まりましたが、翌年には初の海外展開でロサンゼルスに進出。その後中国は、時のファウンダーがちゃんとやろうということで移り住んで会社を興し、そこで大ヒットしてアジアを席巻。台湾、香港、シンガポール、モンゴルでも人気です。BCLもグローバルに展開していて現在世界40カ国。アジアだけでなく欧州にも進出し、北欧、ポーランド、ドイツで強かったりします。
――:大手企業は硬直化してるし、韓国コスメは相変わらず人気だし。そんな現状の中、こういうバランス感覚の日本企業がもっと現れてほしいですね。
小木:ブランドポートフォリオの中でしっかり売れるPBブランドを持つことで、オーガニックブランドをやり続ける体力・投資力を確保できる。オーガニックコスメだけとかちょっとインナービューティとかだと、今の流れでは相当キツイはずなんですよね。韓国コスメブームは日本ではまだ火が消えていないけれど、欧米では落ち着きつつあるので、そこに入り込むチャンスがある。スピード感を持ってチャレンジすれば、明るい未来が見えてくると思うんです。