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ワークマン「戦線拡大」に勝算はあるか

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 ワークマンが戦線を拡大している。作業服から発展したアウトドアウエアで急成長した同社は、「高機能×低価格」の方程式を他のファッション、シューズ、キャンプ用品といった領域にも当てはめて次々に新事業に乗り出す。野心的な売上高目標を掲げて、カテゴリー大手企業にも挑戦状をたたきつける。強気の多角化路線は、それぞれのマーケットで台風の目になるのか。(この記事はWWDジャパン2022年6月27日号からの抜粋です)

 東京・池袋の商業施設サンシャインシティアルパ。「ザ・ノース・フェイス」「コロンビア」「メレル」といったアウトドアブランドが軒を連ねるエリアの一角に、6月16日、ワークマンによる「#ワークマン女子」「ワークマンシューズ」の併設店舗がオープンした。4月に開店した「#ワークマン女子」銀座イグジッドメルサ店に続く東京都心の店舗であり、売り場面積(2業態合計)は435㎡で首都圏の商業施設内店舗としては最大規模になる。売上高の目標は「#ワークマン女子」が4億円、「ワークマンシューズ」が1億5000万円で計5億5000万円。全国に944店舗(22年3月期)ある店舗の中で1位を見込む。

靴で売上高600億円めざす

 ここの目玉は関東初登場の「ワークマンシューズ」だ。ワークマンのシューズは建設現場や飲食店の作業靴を発展させたランニングシューズやラバーブーツなどが中心だったが、「ワークマンシューズ」ではホワイトカラー向けのパンプスなどを提案する。同社が「一般靴」と呼ぶ作業靴以外のシューズの売り上げは、22年3月期で前期比40%増だった。ポテンシャルが大きいものの、既存店の中ではスペースの確保が難しいため、独立させることにした。

 1号店として4月に開店したなんばシティ店(大阪)では、パンプス(2480円)とバレエシューズ(1680円)が人気を集めた。作業靴のノウハウで作られており、長く履いても疲れにくく、走っても脱げにくいという。

 新業態開発担当の島健太郎部長は「滑り出しは計画以上。(大阪・難波という)大都市への出店で、新しいお客さまとの接点が持てた。普段履きとしてはもちろん、いつもはスニーカーで通勤している女性が会社の“置き靴”としてワークマンのパンプスを買い求めるケースも多いようだ」と話す。

 実はワークマンの一般靴の売り上げ規模は、すでに100億円に達している。今期(23年3月期)は140億〜150億円の見通しで、同社によると現時点で靴小売業の6位につけるという。

 ワークマンらしいのは、最初に大風呂敷とも思える壮大な数値目標を掲げて、そこから逆算して戦術を組み立てることだ。

 今後、路面立地を含めて「ワークマンシューズ」の出店を加速し、10年後には200店舗態勢を目指す。そのために一般靴のアイテム数を現在の3倍以上に増やす。ワークマンの仕掛け人である土屋哲雄専務は「200店舗になれば『ワークマンシューズ』業態で売上高は300億円、ワークマン全体の一般靴まで含めれば600億円になる。将来はABCマート、チヨダ、ジーフィットの靴小売業3強に次ぐポジションにつける」と鼻息が荒い。

キャンプとゴルフの初心者ねらう

 ワークマンはプライベートブランド(PB)による多角化路線で急成長した。22年3月期のチェーン全店売上高は1565億円。作業服とカジュアルウエアの複合業態「ワークマンプラス」の出店を始める前の18年3月期と比較すると約2倍である(図表参照)。新業態の出店も増やしているが、それ以上に既存店(改装店舗も含める)に新しい客を呼び込んでいることが同社の強さだ。何十万単位の大量ロットで生産した商品を数年かけて売り切る作業服と同じビジネスモデルを、他のカテゴリーに応用し、高機能でありながら低価格を実現する。

 2月に販売を開始したキャンプ用品もその路線だ。小型テント4900円、シュラフ(寝袋)1500円、イス1780円など、「初心者向け5点セット」が1万円以下という破格のプライスが話題になった。はやりのキャンプを始めたいけれど、高価なギアに躊躇するという人たちをターゲットにした。ECにほぼ特化して、最寄りの店舗で受け取る販売形態をとる。同社ECサイトのレビューには、テントについて「このクオリティーでこのお値段」「エントリーモデルとしては最適」といった好意的な声がたくさん上がる。

 アウトドアウエアと共通の素材を用いるなど、同社のスケールメリットを生かして低価格を実現した。例えばテントにはマウンテンパーカ用の撥水素材や防虫素材が用いられ、シュラフには中綿ジャケット用の表生地や中綿を使っている。

 キャンプ用品の売上高目標は初年度で40億円、5年後で200億円に設定する。実現すれば、価格帯はまったく異なるもののキャンプ用品大手のスノーピークの売上高257億円(21年12月期)に迫る。

カジュアルSPAとの全面対決

 キャンプ用品に続き、やはり同じ発想で5月からゴルフウエアの販売にも乗り出した。ゴルフは始めるにあたり、クラブなどの用具にお金がかかる。ウエアも決して安くはない。コースに出るのも、それなりの出費になる。ワークマンはここも低価格によってエントリーユーザーに照準を合わせる。“耐久撥水ライトパンツ”1900円は発売1週間で2万枚をほぼ完売した。3年後に30億円の売り上げ規模を計画する。実現すれば、ゴルフウエアの市場では中堅ブランドになる。

 アパレルではアウトドアウエアのイメージが強いワークマンだが、現在の店頭ではカジュアルウエア寄りの商品が増えている。例えばこの春夏にヒットした撥水素材のプリーツスカート(1900円)は、晴れの日も雨の日も着用できる機能性とエレガントなファッション性が支持された。「#ワークマン女子」などの店頭では、「ユニクロ」とも競合するようなカジュアルアイテムが増えており、客層も広がっている。同社は中長期的には、現在の1.5倍の1500店舗体制に拡大すると表明している。手薄だった都市部への出店にも乗り出す。他のカジュアルSPAと全面対決するケースが増えることになる。

コスト高でも値上げせず 今期は「やせ我慢」の減益

 ワークマンはPBの本格化以降、右肩上がりの成長を続けている。コロナもどこ吹く風で既存店売上高の前年比伸び率も2ケタ増が当たり前だった。ただ、さすがにブームのような高度成長はいったん落ち着く。22年3月の既存店売上高は1.5%増に鈍化、今期(23年3月期)も1.5%増の予想だ。安定成長期に入ったといえるだろう。

 今期は久しぶりに減益を予想する。販売自体は安定しているものの、原料などのコスト高が同社を直撃する。土屋専務は「低価格はワークマンのお客さまとの約束。できる限り、やせ我慢を続ける。幸いキャッシュリッチな会社なのであまり心配はしていない」と説明する。長年続くデフレの局面が変わりつつある中、ワークマンのビジネスモデルも少なからず影響を受けることになる。

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