ファッション

高円寺でスカウトされて「バレンシアガ」のランウエイを歩いた奇跡のバンドマン

 10月初旬、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」2019年春夏パリ・コレクションのランウエイを歩いた日本人男性がSNSで拡散され、一躍有名人になった。彼の名前はプラズマ。現在活動休止中のネイチャー・デンジャー・ギャング(NATURE DANGER GANG以下、NDG)のメンバーで、膝まで伸びた長髪と口元のグリル(歯に装着するアクセサリー)が代名詞のバンドマンだ。5月に高円寺で「バレンシアガ」にモデルとしてスカウトされた数カ月後に、パリコレのランウエイを歩いた、ドラマよりもドラマチックな夢物語をプラズマ本人が語る。

WWD:まず、プラズマさんは何者か教えていただけますか?

プラズマ:NDGが2017年に休止して、今はギャグ(g.a.g)というグループのメンバーです。高校の頃からヒップホップに傾倒して、大学進学をきっかけに上京しました。地元は大分の田舎なんですが、同調圧力が強くてイヤでしたね。本当の自分を出すと狭い世間体から親にも迷惑がかかっちゃうし……。上京して学生時代に同級生と組んだヒップホップのグループが音楽のキャリアのスタートです。いくつかグループで活動しましたが、メンバーの結婚などを機に自然消滅。その後は、別のバンドでベースをやったりしていました。

WWD:どんなバンドですか?

プラズマ:ライブハウスで知り合った人に「ベースをやってくれないか?」と急に誘われたんです。経験がないので断ると「持ってるだけでいいから」と言われまして。そのままノリでスタジオに行ったんですが、弾けないので立っていると、簡単に演奏できるからとベースの弦を2本切っちゃったんです。聞いたことのない2弦ベース。「これでなんとなく立ってるだけでいいから」と。そのバンドも浮世離れしていましたね。当時は暇だったし、面白そうなので参加することにしました。

WWD:バンド名は?

プラズマ:ザ・ワメキ(the wameki)というバンドで、1年半くらいやってました。とにかく無茶苦茶で、ギター、ベースとドラムの構成でドラムはバスドラとスネアとシンバルの3点しかない。リーダーにそそのかされて自腹でオーストラリアへツアーにも行きました(笑)。

WWD:ワメキのようなパンクって海外の方が評価されたりしますよね。

プラズマ:そうですね。ただ、海外ツアーで借金もできてしまい結局、それが理由でやめちゃいました。でも、得るものは大きかったです。自分が外国人のウケが良いことに気づきまして。英語は一切話せませんけど、なぜかかわいがられて、愛されていると感じる機会も多かったです。居心地がよくて海外への憧れが強くなりました。その後、NDGのオーディションを受けました。人生の転機だったと言えます。

WWD:プラズマさんが加入当時のNDGはどんなグループでしたか?

プラズマ:全員狂人だと思っていたのでとにかく怖かったです。それぞれ自分を持っていて賢い人が多かったですし、小中高と極端に友達の少なかった自分にとってNDGでの活動は憧れた学生生活のようで、青春のやり直しと言っても過言ではなかったです。特にファッションや音楽、異性の趣味が合ったセキ(SEKI)とぼく脳でギャグ(g.a.g)結成に至ったのは自然な流れでしたね。

WWD:高円寺で「バレンシアガ」のモデルにスカウトされたのは、どんなタイミングだったんですか?

プラズマ:5月25日です。NDGがクラウドファンディングで作った写真集の受け渡しイベントがあって、高円寺駅から出てすぐの焼鳥屋の前で声をかけられたんです。横断歩道で信号待ちをしていると、向かいにモヒカンとドレッドの女性2人とおかっぱの男性という強烈に派手な外国人3人がじーっとこっちを見てるんですよ。(ファッション)スナップと思っていたんですが、話すと「英語は話せるか?」とか「バレンシアガ」という単語が聞こえたので、「I like!」とか「Very expensive!」と返してました。そのうち「ショーに興味ある?」みたいな話になり、いつの間にか写真も撮られて。そのうちのモヒカン女性がバキバキに割れたスマホを取り出して、メールアドレスを交換しました。後でわかったのですが、それがキャスティング・ディレクターのドラ(ディアマント、Dora Diamant)でした。

WWD:正式なオファーはスカウトから何日後でしたか?

プラズマ:絶対に詐欺だろうと思っていましたが、ドラから6月13日に「身長とバストやウエスト、足などのパーツのサイズを教えてほしい」とメールがあったんです。その後、別のスタッフからショーのスケジュールと「そのスケジュールでパリに来られるか?」という確認のメールが届いたり、細かいやり取りが30〜40回くらいありましたね。何度か担当が代わって、「健康診断書を送ってほしい」とか、「痩せすぎだとランウエイは歩けない」という主旨のメールもありましたね。

WWD:その後、晴れて契約に進んだんですか?

プラズマ:契約は「バレンシアガ」の現地オフィスで交わしました。“バックステージをSNSにアップしてはいけない”などの内容だったようですが、僕は英語がわからないし、日本語の説明もない。パリに行ったら日本語を話せるスタッフが1人くらいいるだろうという考えが甘かったですね。

WWD:パリに着いてからショーまでどんなスケジュールでしたか?

プラズマ: 9月24日にパリに着いて、翌日からフィッティングが始まりました。女性はヒールを履いてウォーキングのテストもあったようです。その後にキャスティングを何度か繰り返したんですが、日を追うごとにモデルが少なくなっていきました。基準はわからないですが、キャスティングは1人ずつのテストで、自分もいついなくなるかわからない状況が続き不安でした。

WWD:モデルを集めて、ショーに向けての全体説明や指示はなかったんですか?

プラズマ:なかったと思います。あったかもしれないですが、覚えていないのと、英語なので理解できてなかったですね。ウォーキングのレッスンもなくて。初めてウォーキングをしたのはデムナ(ヴァザリア、Demna Gvasalia)と会った日ですから。スタイリストから「洋服を着てとりあえず歩いて」と。

WWD:デムナとはどんな会話を?

プラズマ:会話というか、普通に歩いたら「パーフェクト」と(笑)。

WWD:現実に「バレンシアガ」のランウエイを歩いた感想は?

プラズマ:本当にもう、何というかまるで夢のような時間でした。10分弱のランウエイで、モデルがフォーカスされる時間は一瞬ですが異常に長く感じました。しかも、アバンギャルドな映像に酔ってしまって自分がどこを歩いているのかわからなくなる感覚もあって。でも最高に気持ちよかったです。ランウエイは洋服を見せるのが目的ですが、よりよく洋服を見せるためには、自分がかっこよくなければならない。もともと照れ屋なのですぐにふざけてしまうケースが多いんですが、公認でかっこつけられる場所ですし、腹を決めて一生で一番かっこつけようと。音楽も素晴らしかったです。

WWD:グリルの評判はどうでしたか?

プラズマ:フランスでもまだ浸透していないのか、結構驚かれました。ただ、15年切っていない髪の長さにも「アメイジング」と言われたので、どちらが珍しかったのかはわからないです。ちなみに個人差があると思うのですが僕のDNAの限界でこれ以上は伸びないですね。

WWD:ランウエイの出演後にはどんな反響がありましたか?

プラズマ:ツイッターが2万リツイートを超えました。すぐに消しましたけど……。ただ、自分のファンで「バレンシアガ」のフォロワーは少ないので、彼らの友達で服飾関係の方からは、連絡をいただいたりしました。拡散されすぎると批判もあるだろうし、驚きというかちょっと怖かったです。スマホの画面には何百件とお知らせ通知が表示されたり。

WWD:ジャスティン・ビーバー(Justin Biever)のCMのスマホ画面みたいにタタタタタと。

プラズマ:そうです。スクショしようと思ったんですけど、テンパってしまって撮れませんでした。ショーでは他に有名な日本人のモデルもいましたし、自分に大きな反響があるとは思っていませんでした。全く実感がありませんでしたね。

WWD:出演時のギャラはいくらだったんですか?

プラズマ:詳しくは覚えていないですけど、十数万円です。まだ振り込まれていませんが(笑)。渡航費、滞在費、食費などは一切かからず、滞在中にお小遣い的に現金を手渡しでもらっていました。

WWD:ドタバタの数カ月を総括すると?

プラズマ:スカウトからランウエイを歩く直前までずっと不安でした。誰に話しても信じてもらえないし、詐欺かドッキリくらいに思ってました。何カ月も不安な気持ちで過ごしたのはつらかったけれど、多くの人に自分の存在を知ってもらえましたし、このインタビューもランウエイに出たおかげですから、ありがたいです。今回は外国の方に気に入られてこのような貴重な機会をいただいたので、可能性があるなら海外拠点もありかなと。日本へは逆輸入みたいな感じが理想ですね。

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