ファッション

ジェイデン・スミスも旗振り 若者がサステイナビリティーについて考えるきっかけ作りの重要性

 ファッションは環境負荷の大きな産業だと言われている。繊維の製造段階から製品の生産、輸送、最終的な廃棄のための焼却に至るまで多くの温室効果ガスを排出しているだけでなく、有害化学物質による環境汚染やマイクロプラスチックによる海洋汚染など業界が自然に与えている影響は計り知れない。そんな中、近年アパレル企業やブランドは明確な対応を求められており、従来生産過程で大量の水を使用してきたデニムメーカーを筆頭に環境に配慮した取り組みを始めている企業も増加している。

 実際、ドイツ・ベルリンで開催されたファッションイベント「ブレッド&バター(BREAD&&BUTTER)」でも、サステイナビリティーをテーマにしたブランドのブースや企画が数多く見られた。20~30代の一般消費者をメーンターゲットにしたこのようなイベントで、サステイナビリティーを重点的に扱う意義は大きいと感じる。それは、これからの消費の中心となっていく彼らの意識を高め、理解を深めることなしに、持続可能なモノ作りはビジネスとして成り立たないからだ。そのために、まず身近にあることとして、それぞれができることを考えるきっかけを作ることは非常に重要だろう。ここでは、同イベントの中でも印象的だった「ジースター ロゥ(G-STAR RAW)」と「ティンバーランド(TIMBERLAND)」の取り組みと、同イベントでのパネル・ディスカッションの内容をレポートする。

G-STAR RAW

 オランダ発のデニムブランド「ジースター ロゥ」は、サステイナブルデニムのカプセルコレクションを共に製作したジェイデン・スミス(Jaden Smith)らを招いてパネル・ディスカッションを開催した。次代のオピニオンリーダーとして影響力を持つスミスが登壇するとあり、開始前から会場は多くの若者であふれた。

 アドリアーナ・ガリジャセヴィック(Adriana Galijasevic)=デニム&サステイナビリティー・エキスパートが「イノベーション(革新)はわれわれのDNAの核。デニム業界のゲームチェンジャーとして、サステイナビリティーを通してイノベーションに段階的に取り組んできた」と話すように、「ジースター ロゥ」は数あるデニムメーカーの中でも早くからサステイナブルなモノ作りを進めてきたブランドの一つ。2006年のサプライヤーの行動規範公表に始まり、オーガニックコットンの使用(20年までに100%を目指す)、サンドブラスト加工の廃止、有害化学物質の削減(20年までにゼロを目指す)、生産背景の透明化など、年々取り組みの幅を広げている。「重要なのは、あらゆる産業、そして一人一人ができることを考えることだ。自然自体はある意味、ゴミを生み出さない。われわれもどうすれば自然と同じように無駄のない循環型の経済を作れるかを考えていかなければいけない」。

 一方、ファッションブランドにサステイナブルなソリューションを提案するザ・ベア・スカウツ(THE BARE SCOUTS)のディオ・クラザワ(Dio Kurazawa)共同創業者は、「これまで何十年も成功を収めてきた従来型の老舗ブランドを社会的責任のあるブランドへと変えるのは簡単ではない。ビジネスの方向性をサステイナブルに変えるというのは、ビジネスモデル自体をまったく異なるものに変えること。そして、サプライチェーンや事業構造を新たに整えるのにも時間がかかる」とその難しさを説明。「ただ、われわれに全てを与えてくれる母なる地球や環境のことを一番に考え、たとえ歴史あるブランドであっても責任ある行動への一歩を今踏み出すべきだ」と続ける。

 また、自身の手で100%リサイクル可能なボトルを使ったウオーターブランド「ジャスト ウォーター」も立ち上げたスミスは、ただ見ているだけから実際に行動を起こすに至った理由を次のように語る。「『ファインディング・ニモ』や『スポンジ・ボブ』を見たり、実際に水族館で魚を観賞したり、子どもにとって海は非常に近く大きな存在だ。そんな愛する場所がプラスチックによって汚染されていることを知って、ただただ悲しかった。それがきっかけで何か自分にできることはないかと考え、ペットボトルの代替品になるものを提案しようと思った」。そして、観客へのアドバイスを聞かれると、「“アウェアネス(気づくこと、知ること)”が全てだと思う。自分の周りで起こっていることや、その背景に興味を持ち、自ら学ぶことが重要だ」とコメント。インドネシア出身のモデルでアクティビストとしても活動するファーラニ・パワカ・エンペル(Fahrani Pawaka Empel)も、「意思のある賢い消費者になること、自分が手にするものがどうやって作られたのかに疑問を持つことが大切。すぐに劇的な変化が起こるわけではないけれど、一人一人が習慣づけることでそれがライフスタイルになり、大きな変化につながるはずだ」と話す。

TIMBERLAND

 米アウトドアブランド「ティンバーランド」は2018-19年秋冬から、サステイナブルな服作りを追求する英国人デザイナーのクリストファー・レイバーン(Christopher Raeburn)と協業している。会場のブースでは、10月末に発売予定の初のカプセルコレクションの全貌を披露した他、都会での植樹のためのチャリティー活動「マイ・プレイグリーン(MY PLAYGREEN)」の一環としてのアクティビティーを実施。最低5ユーロの募金で、Tシャツのカスタマイズやパラシュート生地を使ったトートバッグ製作のワークショップ、植物のアレンジメントが楽しめるとあって大盛況だった。また、レイバーンはパネル・ディスカッションにも登壇。オンラインメディア「ハイスノバイエティ(HIGHSNOBIETY)」のジャン・ミシェル・クアミー(Jan-Michael Quammie)=スタイル・ディレクター進行の下、 “REMADE(リメイク)”“RECYCLE(再利用)”“REDUCED(削減)”という信念を核にしたクリエイションへの思いを語った。

 サステイナブルなファッションに取り組み始めたきっかけについて、レイバーンは「ロンドンの王立芸術大学で学んでいるときから素材やその機能性に引かれ、もともと存在する服をいかに現代的なものに作り変えられるかということに興味があった」とコメント。現在コラボを行う「ティンバーランド」についても「私が学生だった頃から(環境に配慮したモノ作りに取り組む)“アースキーパーズ”の精神で知られていて、責任のある方法で成長を目指す姿勢に引かれていた。『クリストファー レイバーン』の信念に通じる部分も非常に多い」と話す。実際、今回のコレクションで使用している素材は、フリーマーケットやビンテージショップで集めた1980年代~2000年代初期の「ティンバーランド」のアーカイブに加え、オーガニックコットンとリサイクルPET(ペットボトルを再利用した素材)のみ。アーカイブは解体して、まったく新たなアイテムへと作り変えた。また、「リサイクルPETを使うことは、一度役目を終えたものを再び役立つものへと変えること」だと説明する。

 ファッションにおけるサステイナビリティーの現状については、「責任あるデザインという点で、服でも食べ物でもプロダクトでも “生産の背景”に対する人々の関心が高まっている今という時代に非常にワクワクしている。また、若い世代がプラスチックの海洋汚染などの議題に高い関心を抱いていることは、これからの消費の仕方を変えていくうえで良い傾向だと思う。しかし、われわれが今立ち向かおうとしているのは、非常に大きなチャレンジだ。だからこそ、皆一人一人が自分にできることを考えることが大切。いかに日々の生活でプラスチックを使う量を減らすか、基本的に無駄なモノを買わずにより良いものを選ぶかなど、個人でも責任ある決断を取ることができるはずだ」と呼びかけた。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。

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