ビジネス

出版業界激動の1年を振り返り、来年は“飛躍の年”になるか

 2017年は雑誌・メディア業界にとって激動の1年だった。直近で話題となったのは、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下、CCC)が主婦の友社を買収したという報道だろう。CCCはすでに「美術手帖」を手がける美術出版社やアニメに強い徳間書店、趣味系の雑誌をかかえるネコ・パブリッシングを傘下に持つ。出版事業におけるコンテンツ制作から販売までを自社で一気通貫で手掛けることで、余計な中間コストをなくし、アマゾンなどの新興勢力に対抗する狙いがあるとみられる。海外ではニューヨークの大手出版社タイム(TIME INC.)が放送・出版事業を行うメレディス・コープ(MEREDITH CORP.)に28億ドル(約3108億円)で買収されたことも大きな話題となったが、存続が危ぶまれる老舗出版社を中心とする組織再編は来年以降も続くだろう。

 国内の大手出版社は今年、一斉に“デジタルシフト”を加速させた。小学館はディー・エヌ・エーと共同でMERYを設立。16年末に記事転載問題などを理由に閉鎖に追いやられたキュレーションサイト「メリー(MERY)」を復活させた。講談社もデジタルガレージと合弁会社DKMediaを立ち上げ、新キュレーションメディア「ホリックス(HOLICS)」をローンチ。続けて楽天と組んだEC連動型のウェブマガジン「BeViVi」を創刊した。

 紙媒体にとっては、依然厳しい状況が続いている。祥伝社の「ジッパー(zipper)」や高校生をターゲットにした雑誌「HR」、ジェイ・インターナショナルの「ケラ!(KERA)」、ベストセラーズの「ストリートジャック(STREET JACK)」、三栄書房の「ヴィカ(vikka)」「サムライ イーエルオー(Samurai ELO)」などが雑誌休刊を発表。加えて、講談社の「フラウ(FRaU)」「おとなスタイル」が定期刊行を終了した他、文化出版局の「装苑」も隔月刊化するなど、紙媒体縮小・デジタルメディア強化という流れがピークを迎えている。

 そんな中で、注目すべき新たなビジネス・提携も多く生まれた。集英社は5月、自社媒体の専属・読者モデルを活用したインフルエンサー事業を発表した。SNSで企業の商品についてのPR投稿を依頼するなど、インフルエンサーを企業に斡旋する役割を担う。ハースト婦人画報社も集英社などの出版社24社と電通、配信サービス会社の富士山マガジンサービスと組んで、中国語圏での雑誌のデジタル配信を開始した。台湾を中心に展開するデジタル雑誌の読み放題アプリ「Kono電子雑誌」内に設けられた日本雑誌専門コーナー「日本雑誌館」で全58誌を配信し、出版社は閲覧数に応じて収益を得られる仕組みを構築した。また、日之出出版とマガジンハウスは販売に関する業務提携を締結。10月から日之出出版の全ての出版物の販売業務をマガジンハウスが引き受けている。

 そもそも、デジタルシフトという潮流は、消費者のニーズに出版社が追いつこうとする必然的な流れだ。だが、これは“雑誌が売れない”という課題に対する根本的な解決方法にはなっていない。もちろん、デジタルに重きを置くことは正しい判断だが、コンテンツ制作・編集・流通・販売という既存経路だけでない新しいビジネスモデルを確立することも今後の出版業界には不可欠なことだと思う。そういった意味で、前述したさまざまな取り組みには新しい可能性を感じた。

 インターネットで古本の買取・販売を行うバリューブックスが提唱した「バリューブックス・エコシステム(VALUE BOOKS ECOSYSTEM)」もその一つだ。同社が古本として買い取った本が売れた場合、出版元に利益の一部を還元するというのだ。もちろんいろんな規制がある中で、一筋縄ではいかないビジネスモデルだが、二次流通が出版業界に利益をもたらすという構図は、ファッション企業における“シェアリング”ビジネス同様に大きな可能性を秘めているように感じる。来年は既存流通にとらわれない出版業界の新しいビジネスモデルが数多く生まれるとともに、先駆的な取り組みの成果が出始めるであろう“出版業界飛躍の年”になることを切に願う。

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