記憶に新しい人も多いだろう。16歳の活動家グレタ・トゥーンベリが大人に向かって、「(経済成長などのおとぎ話を語り続けるなんて)よく、そんなコトができるわね?」と涙まじりに罵倒した魂の訴えだ。子どもの、鬼気迫る表情を見て“ただごとでないこと”を感じ取りつつ、「DARE(この場合は、『どうして〜〜できるの?』という意味の助動詞)」という単語の存在を知った人も多いかもしれない。(この記事はWWDジャパン2019年12月23日号からの抜粋です)
「DARE」は動詞でもあり、「勇気を持って〜〜する」という意味もある。動詞としての「DARE」、そして「破壊(Disrupt)」「行動(Action)」「冒険(Risk)」そして「起業家(Entrepreneur)」という4つのキーワードの頭文字を組み合わせたキーワードとして用いているのが、LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(以下、LVMH)だ。
今年も多くのニュースを振りまいたラグジュアリー・コングロマリットは11月、2017年にスタートした社員の才能発掘や起業家マインド醸成プログラムの「DARE」を日本で開催。アジア環太平洋地域から、さまざまなブランド・さまざまな業種の社員約60人が集まり、リテールにおけるイノベーションというテーマを通して、チームワークと多様性、クリエイティビティーとイノベーションの促進に挑んだ。
形ばかりのプログラムではない。LVMHは、本気だ。その覚悟は、「DARE」のさまざまな面から垣間見れた。例えば、APACに散らばる6000人以上の従業員から60人を選んで東京に召集、全3日間のプログラムにチャレンジしてもらう費用は当然ながら、青山一丁目のシェアオフィスを貸し切り、個々のアイデアは「DARE」のために開発したアプリに格納。60人のピッチは2人のイラストレーターがイラスト化して、プログラム中に他と比較・考察したりブラッシュアップに迷ったら原点に立ち返ったりの役割を果たす。成果のためなら、費用は覚悟の上だ。
そしてプログラムは、基本的に3日間とも見学自由。60から12に絞り込んだアイデアを最終ジャッジするのは、映画監督の安藤桃子や、NHKワールドの高雄美紀、身近なところでは「ロエベ」出身の水口貴文スターバックス コーヒー ジャパン最高経営責任者やYOON「ディオール」メンズ・ジュエリー・デザイナーら、いずれも外部の有識者。アイデアのブラッシュアップに際しては、慶應義塾大学や青山学院大学、文化ファッション大学院大学、ここのがっこうの生徒が各チームに散らばった。プログラムの主旨でもある多様性に満ちあふれた参加者がそろった。
プログラムも、数人のスタッフが参加者の笑いやコール&レスポンス、相互のコミュニケーション促進に努めながら、オープンマインドなムードの中で進む。あらゆるスタッフには、自分の名前をプリントしたTシャツが配られ、いわば終始自己紹介している状態。この空間で「孤立」なんて有り得ない。とはいえ12のチームに分かれた参加者は、ブラッシュアップに挑むアイデアが起業家らのメンターに否定されたり、差し戻されたりすると、意見を戦わせるがあまりケンカしたり、泣いてしまったりの“紆余曲折”を経て、アイデアとともにチームにも磨きをかける。
ゆえにフィナーレは、大団円だ。表彰されれば抱き合って喜び、されなくても受賞者に駆け寄って栄誉を称える。3日間のプログラムに参加した女性に話を聞くと、「普段の仕事をしている限り、まず会うことのない(自分とは違うブランド、国、そして職種の)人たちと、こんなときを過ごせたことに感謝したい」と言う。最終日のチームワークと多様性は、一昨日のそれとは比べものにならなかった。
肝心のアイデアは、社内のオンライン版ラーニングカフェというスタッフを対象とした現実味を帯びたプランから、売れ残りのレンタルや二次流通への参入、各メゾンの創業者の自宅を疑似体験できるAR(拡張現実)というエンドユーザーに向けた奇想天外に近い“夢”まで多種多様だったが、アイデアのいくつか、もしくはその構成要素は、実際のビジネスに生かされる。上述の参加者も、「この後は、アイデアを実現させなくちゃ。(チームが表彰された)今日はゴールではなく、スタート」と新たな未来に目を輝かせる。日々のルーティーンを“こなしている”だけでは、決して手に入らなかったクリエイティビティー&イノベーション、充足感だろう。
“つまみ食い”ではあったがLVMHの「DARE」に3日間立ち会ったら、自分にも“勇気”のようなものが芽生えていた。LVMHのようにイノベーティブな組織を作りたい、話を聞いた彼女のようにワクワクしながら働きたい。そのためには自分こそが殻を破り、前に向かって一歩踏み出さなければ。LVMHの「DARE」が、私の「勇気を持って前に進む」という意味の「DARE」を育んでくれた。今は2020年といわれる5G時代の到来に向けた動画制作のほか、成長しつつ専門性が増してしまったことで維持しづらくなっているチームワークの再構築に情熱を傾けている。
アナタは来年、勇気を持って、何をするのだろうか?「How dare you?」。来年は、これを問い、追い続ける1年だ。