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20年目でもブレない「サカイ」 2020年春夏メンズは「世界に暮らす全ての人のために」

 「サカイ(SACAI)」は今年で設立20年目を迎えた。2009年にメンズラインをスタートし、11-12年秋冬コレクションから発表の場をパリに移し、今ではパリメンズの目玉ブランドの一つとして定着した。グラン・パレのギャラリー内を会場にショー形式で発表した2020年春夏メンズ・コレクションのショーにも、多くのセレブリティーやバイヤー、ジャーナリストらが駆け付けた。

「サカイ」2020年春夏メンズコレ来場者は「ナイキ」コラボばかり ベストスニーカーを華麗に履きこなす18人

 メンズとウィメンズに加え、母親としての顔も持つデザイナーの阿部千登勢は、どこからそんな力が生まれるのかと不思議に思うほど小柄で華奢な女性だ。最終リハーサルを終えるとハットのかぶり方やシューズの乱れなど、スタッフに的確に指示を出していた。「サカイ」の洋服に身を包むスタッフらは互いにルックの最終チェックをしたり、洋服にスチーマーをかけたりと手慣れた様子で本番までの時間を過ごす。ファーストルック(本番直前にバックステージで行われる撮影)では、阿部デザイナーが一人ひとりのモデルに笑顔で言葉をかけながら、ルックの最終チェックを行い、本番を迎えた。

「ナイキ」コラボの新色も登場

 今季の着想源となったのは、米映画「ビッグ・リボウスキ(原題:THE BIG LIBOWSKI)」だという。同映画は、 同姓同名の大金持ちと間違われて誘拐事件に巻き込まれる男の騒動を描いたコーエン兄弟製作によるコメディーだ。主人公の見解を引用しながら、阿部デザイナーは“結ぶ(Tie Together)”ことに着目した。大小の異なるシルエットのタキシードシャツは片方をステッチで結び、二重になったテーラードジャケットは内側に付属するベルトで前身頃を結んで絶妙なシルエットを生み出す。タキシードやグレースーツ、トレンチコードなどフォーマルなアイテムを「サカイ」流ハイブリッドの手法で進化させた今季は、ボウタイのディテールが多用された。「The rug really tied the room together(あのラグは部屋にすごく合っていた)」という劇中のセリフは、アートディレクターのファビアン・バロン(Fabien Baron)によるグラフィックでTシャツにプリントされた。アメリカのパンツブランド「グラミチ(GRAMICCI)」とのコラボレーションによるクライミングパンツは、“結ぶ”アイデアによって可動域を最大限にするよう設計されている。ショー終盤は、アロハシャツブランド「サン サーフ(SUN SURF)」とのコラボレーションによるトロピカルな柄のニットウエアやドレスが登場した。来場者らはルックの足元に多く集まり、「ナイキ(NIKE)」とのコラボスニーカーの新色に目を光らせていた。

 ショーを終えると、少し涙目になりながらスタッフらと抱き合い感謝を伝える阿部デザイナー。しかし、ほっと一息つく暇もなく、バックステージへとやって来た著名なジャーナリストらに囲まれて取材の対応に追われていた。「男女だとか国籍だとか何も分類せず、世界に暮らす全ての人に向けたコレクション。フォーマルやカジュアルとも意識しておらず、とにかく私が個人的に好きなアイテムを集めました」とコレクションについて語る。「ヴォーグ ランウェイ(VOGUE RUNWAY)」ジャーナリストのエイミー・ヴェルナー(Amy Verner)は「毎シーズン、彼女がどのように“サカイ化”させるのか、期待せずにはいられない。今季は、異なるアイテムを衝突させたハイブリッドではなく、MA-1やテイラードジャケット、ストライプシャツなどワードローブで見慣れたアイテムを結び付けており、彼女が口にした『全ての人に向けたコレクション』という言葉がとても理にかなっている」とコメントした。

 20年前にわずか5型のニットウエアでデビューした「サカイ」は今、さまざまなブランドからラブコールが絶えず、商品のバリエーションも幅広くなっている。拡大する会社の規模に伴い彼女を取り巻く環境が変わっても、「サカイ」のDNAがブレることはない。デザインの複雑さは増し、価格レンジも広がったが、全ての商品に“サカイらしさ”は宿っているのだ。チームや顧客との結び付きを強め、これからも「サカイ」の歴史は紡がれていく。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける