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H&M基金が香港の研究所と混紡糸の分解再生に成功 循環型に大きく前進

 H&Mと、創業家が設立した非営利団体のH&Mファンデーションは9月8日、香港でアジアメディア向けにサステイナビリティー・カンファレンスを行った。H&Mファンデーションは、H&Mグループのバリューチェーン領域を超えて、社会や地球などにポジティブな効果をもたらす取り組みを行う独立組織だ。投票で選ばれた「教育(EDUCATION)」~全ての子ども達が良質な教育を受ける機会、「清潔な水(WATER)」~世界中での清潔な水と衛生状態の確保、「平等(EQUALITY)」~全ての人の平等性の促進、「地球保護(PLANET)」~地球を保護し私たちの生活水準を守ること、の4分野にフォーカスして活動している。

 その一環として、テキスタイル(繊維製品)リサイクルの新しい技術開発に向けて、16年には香港繊維アパレル開発センター(以下、HKRITA)とパートナーシップを締結。混紡布地(混紡糸製品)の分類と、リサイクルを実現させるテクノロジーのリサーチと開発に着手し、実験に成功。2030年までに実用化させると発表した。目指すは、「“サーキュラー・エコノミー(循環型の経済)”の構築だ」とH&Mファンデーションのエリック・バン=プロジェクト・マネジャー。

 日本は少子高齢化で人口は減少傾向にあるが、グローバルに目を転じれば、世界人口は15年の73億人から30年には85億人へと16%増加。ファッションの年間消費量も6200万トンから1億200万トンへと65%増加することが見込まれている。天然資源が減少する一方で、ゴミの山が量産されることは間違いない。HKRITAによると、香港では毎日、固形廃棄物の3%にあたる306トンの繊維廃棄物が排出されており、うち、半分以上が埋め立て廃棄場に捨てられているという。このペースが続けば、2020年までに現在の埋め立て地はキャパオーバーになることが予想されている。中国でも、17年末までに再利用が不可能な“廃繊維材”の輸入を禁止。東アフリカ共同体(EAC)でも、19年までに使用済み衣料品の輸入を禁じることが決まっている。

 特に衣料品の中で、ポリエステルとコットン(綿)は最も需要の多い繊維で、15年に世界で生産された繊維のうち、55%がポリエステルで、28%がコットンだったという。各々は比較的簡単に再生できる素材だが、これらがミックスされた混紡糸については、再生技術が確立されておらず、埋め立て地に捨てられるしか方法がなかった。

 今回のプロジェクトでは、熱水処理加工と、バイオ処理加工により、繊維廃棄物のリサイクルが可能になる技術を開発。日本の信州大学と、愛媛大学も協力している。

 熱水処理では、ポリエステルとコットンの混紡糸を特殊な水分状況下に30分置くことで、綿繊維は分解されてセルロースになり、ポリエステルは95%以上が品質を損なうことなく直接再使用ができるというものだ。この分離プロセスでは、熱と水、そして、5%以下の生化学物質しか使用しないという利点がある。石油化学原料から新たにポリエステルを生産するのと比較して、エネルギーの消費も抑制できる。実用化に向けて、最適な温度や時間、薬品の種類など最も効率的な手法を研究中だ。

 生物学的手法では、微生物や酵素を使ったバイオ処理加工によって、繊維廃棄物をリサイクルするという、環境にやさしい方法を採用。コットンは70%以上の発酵性グルコースとなり、天然界面活性剤やバイオ燃料、プラットフォームケミカル(基礎化学製品)として再活用ができる。一方のポリエステルは、再生PET繊維となり、チップ化の後、紡績すると再び繊維製品を作ることができるというものだ。

 今後、ますます使用量が増えると予想されるポリエステル混紡糸だが、ファッション業界の素材調達・企画・製造・販売・回収というサイクルが大きく変わる可能性がある。H&Mファンデーションはライセンス権などは持たず、業界全体で利活用できるようにしたいという。世界規模での繊維のエコシステムとして注目を集めそうだ。

H&Mは2030年までに100%循環型素材へ

 一方、H&Mはグループのバリューチェーンの領域内でサステイナブルな取り組みを行っており、「2030年までに100%循環型素材に切り替えること」を改めて強調した。発表した「循環型素材の供給戦略」では、優先順位の高い素材として、「オーガニック繊維」「リサイクル繊維・素材」「テンセル」「ベター・コットン」「その他のサステイナブルな素材」を挙げた。特に5つの削減(限られた天然素材の利用、廃棄物・埋め立て地、エネルギーの利用、二酸化炭素と化学物質の放出、天然繊維に使用する水・土地)にフォーカス。上述の素材を意識して使うことで、リサイクルがしやすく、循環型にしやすい商品作りをしていく。

 16年現在、全商品のうち、リサイクルまたはサステイナブルな素材は26%で、これを30年には100%に引き上げる。また、コットン商品については、リサイクルまたはサステイナブルなコットンのシェアは43%で、20年までに100%に切り替える意欲的な目標を掲げている。

 古着の回収については、13年の開始時には年間3000トンだった回収量が、16年には1万5888トンに増え、累計3万9000トンとなったと発表した。これを年間2万5000トンまで引き上げるのが2020年までの新たな数値目標としている。古着の回収サービスから得た余剰金は、H&Mファンデーションに寄付し、グループのサプライチェーンを超えた、社会的なサステイナビリティ活動を促進していく。