ベルギーの老舗バッグブランド「デルヴォー(DELVAUX)」が、最新コレクション“クラフト ビヨンド ボーダーズ(CRAFT BEYOND BORDERS)”を発表した。その名の通り、「デルヴォー」のクラフツマンシップが、世界各地のクラフツマンシップと出合うプロジェクトだ。
プロジェクトの始動の地には日本を選んだ。日本の金継ぎや帯地、ベルギーのフランドル地方に受け継がれるタペストリーをまとった特別なバッグを、高田馬場の茶道会館で披露した。立て掛けられた壮麗なフランドル地方のタペストリーが目を奪う一方、足元では簡素で控えめな茶器がコレクションを引き立てる。
「デルヴォー」のジャン=マルク・ルビエCEOは、フランス本国の「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」や「セリーヌ(CELINE)」で要職を歴任してきた人物だ。意外なことに彼が「デルヴォー」に出合ったのも日本だった。
WWD:「デルヴォー」のバッグを初めて見たのは日本だったとか。
ジャン=マルク・ルビエCEO(以下、ルビエ):もう30年前かな。私は「ルイ・ヴィトン」のナンバー2で、日本には何度も出張していた。ある日、銀座の和光を視察していたら、1つのバッグに出合った。シンプルなのに目を引く。瞬時に心を奪われた。しかし、この時点ではどこのバッグか分からなかった。「デルヴォー」だったと認識するのは、何年も後のことだ。
面白いことに、どれだけ時間が経ってもあの日のバッグを覚えていた。仕事柄、毎日のようにバッグを見るのに。
WWD:どのような経緯で「デルヴォー」のCEOになったのか。
ルビエ:2011年に投資会社を設立した。投資先を探す中で、再び「デルヴォー」と出合った。ラグジュアリーブランドは、見た目と機能性それぞれの美しさを作る、「歴史」「デザイン」「ノウハウ」が重要になる。そう考えていた矢先に、それら全てを持つ「デルヴォー」と再会したんだ。その頃の「デルヴォー」は経営難に直面していたが、正しい戦略さえあれば軌道に乗ると感じ、買収を決断した。
14年には日本に進出し、表参道に初めての店舗をオープンした。21年にはコンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT)の傘下に入り、さらなる成長を目指している。
WWD:ルビエCEOが「デルヴォー」を買収したのは、ラグジュアリー市場の変化を感じたからだった。
ルビエ:この頃、ラグジュアリー市場はすでに発展していた。その成長の礎になったのが日本市場だった。1970〜80年代の経済成長と共に、ブランドは一回り二回りと大きくなっていった。ラグジュアリーブランドの成長は、日本がけん引していたんだ。
2011年頃には、元は1つのアイテムから始まったブランドも、バッグやシューズ、ウエアとカテゴリーを横断するようになった。日本や米国に続き、韓国や中国が成長市場に数えられるようになった。そのような過程で、ラグジュアリーブランドはマス化(massification)したわけではないが、標準化した(standardization)とは思う。
WWD:さまざまなバッグがある中、「デルヴォー」にしかないものとは。
ルビエ:ラグジュアリーブランドが標準化する中でも、「デルヴォー」には突出したノウハウ(長い歴史に裏付けられたデザイン技術や製造技術)がある。突飛な見た目でなくても存在感を放つ。美しさと機能性を兼ね備えたバッグに仕上がる。
ラグジュアリーブランドは歴史を感じさせながらも、過去にとらわれてはいけない。ノウハウを維持するだけではなく、進化させていく。こうした姿勢を貫けば、創業の地であるベルギーだけでなく、(ファッションの本場)フランスでも受け入れられると読んだ。
「ブティックはベルギーとその国をつなぐ橋」
WWD:そんな「デルヴォー」のノウハウを伝えるために心掛けていることは。
ルビエ:モノの良さを伝えるには、販売力が欠かせない。販売力を支えるのは、人であり、ブティックである。ブティックは単なる売り場ではない。顧客がブランドのアイデンティティーを発見する場だ。
だからこそ、買収した当時の「デルヴォー」を目の前にしてやるべきことは明白だった。「デルヴォー」が持つ“違い”に目を向け、磨くこと。ラグジュアリーブランドが標準化される時代には、それが何より重要だった。
私たちはブティックのデザインを使い回さない。これは2011年当時としては、全く新しい発想だった。バッグ1つ1つに個性があるように、ブティック1つ1つに個性がある。現在約50店舗あるが、私は(写真で)一部さえ見せてもらえればどの国のどのブティックなのか分かる。
違いは人を遠ざけるものではなく、引き付けるもの。今この場には5人いて、それぞれ生まれも年齢も見た目も異なる。しかし私たちは「人間」という共通点のもと、お互いを理解しようとする。違いは時間をかけて私たちを魅了する。これを「デルヴォー」はブティックとしてやっている。
WWD:その哲学を表参道ヒルズの旗艦店で説明すると。
ルビエ:表参道は、東京で最も素晴らしいストリートの1つだ。長さこそないものの、世界中から人が集まる。活気ある原宿や渋谷、一方では静謐な根津美術館にもつながっている。誰がどの方角から訪れても、その道中を楽しめる。
ブティックは“橋”だ。ベルギーと私たちが上陸した国をつなぐ橋。だから一方通行ではなく、お互いが行き交う場でありたい。例えば、樫の木のモチーフを施したファサードは表参道の並木道を思わせるが、「デルヴォー」のロゴの一部でもある。店の奥へと足を進めれば、ベルギーの観光名所グランプラスをイメージした空間もある。歴史的建造物が描かれた壁面が、まるで広場の中心にいるような気分にさせる。
このように、ブティックにはアイデンティティーを理解してもらうためのヒントを隠している。少し説明してしまったが、これは私たちから発信するのではなく、お客さまに発見してもらいたい。
最新プロジェクト始動の地も日本
WWD:このほど最新コレクション“クラフト ビヨンド ボーダーズ”を発表した。
ルビエ:ここでのアイデンティティーは、クラフツマンシップだ。このプロジェクトでは「デルヴォー」のクラフトが他の国のクラフトと出合う。クラフトが国境を越える。だから“クラフト ビヨンド ボーダーズ”と名付けた。
プロジェクトの始動の地には日本を選んだ。日本はラグジュアリーの世界でもクラフトの世界でも、シンプルな美しさと機能性に定評がある。衣服にも陶器にも見られる特徴だ。そして何より「デルヴォー」との共通点でもある。
“金継ぎ”では金沢の金箔をレザーの継ぎ目にあしらった。“帯地”では京都の職人が、本来は着物の帯に使う織物に赤富士と鯉を描き出した。一方、コレクションにはベルギーのフランドル地方に伝わるタペストリーを用いたバッグも2つ登場する。日本とベルギーそれぞれの織物文化が共鳴し、単なるデザインを超えた対話を生んでいる。
WWD:伝統が伝統と出合ったプロジェクトというわけだ。
ルビエ:私はむしろトレンドが嫌いだ。確かにトレンドを取り入れることはあるが、トレンドを軸に考えることはない。