PROFILE: マルコ・プロブスト=アダム リペス最高経営責任者

デルヴォー再建を成功させた、日本経験豊富なCEO
「アダム リペス」は「ラルフ ローレン(RALPH LAUREN)」や「オスカー デ ラ レンタ(OSCAR DE LA RENTA)」といったアメリカを代表する2ブランドで経験を積んだデザイナーのアダム・リペス(Adam Lippes)が2013年に、“クワイエット・ラグジュアリー”を掲げるシグニチャーブランドとして立ち上げた。ヨーロッパを中心に調達したシルクやカシミヤなどの上質な素材を用い、手作業による刺しゅうや緻密なテーラリングを組み合わせた独自のモダンラグジュアリーのスタイルは、メラニア・トランプ(Melania Trump)大統領夫人ら著名人からの支持も集めている。
プロブストCEOはエス・テー・デュポンに加え、クロエ(CHLOE)でグローバル最高執行責任者、ヒューゴ ボス(HUGO BOSS)で日本法人の最高財務責任者を歴任。その後12年にデルヴォー(DELVAUX)のCEOに就いた。デルヴォーではグローバル戦略を推進し、日本初の旗艦店を表参道に出店。デジタル施策の強化やEC事業の導入なども主導した。
アダム=デザイナーについては、「ファッションにとどまらず、建築やアート、空間デザインにも美学を投影する人物だ。また素材やクラフツマンシップへのこだわりはもちろん、顧客やパートナーに対する敬意も、ブランドの根幹にある価値観に通じている」と語る。「チームは40人ほどで規模は小さいが、情熱とブランドへの深い理解を持つ仲間がそろっている。『デルヴォー』に加わった初日のことを思い出したし、当時と同じ熱量と可能性を感じている」。横山社長とはエス・テー・デュポン時代の同僚だったことから、「共にブランドを育てていける心強いパートナー」と厚い信頼を寄せる。
成長のカギは日本。グローバルブランドを目指すロードマップとは
「アダム リペス」のグローバル化に向けた再構築が着々と進んでいる。まず、「ジル サンダー(JIL SANDER)」や「スポーツマックス(SPORTMAX)」の広告ビジュアルなどを手掛けるパリのデザインエージェンシー、ブーロ パリ(BUERO Paris)と組み、ロゴやウェブサイトを刷新。ブランドメッセージとなるビジュアルアイデンティティーを明確にした。
また卸売中心だったビジネス構造を見直し、直営店展開を強化。これまでNYダウンタウンの1店舗のみだったが、ヒューストンやパームビーチなどに拡大し、現在は米国内に4店舗を構える。中でも、5番街の歴史ある建物に設けたスペースは、予約制のプライベートサロン兼ショールームとして改装し、ショッピングを楽しむ顧客や商談に訪れたバイヤーをもてなしている。
海外進出にも意欲的で、その第一歩に日本を選んだ。プロブストCEOは、「アダムのコレクションを初めて見たとき、日本市場との親和性を感じた。日本の人々の誠実さ、品質へのこだわり、そしてリスペクトを忘れない文化は、『アダム リペス』の世界観と精神に共通する部分が多くある。ここでブランドの価値を正しく伝えることができれば、韓国や中国へと広がる地盤になる」と意気込む。
日本での出店は、表参道エリアが有力候補になる。メイン通りではなく、あえて裏路地のようなロケーションに、5番街のプライベートサロンのような、顧客に寄り添った特別な空間を作る。「日本の消費者はコレクションの素材や縫製から、ブランドの思い、接客の会話にいたる全てにおいてクオリティーを大切にする。まずは信頼できる卸先との取引からスタートし、ポップアップなどのタッチポイントを経て、ゆるやかに認知を広げていく」構えだ。
9月には、フランス製にこだわったレザーバッグをローンチする予定で、アイウエアやビューティカテゴリーの展開も計画している。まずは日本事業をグローバル展開の端緒とし、パリやロンドンなど欧州の主要都市に進出。5年以内に、東京や大阪、名古屋、福岡など日本国内に最大10店舗、グローバルではパリやロンドン、ソウルや北京、上海など計30店舗を出す。
「真のラグジュアリーとは買ったものにどれだけ喜びや愛着を持てるか」
プロブストCEOは現在のラグジュアリー市場で進む“マスラグジュアリー化”への懸念を抱いている。価格高騰とブランドの過剰露出により、かつての“特別感”が薄れてきていると指摘する。「誰もが同じブランドを持ち、どこに行っても同じロゴが並ぶ。そんな時代だからこそ、“本当に自分のための一着”を探す顧客は増えていくはずだ」と語る。「私にとってのラグジュアリーとは、いくらお金をかけたかではなく、買ったものにどれだけ喜びや愛着を持てるか。自分にとって意味のあるものでさえあれば、それは立派なラグジュアリーだ。私たちに大きな広告は必要ない。信頼関係を大事に、ゆっくりと時間をかけながら、ブランドの根を広げていきたい」。