PROFILE: 左:松村北斗/俳優・アーティスト 右:今田美桜/俳優
東野圭吾による同名ベストセラー小説を実写映画化した映画「白鳥とコウモリ」。容疑者の息子・和真と被害者の娘・美令という、本来であれば決して交わるはずのない2人が、それぞれの父親が絡む事件の真相を求めて手を組み、過酷な運命に立ち向かっていく。
人間ドラマの機微を深く抉る本作で、事件を追う中で特殊なバディ関係を築き上げた松村北斗(SixTONES)と今田美桜。初共演となる2人に、東野ミステリーへの挑戦、過酷な役作りの裏側、そして自らの人生のターニングポイントとなった「大きな選択」について聞いた。
第一印象は「仕事人」?
撮影現場で変化したお互いの印象
——東野圭吾さんの小説はこれまで数多く映画化されていますが、今回この記念碑的とも言えるミステリー作品への出演が決まった時の思いをお聞かせください。
松村北斗(以下、松村):東野さんの作品は、人間模様が色濃く描かれているものもあれば、エンタメ要素が強いものもある。その中で本作は、これまでの作品とはまた少し雰囲気の違う、独特な空気感を持った作品だなと感じました。そんな挑戦的な作品に参加できることは、役者としての好奇心という意味でもすごく嬉しかったです。
今田美桜(以下、今田):私も同じように、東野さんの数あるミステリー作品の中でも、今までにない全く新しい2人のバディ関係が描かれているなと感じました。私が演じた美令は、さまざまな事件に翻弄されながらも、最終的にはそれまでの常識や立場が変わってしまう境遇に置かれます。美令としてこの物語の世界に深く入っていくことがとても楽しみでしたし、彼女の心の機微や感情の流れを何よりも大切にしながら演じようと心に決めていました。
——お2人は今回が初共演となりますが、ご一緒する前の第一印象と、撮影を通じてそこから変化したことがあれば教えてください。
松村:もともとは、すごくシャキっとした方なのかなというイメージを持っていました。それと同時に、すごくお忙しそうですし、現場でも常にクールで大人な雰囲気の「仕事人」という勝手なイメージがあって、実はちょっと緊張していました(笑)。でもいざお会いしてみると、ものすごく柔らかい方で。むしろ今田さんが現場にいてくださることで、その場にいるみんなが緩やかで温かい時間を過ごせるようになる。そんな素敵な空気感をお持ちの方だったので、「最初から緊張する必要なんてなかったな、緊張して損したな」と思いました(笑)。
今田:(笑)。確かに、それで言うと私も松村さんに似たイメージを持っていました。本当にたくさんの表情を持ってらっしゃる方ですが、作品がシリアスなテーマを扱っていることもあり、現場ではあまりみなさんとお話しされないクールな方なのかなと勝手に思っていたんです。少し冷たく見えてしまう部分もあるのかな……と身構えていたところもありました。でも全然そんなことはなくて、現場では本当にたわいもない話から明るくお話ししてくださって。笑顔もたくさん見せてくださったので、一気に緊張がほぐれてほっとしたのを覚えています。
——劇中では、それぞれの父親という存在が2人の運命を決定づけていきます。役作りの上で特に意識されたことはありますか?
松村:僕は自身の演じた和真というキャラクターに関しては、父親との「関係性」と「距離感」を一番意識していました。彼は一人暮らしを始めてから、父親とどういう物理的・心理的距離感で関わってきたのか。撮影に入る前に自分の中でそこをきちんと整理し、明確な線引きを持って演じるようにしていました。物語の進行とともに2人の関係性がただ変わっていくというよりは、会っていない「空白の時間」があるからこそ、それが少しずつ埋まっていく、あるいは何かがひっくり返っていくような、関係の深まり方を意識していました。
今田:私の場合、美令の父親を演じられた中村芝翫(しかん)さんとは、撮影スケジュールの関係もあり現場で一瞬お会いできただけで、お芝居の中で直接関わる瞬間が全くなかったんです。そのため、家族という点では、被害者遺族という同じ立場でありながら一番近くにいた母との関係性をすごく大切にしていました。母を説得する時の表情だったり、目の前で泣き崩れている母に対して凛と立っていようとする姿。そうした「母に見せる娘としての姿」と、「和真と出会って、ともに真実を追い求めていく姿」の対比や違いを大事に表現したいと考えて演じていました。
「唯一の理解者であり、救いだった」
2人を繋いだ特殊な絆
——本来であれば、容疑者家族と被害者遺族という決して相容れない関係にあるはずの2人ですが、その出会いはそれぞれの役にとってどのような影響をもたらしたと感じていますか。
松村:敵対する相手としての出会いではありながら、この複雑な事件と過酷な状況において、ある種お互いが「唯一の理解者」でもあるんですよね。だからこそ、2人は協力し合い、バディになっていく。それは単なる友情や同情を超えた、非常に特殊で、何ものにも代えがたい「戦友」のような関係なのかなと思いました。不思議な信頼関係がそこには生まれていましたね。
今田:そうですね。美令にとっても同じでした。母親や弁護士さんに自分の思いを伝えるシーンはありますけど、同じ遺族という立場であっても、心の奥底にある思いは少しずつズレていて……。常に言葉にできない孤独を抱えていたんです。そんな時に、本来なら出会うはずのなかった和真と出会い、彼も同じような葛藤や思いを抱えていると知ったことは、彼女にとって大きな「救い」だったのだと感じています。
——劇中での美令と和真は、これまでの日常が壊れるかもしれない、傷つくかもしれないと分かっていても真実に向き合う選択をします。もし、お2人ご自身が「知らない方が幸せかもしれない」という辛い真実に直面した時、それでも真実を知りたいと思いますか?
松村:僕は、グレーな状態のまま宙ぶらりんにされているのが一番嫌ですね。確かに世の中には「知らなくていいこと」もあるとは思うのですが、白黒つけられるのなら、たとえそれが勘違いや嘘であっても、はっきりとどちらかに決まってほしい。真実を知ることのつらさよりも、曖昧なグレーな状態で最悪な妄想を膨らませてしまうことの方が、個人的には一番しんどいなと感じます。
——早く決着をつけたい、というタイプですか?
松村:そうですね。ただ、実際に何か大きなことを決断するとなると、多少は慎重に考えますけどね。
——今田さんはいかがですか。
今田:時と場合によるというのは大前提としてありますが、私も「あの時、真実を知っておけばよかった」と後から後悔するくらいなら、たとえその真実がつらいものであっても、「知って後悔する方を選びたい」と思うタイプかもしれません。
——仕事や人間関係など、人生の中で特に「白黒はっきりさせたい」と思うジャンルはありますか。
今田:自分の将来については、むしろ知らなくていい、白黒つける必要はないなと思っています。でも、仕事と人間関係は、そもそも正解がないことの方が多いからこそ、白黒はっきりさせたくなるのかもしれないですね。
父親から受け継いだ
自らの「軸」となる教え
——劇中で父親の存在が2人に決定的な影響を与えているように、お2人ご自身が父親や、父親のような存在から受けた教えで、今でも大切にしている「軸」はありますか。
松村:僕は昔、空手を習っていたのですが、途中でどうしても辞めたくなってしまった時期があって。その時に父親から「じゃあ、あと半年間だけしっかり考えながら続けなさい」と言われたんです。子どもながらに「それって強制的にやらされてるだけじゃん」と思ったのですが(笑)、半年間真剣に続けているうちに、いつの間にか「やっぱり続けようかな」という気持ちになっていて。物事をただ継続することが全て正しいわけではないですが、自分が突発的に抱いた「辞めたい」というネガティブな気持ちに対して、どう誠意を持って向き合うか。その向き合い方を学んだ経験が、今でも自分の軸として残っています。このお仕事をしていて、どんなに苦しくてしんどい時でも、あの時の教えがあったから乗り越えられました。「苦しい時間はただ経験値が溜まっているだけで、本人は気づかないけれど、それが溜まりきった瞬間にいきなりレベルが上がるんだ」と信じられるようになりましたね。
今田:私はこのお仕事を本格的に始める時の決断ですね。もともと地元(福岡)で芸能活動をさせていただいていて、高校を卒業して上京するタイミングで、私は「この仕事一本で勝負したい」と考えていました。でも、両親としては「大学に行ってほしい」という思いが強く、何度も話し合いを重ねたんです。最終的に私の熱意を尊重してくれたのですが、その時に父から「一旦、22歳になるタイミングでもう一度将来を考えなさい」という期限付きの約束を提示されました。周りの同級生が大学を4年で卒業し、新しい進路を選択するタイミングと同じだから、と。当時は18歳だったので、「もう4年しかない、時間がない」とすごく身が引き締まりましたし、覚悟が決まりました。急いで結果を出さなきゃいけないという焦りもありましたが、あの約束があったからこそ、上京という人生最大の大きな決断ができた。今振り返ると、両親からの「やるからには後悔のないよう、思い切ってやりなさい」という温かいエールだったのだなと、感謝しています。
自らの意志を貫いた
「人生を変えた選択」
——本作は登場人物たちが過酷な運命の中で「人生を変える大きな選択」をしていく姿が描かれますが、お2人にとって、これまでの人生で「今の自分を形作った最大の選択」は何ですか。
松村:僕は、やっぱり「この仕事を始める」という決断ですね。オーディションを受けたくて、自分で履歴書を書いて送ったのですが、なかなか返事が来なくて。子供ながらに「ダメだったんだな」と諦めかけつつも、期間を空けてまた書いて……と、結局3回も履歴書を送り直したんです。3回目を送ってしばらく経った頃にようやく連絡をいただけて、今の自分があります。あの時、諦めずに粘り強く送り続けたのは、今考えると不思議ですね。大人になった今なら、一度ダメなら「縁がなかったんだな」と引いてしまうかもしれない。当時はただただ無邪気で、「自分が芸能界で表現をする」ということを、何の根拠もなく強く信じて疑わなかった。だから、連絡が来ないのは「何かの手違いか、エラーが起きているだけなんじゃないか?」って本気で思っていたんですよね(笑)。
今田:私は先ほどもお話しした、高校卒業時の「上京する」という選択です。それまでの私は、両親との話し合いで自分の意見を押し通したり、どうしてもやりたいとわがままを突き通したりすることがほとんどない子どもだったんです。いつも「まぁ、いいか」と周りに合わせてしまうタイプでした。そんな私が、人生で初めて自分のブレない意思を両親に伝え続け、上京を決めました。あの時、自分の「やりたい」という熱い気持ちを信じて突き進んで本当によかったと思っています。当時は、どうすれば両親に自分の想いが伝わるかを高校の先生に毎日のように相談していて。その先生とは今でもすごく仲良くさせていただいているのですが、上京という大きな選択を支えてくれた先生には、今でも心から感謝しています。
PHOTOS:TAKAHIRO OTSUJI
STYLING:[HOKUTO MATSUMURA]SO MATSUKAWA [MIO IMADA]MASAKO OGURA
HAIR & MAKEUP:[HOKUTO MATSUMURA]KANAKO HOSHINO [MIO IMADA]AIKO TOKASHIKI
[HOKUTO MATSUMURA]ジャケット 18万9200円、Tシャツ 5万2800円 、パンツ 10万4500円/全てアワー レガシー(エドストローム オフィス 03-6427-5901)、その他/スタイリスト私物 [MIO IMADA]ドレス 8万5800円/カナコサカイ(カナコサカイ info@kanakosakai.com)、シューズ/スタイリスト私物
作品概要
■「白鳥とコウモリ」
9月4日から全国公開
監督:岸善幸
出演:松村北斗 今田美桜
柄本佑 前原滉 井之脇海 宇野祥平
松岡依都美 松尾諭 丸山智己 三浦誠己 斉藤陽一郎
原田琥之佑 のせりん 漆山拓実 五頭岳夫
中村芝翫(特別出演) 井川遥 吉田羊 風吹ジュン
三浦友和
原作:東野圭吾「白鳥とコウモリ」(幻冬舎文庫)
脚本:向井康介
主題歌:大森元貴「灰色」(ユニバーサル ミュージック / EMI Records)
制作会社:テレビマンユニオン
配給:松竹
©2026「白鳥とコウモリ」製作委員会
映画「白鳥とコウモリ」公式サイト




